クリエイターズマーケットで販売している作品について
早速ですが、クリエイターズマーケットで販売されている作品についてお聞かせいただけますでしょうか。
AISATO様:私が3Dソフトで制作しているものは、アクセサリーやジュエリーになります。
主にネックレスやイヤリングをDMM.makeのクリエイターズマーケットで販売させていただいています。
ありがとうございます。クリエイターズマーケットで販売されるきっかけは何だったのでしょうか。
AISATO様:DMM.makeは、日本で最も3Dプリンターを認知されていて、幅広いユーザーの方がいらっしゃるので掲載させていただいております。
もともとは海外のECサイトでアクセサリーの販売などをしていたのですが、国内で同様のサービスを検索していたところ、「クリエイターズマーケット」を発見し、掲載させていただいています。
3Dのデータ作成を始めたきっかけ
3Dのデータ作成を始められたきっかけは何だったのでしょうか?
AISATO様:私はアメリカの大学と大学院で建築を学びました。大学院で建築の模型などを作るのに3Dプリンターを使っていました。
2005〜2006年頃だったと思うのですが、3Dプリンターで模型を提出することが授業の中で義務化されたので、その頃に大学院で3Dソフトを学び始めたことがきっかけです。
バックグラウンドとしては建築系を学ばれていたのですね。建築からアクセサリーに移られたきっかけは何でしたか?
AISATO様:大学院を卒業した後、ロンドンのザハ・ハディッド氏の事務所に就職して7年ほど働いていました。
そこでも建築の模型は3Dプリンターで作っていたのですが、建築を形作る過程の中で、様々な形状スタディをおこないます。
私が入社したばかりだったころ、小さなスケールで多くの形状スタディを3Dプリンターで出力して、という作業を担当することが多かったんです。
実際に建築する段階までいかなかったとしても、コンペを行う際などには毎回作っていました。
当時、リーマンショックなどの影響で不景気だったこともあり、担当プロジェクトが次々とキャンセルになったり、なかなか現実に建設されることがありませんでした。
そこで、30歳目前になり、「自分でデザインしたものを、形として残したい」と思うようになりました。
仕事でもよく使用していた3Dプリンターの技術を応用し、自分自身へのプレゼントとして指輪を制作したことが、アクセサリー作りを始めたきっかけです。
ザハ・ハディッドさんの事務所だと、かなり有機的な形が特徴ですよね。
使っているCGソフトについて
3DCADを利用されているというより、3DCGソフトをお使いなのでしょうか?
AISATO様:私が使っているのはAutodeskさんが出しているMayaです。
あとはRhinocerosも使っています。
普段から有機的な形状を作られていて、その経験をアクセサリー作りに活かすことができたのですね。
アクセサリーを作るのは、はじめから3Dプリントを想定されていたのでしょうか?
AISATO様:そうですね。最初は自分が使うために作り始めました。
私は形状を作ること自体は好きですが、絵はそこまで上手いわけでもないですし、造形物がキレイに作れるわけでもありません。
ですが、3Dプリンターは自分の頭の中で思い描いたデザインをパソコン上で作り上げ、そのまま1mmもズレることなく、実物として生み出せることにすごく魅力があるなと感じています。
そうですよね。他の作家さんですと、アナログな手法から3DCADを使ったデジタルの手法に移行される方が多いんですよね。
AISATO様:私の場合は3Dプリンターありきで制作活動を続けていますね(笑)
出品物の制作過程について
作品を拝見すると、どの作品も有機的な形状で作られている印象を受けました。
3Dプリンターでないと作ることができない形状が多いイメージですが、実際にどのような過程で作られているのでしょうか。
AISATO様:私はもともと、大学院で生物のパターンや進化していく過程などを建築物に取り組んで、どのように形にするかという研究をしていました。
その頃に学んだ知識や経験を応用して作ることが多いです。
パソコン上でデザインすると、例えば、線の太さをすべて同じにすると簡単だったりするのですが、機械的な印象を受けがちです。
有機的な形状にするために、所々に強弱をつけて細い部分や太い部分を付けるなどの工夫をしています。
ソフトで作り出した完璧な形態ではなく、自分自身のオリジナリティを取り入れながらデザインをするように意識しています。
なるほど。生物のパターンというと、ある意味で一種のアルゴリズムというか、規則性がありますよね。
AISATO様:そうですね。なので、そのままデザインするというより、少し動きが出るような形状をデザインするようにしています。
たとえば、パターンをスクリプティングやコーディングで描いたあと、4D上のアニメーションにかけます。
その後、スナップショットした一部分を取り出して最終形状に落とし込んでいくというやり方をしている作品もあります。
非常におもしろいですね。そこで切り取った形に対して、さらに太くしたり細くしたりといった微調整を入れているのでしょうか。
AISATO様:そのとおりです。先の太さの強弱もCGソフトの数値上で変えていますが、実際に目で見たときの美しさや、ピアスとしての着用感、構造的な強度などはマニュアルで作業しています。
DMM.makeで選択した素材について
クリエイターズマーケットで選ばれている素材は何が多いのでしょうか?
AISATO様:主にナイロンです。
一部の作品では金属を使っています。
シルバーやゴールドなどの金属系は、ジュエリーで使われている素材なのでイメージがわきます。
一方で、ナイロンを選んでいる理由は何かございますか?
AISATO様:ナイロンは大ぶりなサイズ感でも、重量が非常に軽くて丈夫という特徴があります。
3Dプリンターは体積によって費用が変わるので、少しでも費用を安く抑えるために線状のデザインにすることが多いです。
線状のデザインだと強度が不安になりますが、接点を多くして構造的に強くする工夫を凝らすことで、丈夫で軽いアクセサリーの制作が可能になりました。
それと、自分で好みの色をつけられるメリットもあるので、ナイロンを使っています。
ありがとうございます。DMMでも染色オプションのご用意はありますが、ご自身で販売されるときは、ご自身で染色されているのでしょうか。
AISATO様:自分で染色しています。そうすることで、注文後に色を付けられるので、余分な在庫を抱えなくて済むんです。
私の場合は、白のナチュラルなものをマニュアルで染色して販売しています。
たしかに在庫管理の問題もありますよね。
AISATO様:あと、色付けの選択肢が限られてしまうこともあります。
たとえば、一言で「イエロー」といっても、マスタードがかった色やライトな色、蛍光色など、様々な色付けがあります。
色付けの自由度が広がるので、この部分は手作業で染色しています。
参考になります。ありがとうございます。
クリエイターズマーケットで販売して大変だったこと
3DCGソフトを使ってアクセサリーの制作・販売をされていますが、これまでに大変だったことは何かございますか?
AISATO様:好きでやっている感じなので、そこまで大変に感じたことはありません。
ただ、制作しても売れないと意味がないので、お客さまからのニーズは常に意識しています。
ポップアップで店頭に立つこともありますが、そこでお客様の反応を見ながら、「どういうものが好みで、需要があるのか?」ということは常に考えています。
あとは、ブランディングですかね。
パッケージやディスプレイ、着用写真など、見せ方で印象はかなり変わります。
制作活動以外に販売へつなげるためにいろいろと試行錯誤しています。
ありがとうございます。今の販売活動やブランドの認知活動は、インスタグラムがメインになるのでしょうか。
AISATO様:認知活動としては、インスタグラムももちろんですが、それ以外では店舗にいくつか置かせていただいています。
それを見て問い合わせをしてくださるお客様もいます。
ただ、販売方法としてはオンラインでの活動がメインになっています。
コロナ禍ですと、ポップアップへの出店も減ってしまいますよね…。
AISATO様:そうですね。
私の作品は大きくて派手なものが多いので海外の人に好まれるのですが、コロナで外国からのお客さまが減ってしまったのも痛手になっています。
アクセサリー作りを始めて良かったこと
逆に、アクセサリー作りを始めて良かったことは何かございますか?
AISATO様:デザインの自由度が高くて、すべてを自分でできるところに魅力があるなと感じています。
何かを作るとなった場合、普通は業者に委託して、自分のデザインの意図を伝えて、とワンクッションが入りますよね。
たとえば、通常ジュエリーを作ろうとしたら、金属の職人さんを探して依頼するというステップになりますが、その手間をすべて飛ばして自分でできる点は非常に良かったと思います。
デザインの自由度というのは、建築でのデザインと比較して自由度が高いのでしょうか?
AISATO様:そうですね。建築業でいうと、構造的に作れないデザインもありますし、コスト的に作れないこともありますし…。
そういう点で、ジュエリーは自由にデザインできるのが良い部分ですね。
逆に、何でもできてしまうので、自由すぎて難しいと感じることもありますが(笑)
自由にデザインできる部分はメリットでもあり、難しい部分でもあるのですね。
ピアスを制作する場合、どのような観点でデザインされていますか?
AISATO様:重すぎず、構造上、丈夫じゃないといけないので、すぐに壊れないデザインであることも重視しています。
職人を通さずに自分でできるというお話がありましたが、ご自身で金属の鋳造をされることもありますか?
AISATO様:そのあたりはまったくしていません。
値段とバランスを見ながら、安い場合は3Dプリンターの業者さんに一括でお願いしています。
結婚指輪でダイヤをつけるような大切なものなどや、プラチナを使うものに関しては、職人さんにお願いすることもあるので、ケースバイケースといったところでしょうか。
ただ、職人さんに依頼する場合でも、3Dプリンターは活用しています。
本番を作る前の段階で、デザインの意思や意図を告げるために、3Dプリンターで出力したものを利用しています。
ジュエリー作りという観点では、3Dプリンターは頼もしい存在になっていますね。
DMM.makeを使い続けている理由
DMMを長くお使いいただいていますが、その理由はどういった部分にあるのでしょうか?
AISATO様:「国内で作れるので仕上がりが早い」という部分です。
最近は値段が上がってしまいましたが、その前は非常にリーズナブルな値段だったので、よく使用させていただいていました。
クリエイターズマーケットで出品いただいていますが、出品して感じたことは何かございますか?
AISATO様:マーケットに出店し始めた頃は「ネットで◯◯を見た」というお客さまがポップアップに来てくれたことがありました。
SNSとあわせて発信することで、たくさんの人に作品を知っていただけるようになりました。
今後の活動で挑戦したいこと、取り組みたいこと
今後の活動でやっていこうと思っていること、挑戦してみたいことはございますか?
AISATO様:現在もいくつか作っているのですが、3Dプリンターを使った照明のデザインやアートワークに挑戦したいです。
あと、もともと建築関係の仕事をやってきたので、インテリアや建築空間の中で使えるようなスケールの大きいものを作っていきたいなと考えています。
AISATO様:最近は、時代の流れ的にサスティナブルな素材を探しています。
リサイクルされたプラスチックを使うとか、環境に優しい素材のものを使ってアクセサリーを作れば、それが付加価値としてプラスできるのではないかと思っています。
今後の制作活動もすごく楽しみですね。これからもどうぞよろしくお願いいたします。
※インタビュー内容は取材当時のものです。