3Dプリンターを活用した制作活動や制作物の概要
まずは、古川様のコミュニティでどのような活動をされているのか、簡単にご説明いただけますでしょうか。
古川様:よろしくお願いいたします。
僕は埼玉大学で教員をしていて「アルケミスト」というコミュニティを運営しています。
もともと学術における「化学」は、学校のテキストなどで読むと内容が小難しかったりしますよね。
そもそも僕たちが取り扱う化学の最小構成単位は、「分子」や「原子」とよばれる目に見えないものなので、とにかくイメージしづらくて内容がわかりにくいんです。
そのような化学の内容を五感で感じられる形で表現して、それをエンタメや教育商材として、一般の方や化学が好きな方に提供していくという活動を「アルケミスト」でおこなっています。
コミュニティの活動の中で、弊社の3Dプリントサービスをご利用いただいていますが、実際にどのような物をつくられましたか?
古川様:今回の発注分でお願いした案件は、「目に見えない分子」を6cmくらいのサイズ感に拡大して造形した模型になります。
実際の縮尺としては、分子の大きさを1億倍のスケールで拡大して、それを模型として具現化しました。
古川様:どういう分子を具現化したかというと、ノーベル化学賞の受賞に携わるような分子を取り上げました。
「その分子がなぜノーベル賞に至ったか」という理由を解説した紙と一緒に「カプセルトイ」に入れて、教育+エンタメという形の模型として使わせていただきました。
カプセルトイは、実際に販売までされたのでしょうか?
古川様:最初は一部、営利でやりましたね。
その当時は自分で家庭用の3Dプリンターを購入して作っていました。
ありがとうございます。実際に具現化された分子というと、どのようなものですか?
古川様:DNAとかビタミンとか、みなさんが知っている分子から意外とマニアックなところまでさまざまあります。
60個の炭素が連なってサッカーボールのような形をしているものもあって、見た目も美しいので、オブジェクトとしても良いのかなという感じです。
DMM.makeを使い始めたきっかけ
ご自身でも3Dプリンターを購入されているとのことですが、DMM.makeを使い始めたきっかけは何だったのでしょうか。
古川様:作れば作るほど、僕の人件費と材料費などコストがかさんでしまって、一個売れるといくらマイナスみたいな世界だったことが理由です。
あと、小ロットで造形していたものですから、コストの面も相まって、自分で3Dプリンターを使って作ることに限界を感じていました。
そこでDMMさんの造形サービスを利用させていただいたという感じですね。
なるほど。ご自身で造形されていたものの、工数が厳しいために外注サービスを検討されていたのですね。
DMM.makeの造形サービスは、そのときに調べていて偶然見つけていただいたのですか?
古川様:以前、別の会社に所属していたときの知り合いに紹介してもらいました。
Twitterなどに画像をアップするとすごく反響をいただけるので、僕としても造形は続けたいのですが、コストの問題が大きくて…。
DMM.makeに発注させてもらうようになってから、だいぶ助けていただいています。
ありがとうございます! ご自身で造形されていた頃は、家庭用の3Dプリンターで出力して染色までされていたのでしょうか。
古川様:染色までしていましたね。本当はさらに広く展開していきたいんですが、非常に歩留まりが悪いので…。
やればやるほど僕が疲弊していくという環境だったので、「DMM.makeに頼るほかない」という結論にいたしました。
3Dプリンターを活用しようと思った経緯について
分子模型を3Dプリンターで作ろうと考えたきっかけは何だったのでしょうか?
古川様:先ほどもお伝えした通り、僕たちが扱う学問では、目に見えない最小単位の「分子」や「原子」を取り扱っています。
目に見えないので、一般の人からするととっつきにくいイメージがあって、学生さんが勉強するときにも好き嫌いが分かれてしまいます。
実物を目で見て、手で触って、五感で感じられるほうが学習効果は高くなると考えています。
たとえば、生物や物理などは目に見えるので覚えやすくていいんですよね。
「学問」として捉えると堅苦しいイメージがあります。
なので、もう少しカジュアルに捉え、楽しみながら勉強をするスタイルの一環として、3Dプリンターを活用しようと思いました。
そして化学を専門としない人に「何これ、おもしろい!」と手に取ってもらえる物を考えたとき、カプセルトイというツールが強力だと考えました。
そのサイズ感で何かを作ろうと思ったときに、3Dプリンターが最適だと思ったんです。
欲をいうと、この活動をマネタイズして自立させたいと考えています。
日本の学術界は税金に依存している部分が大きくて、それとは別のマネタイズ手法を兼ねてから模索していました。
営利活動として「化学」をコンテンツにしつつ、一般の人から対価をいただく。
それを基礎研究に当てるというようなサイクルを作ることがいまの僕が目指すロールモデルです。
国税に100%依存しない基礎研究のアプローチという感じで、今回の3Dプリンターを活用した事例は、その活動の一発目として取り組んでいます。
参照:note カプセルトイを作るきっかけ:https://note.com/archemist/n/nee3aaf678b7e
制作に使う3Dデータについて
3Dプリンターでモノづくりをされる上で、3Dデータの作成は欠かせない部分です。
そのあたりは、どのように学ばれたのでしょうか?
古川様:ほぼ自力ですね。もともと、化学の分子を三次元的に描画する特殊な拡張子のソフトウェアがあるんです。
僕たちが研究で使う描画形式があって、そういったデータをSTLだとか3Dプリンター用のデータに強引に変換したという感じです(笑)
なるほど。化学式から分子をCGで見られるようなソフトがあって、そこから書き出した拡張子をなんとか変換されたのですね。
古川様:そうですね。
非常にニッチな内容ですが、その方法を記事にしてアーカイブ化しています。
僕の知り合いに「全部アーカイブ化しろ!」と勧めてくる人がいて、仕方なくまとめた感じです(笑)
今の僕自身、3Dモデリングをするスキルはないので、とりあえずこの方法で対応していますね。
これから挑戦される方にとっても貴重な情報だと思います。ありがとうございます。
参照:note STLデータの作成方法:https://note.com/archemist/n/n891dbeb1024f
DMMで使っている素材や造形サービスを利用して感じた変化
ご自身で造形されていた頃と比較して、DMM.makeをご利用いただいて変化したことは何かございますか?
古川様:製品のテクスチャが非常にキレイになりました。
それはもう感動的なキレイさで、どういう装置や材質を使っているのかという部分にも興味があります。
やはり、3Dプリンターを使って実際に作っている人からするとぜひ知りたい部分だと思いますね。
ありがとうございます! 造形にお使いになられた素材は何ですか?
古川様:タフ・透明タイプレジンです。
見た目がキレイで、かつ透明性があって、コストが安くてそこそこの耐久性があること。
これら4点を素材選びの選定基準にしました。
他の素材もお試しいただきましたか?
古川様:ナイロンやAGILISTAなども試させていただきましたね。
詳細はあまり覚えていませんが、どの素材も非常に質感が良くて、染色具合もまったく問題ありませんでした。
ただ、我々のような非営利活動だとそこまで大きな予算を回してもらえないので、コスト的に難しくて断念した素材もあります。
実際の造形物もご納得いただける品質だったようで安心しました。
古川様:本当にキレイで驚きましたね。
サポートが付いていた痕跡も見当たりませんでしたし…。
ご発注いただいてから、こちらである程度はサポートを除去してお送りしています。
丁寧に磨いたり、クリアな素材に関しては最後にクリアの塗料も吹いています。
古川様:なるほど。テクスチャがキレイで非常に満足しています。
ただ、昔に比べて少し値段が上がってしまいましたね。ただ強度が上がったように感じています。
価格に関しては為替の影響もあって少し値上がりしています…。強度に関してもかなり品質が上がっているかと思います!
古川様:市販の光造形のレジンは、落としただけですぐパキッといっちゃうんですよ。
自分で作るときは割れにくい素材を混ぜたこともあるのですが、歩留まりが悪い上に再現性がなくて厳しかったですね。
ご自身で混ぜられると、パラメータの調整とかも大変ですよね。
古川様:そうですね。同じデータでやっているのに、「上手くいくときと上手くいかないときがあるのは何故だろう?」みたいな感じでした。
そういう意味で、DMM.makeにお願いするようになって、確実な個数を確実な期間に納品いただけるようになって、大変満足しています。
3Dプリンターでの制作活動の継続有無や主な実績
今回造形された物は、今後も継続してご発注いただくご予定はありますか?
古川様:恐らく、今年度分の予算はもうそろそろ消化してしまうので、来年度の予算がつき次第といったところです。
また案件として受理されれば、継続的、かつより大きな規模で活動できるのではないかと期待しています。
どれくらいのボリュームをご注文いただいたのでしょうか。
古川様:全部で500は行かないくらいのボリュームです。
今後はもう少しロット数を増やしたいと考えています。
かなりのボリュームですね。1つのデータに可能な限り詰め込んでアップロードされている感じでしょうか。
古川様:そうですね。
「それで1セット」という形で発注させてもらっています。
結構な数を作られているのですね…!
古川様:そうですね。これでも本当はまったく足りていません。
中学校とか高校で、サイエンススクールやサイエンスカフェといった行事があるんですね。
そういった行事に、我々が作っている制作物を無償でお配りさせていただいているのが主な使用用途になります。
非営利でやっている案件については、ターゲティングした層にアプローチできていて、確実に物を届けられるようになりました。
今回、DMM.makeに依頼させてもらったことは今後の提案をする際の良い実績になったと思っています。
ありがとうございます。学問だとか学生さんのためになるようなお手伝いができていると思うと、我々も嬉しく感じます!
今後の展望や取り組んでみたいこと
今後の制作活動で、取り組んでみたいことや展望などは何かございますか?
古川様:これまで以上に大きな造形物を作ってみたいですね。
今回のような分子模型をさらに巨大化してみたいということでしょうか。
古川様:そうですね。
実は分子模型のキットっていろいろな会社さんから販売されているんです。
でも、数がそこまで出ないせいか、単価が高いのと、あまり格好良くないんですね。
そういったことも踏まえて、「これを組み立てれば、もはやアートだよね!」というようなオブジェクトのパーツを作って、こちらで組み立てるみたいなことをしてみたいと考えています。
化学と親和性の高いハイエンドなブランドさんとコラボレーションして、アート作品として納品するというような活動にも挑戦してみたいです。
それは非常におもしろそうな取り組みですね!
古川様:ありがとうございます。
ただ、如何せん僕自身にCADや3Dモデリングの技術がないこと、予算やタイアップ先をどうするか、という点が大きな課題になっています。
取り組んでみたいとは思っているものの、クリアしなければならない課題のハードルが高いので、実装にはいたっていないという段階です。