活動内容と3Dプリンターを利用するシチュエーションについて
さっそくですが、アーティストとして活動されているとのことで、どういったものを制作されているかお聞かせいただけますでしょうか?
コジマ様:私が自分の作品を説明するとき、実はいつも難しいと思っています。
アーティストやジュエリーデザイナーと名乗っていますが、ジュエリーとしては私の作品はすごく彫刻的なものに見られがちなのです。
一方で、絵画や彫刻などの純粋な芸術家の人たちからするとファッションの作品だと見られることも多いんですね。
たしかに、ホームページやインスタグラムなどを拝見すると、ジュエリーでありつつもアートの領域にまでいたっている印象を受けます。
コジマ様:ありがとうございます。
「ファインアートとファッションの間なんだろう」と言われることも多くて、自分でもそのように思っています。
非常に言葉で表しにくい部分が多いので、実際に作品を見ていただくのが一番早いかなと考えています。
制作活動に取り組まれる際、制作のプロセスといいますか、モノを作っていく中で大きさやデザインが変わってくることはございますか?
コジマ様:私の制作活動は、大きく分けて2つに分類されます。
オーダーをいただいてクライアントと相談しながら作るもの、私が自発的に作って発表する作品の2種類ですね。
クライアントからのオーダーに応じて作るものは、お客さんの好みや使用されるシーンを伺いながら、ベストなモノを共に作り上げるイメージです。
一方で、私が自発的に作って発表するものに関しては、一言でいえばその時の私次第なので、決まっているデザインというのはとくにありません。
ただ、巨大なものや極小なものより、手のひらサイズの大きさが好みではあるので、おおむねそれくらいのサイズ感になることが多いですね。
これまでの活動の中での制作手法の変化について
3Dプリントを導入したことで、それまでの制作手法から大きな変化はございましたか?
コジマ様:3Dプリントに限らない話ですが、まず「アナログか? デジタルか?」という点はすごく大きな違いだと思っています。
2009年くらいから作品を発表し始めてもう十数年になりますが、最初はAdobeの「Illustrator」や「Photoshop」など2Dの技術を使っていました。
当時は3Dのスキルが手元になかったので使えませんでしたが、いまは積極的に3Dを扱っているので、その点は大きな違いとして挙げられます。
私がものづくりを始めるときには完成品のイメージが出来上がっているのですが、3Dを含むデジタル技術でデザインをしていくと、最終のアウトプットまでのブレが少ないと感じています。
デジタルは3年前くらいから使い始めましたが、私の制作活動にとても合っているなと思っています。
なるほど。それまでの制作活動では、CADやモデリングのツールはあまり触ってこられなかったのでしょうか?
コジマ様:そうですね。自分でやる手段がなかったので、技術者の方にお願いしてデータを作っていただいたことはあります。
今はほぼ自分で3Dデータを作っていますね。
コジマ様が描かれたスケッチなどを元にして、技術者の方にデータを作ってもらっていたのですか?
コジマ様:そうです。ただ、やはりデータは自分で作らないと最終的な形が変わってしまうのがネックでした。
イメージを形にする工程を他の人に任せてしまうと、職人さんと何回もやりとりをする必要がありますし、なかなか自分で納得できない部分も多かったんですよね。
工芸をされている方だと、手仕事によって完成度を上げていくことが重要かと思いますが、私は自分で仕上げることにあまりこだわりはないんです。
重要なのは、「完成した作品が最終的に美しいかどうか?」「見たことのないイメージが具現化されているかどうか?」
そのような点が大事なので、そのための手段はあまり問わないという感じです。
今のほうが作業量は増えていますが、自分の理想の形に近付いているのでストレスはなくなりましたね。
DMM.makeを知ったきっかけや使っているソフトウェアについて
弊社のサービスを知ったきっかけはなんでしたか?
コジマ様:3Dプリントを使っているアーティストの友人から聞いたことがきっかけだった気がします。
DMMの社名は存じ上げていましたが、「えっ、3Dプリントをやっているの?」と驚いた記憶があります。
いくつかウェブサイトを見比べてみて、アップロードしてからの見積もりの早さとか、使いやすさでDMMさんを選びましたね。
現在、お使いになられているソフトウェアについても教えていただけますでしょうか。
コジマ様:作品の形によって変わりますが、基本的には「Rhinoceros」と「ZBrush」です。
ゴールドやプラチナ、宝石をふんだんに使うようなハイジュエリー的な作品の場合は、「MatrixGOLD」というジュエリーCADを使っています。
ありがとうございます。パソコン上でデータが完成したら、3Dプリント以外の方法で形にしていくケースもありますか?
コジマ様:ちょうど今進めている作品は、金属を切削して形にしています。
切削でしかできないような、ギンギンに研ぎ澄ませた精度で削り出すのが適している場合は、金属切削や樹脂切削を選択するケースもあります。
あとは木工旋盤を使うこともありますが、基本的には3Dプリントと切削のどちらかになることが多いですね。
3Dプリンターを活用するに至ったいきさつ
最初に3Dプリントを使おうと思ったのには、どういったきっかけやいきさつがあったのでしょうか?
コジマ様:初めて3Dプリントをまともに使った作品は、事前にお送りした画像のような左右対称でかっちりとした形状のものでした。
その作品は、手作業では難しい精度や細かな紋様が必要で、素材は漆と純金を使うことが先に決まっていたんですね。
時間的な条件もあったので「手作業では不可能だな」と思っていて、そこで前から興味のあった3Dプリントを調べてみたら、精度的にも問題なさそうだと判断できたことがきっかけです。
それはどういった面でご判断されましたか?
コジマ様:第一に制作時間。次に、出力されるものの精度が高いと判断できたこと。あとは漆の性質と素材の特性を考慮しました。
漆を重ね塗りするためには数週間の時間が必要なのですが、金属やガラスに漆を塗る場合は「焼付」という方法で、熱を加えて一気に固めることが可能なのです。
ただ、素材によっては漆の焼付ができないんです。
たとえば、漆のイメージとしてはお椀の漆塗りを連想しやすいですが、お椀そのものが木で作られているので、熱で変質してしまうために焼付ができません。
DMMさんの素材でクリアアクリルとナイロンを選ばせていただいて、ナイロンの物性の特性的にある程度の耐熱性があるとわかったこともひとつの要因になりましたね。
ご利用いただいたナイロンはMJFのPA12GBでしたね。
これを中心にして、その上に漆を重ね塗りして制作したのでしょうか。
コジマ様:そうです。表面には、蒔絵のような形で純金を装飾しました。
「漆を使った特別なマスク」というオーダーだったので、漆を使うことは絶対条件でした。
それに適していて、かつ求めている精度と時間内でできる素材を探していて、それに見合ったものをDMM.makeで見つけました。
3Dプリントサービスの造形物を見た感想
DMMにご発注いただいて、造形の精度などは期待通りでしたか?
コジマ様:おおむね満足のいく出来でした。ただ、DMMさんは光造形とは出力方式が違いますよね。
個人的には光造形のほうが細部のエッジの立ち方は鋭く精細にできるかなと思っていて、実際、MJFのPA12GBは出力の精度という意味では光造形におよびませんでした。
ですが、大きな形の歪みが少なかったり、研ぎ上げて紋様に少し柔らかさを出したり、いい感じのニュアンスを出せたので結果的には良かったです。
なので、出力物をある程度の距離から見る場合はMJFのほうが優れていて、近くで見るなら光造形のほうが優れているのかなと感じました。
なるほど。全体の形と細部の仕上がりという部分で良し悪しが出てきたのですね。
今回の用途としては、出力されたモノにさらに手を加えるという形で、3Dプリントと手作業を組み合わせてご利用いただいたきましたか?
コジマ様:そうですね。
今まさに進めている作品は、DMM.makeに出力をお願いして待っている状態のものがあります。
その後に想定している作品もありますが、今後も3Dプリントして終わりということはないのではないかと思います。
3Dプリントを活用した制作活動の中で、時間やコストといった面でメリットは感じられましたでしょうか。
コジマ様:これまでは手作業で削り出すこともあって、ひとつの作品を作り上げるのに膨大な時間がかかっていました。
でも、3Dプリントを活用するようになってから、時間を大幅に短縮できるようになったのは大きなメリットかなと感じています。
3Dプリントを発注して、待っている間は別の仕事に取り掛かれるのも良い点だと思います。
ただ、私自身、そこまで3Dプリントの経験があるわけではありません。あまり比較はできていないのが正直なところです。
ありがとうございます。3Dプリントという技術がある前提で、今後の制作フローが変わることもありそうですね。
コジマ様:そうですね。
職人さんであれば、実際に削ったり磨いたりして、思い描く形を作るところに時間を割くのが仕事かもしれません。
ただ、私はそうではないので、設計の段階で形の精度を上げていくとか、イメージをさらに膨らませることに集中できるので、とても助かっています。
クリアアクリルも試していただきました。そちらはいかがでしたか?
コジマ様:クリアアクリルは熱に耐えられなかったのでダメでした。
うろ覚えですが、「どの程度の透明度なのか?」「透明の作品を作る際に活用できそうか?」、という点を実際に目で確認したかったという理由な気がします。
やはり実際に手にとって見てみないとイメージはしにくいですよね。
コジマ様:常に完成品のイメージが先にできていて、そのイメージに近付けるための技術的な制約はなるべく外しておきたいなと思っています。
インプットをたくさんしておけば、より良い選択ができると思っているので、用事もなく東急ハンズに立ち寄って素材を眺めてみたりすることも多いです(笑)。
クリアアクリルを試しに造形してみたのも、そういった理由だったと思います。
DMM.makeを知ったきっかけやサービスを利用して感じた良い点・悪い点
DMMのサービスを使っていただいた中で、良い点や悪い点はございましたか?
コジマ様:他のサービスと比較できていないことが前提ですが、基本的にはとても満足しています。
ただ、サポートをどこに付けるか、この部分には絶対にサポートを付けてほしくないといった要望をエコノミーレジンで出せると助かるなと思います。
エコノミーレジンは価格がすごく安くて、とても混み合っているので現実的ではないと理解していますが、それができると嬉しいなと感じました。
芸術系の作品ですと細かな部分の指定が大事になってきそうですね。サービスに反映させていただきます。
コジマ様:あと、来年に向けて彫刻作品といえるような大型制作に取り掛かっています。
大型のプリントに関してはまったく経験がないので、大きさや強度に適した素材選びという点で相談させてもらえれば…と思っています。
それほど数は多くないということですが、3Dプリンターで出力した後にイメージと違った場合はデータを修正することもあるのでしょうか。
コジマ様:画面内で良いと思ったものでも、実際に出力してみたらイメージと違うことはありますね。
アトリエ内に、光造形の小型の3Dプリンターを使っているので、まずはそれで確認しています。
確認して完成したデータをDMM.makeに発注するプロセスを取っていて、今後もそれは変わらないかなと思っています。
アトリエに3Dプリンターを導入されていたのですね。外注サービスを利用される前からご自身で試されていたのでしょうか。
コジマ様:いえ、DMM.makeに頼んでいく中で、外注で頼むほどでもないものをパッと作りたくて、後から購入しました。
「精度は悪くていいから、縦横比の印象を確認したい」とか、そういった用途であれば手元の3Dプリンターで十分です。
アトリエに購入してからはまだ1年経っていないですね。
3Dプリントの制作活動で取り組んでみたいことや挑戦してみたい素材
今後、3Dプリンターでやってみたいことや挑戦してみたい素材はありますか?
コジマ様:たくさんありますね(笑)。
パッと思いつくものといえば金属の3Dプリントです。
これまで見てきたサンプルは精度や強度の面で不安があったので使ったことはないんですが、技術が上がればどんどん変わるでしょうから、とても興味のある技術のひとつですね。
金属もいろいろと種類があります。どういうところを重視されますか?
コジマ様:見た目ですね。
私が思い描くイメージにブレることなく近付いてほしいので、そこはやっぱり見た目が大きく影響すると思っています。
ちょうど社内で金属プリンターを推していこうと計画中です! 機会があれば、ぜひお試しいただければと思います。
コジマ様:ぜひ使わせていただきます。
あとはセラミックプリンターとかマサチューセッツ工科大にあるガラスのプリンターとか…興味があるものは多いです。
単純に「光造形やナイロン、MJF方式でも切削級の精度で出力できるものがいずれ登場するのか?」といったことも気になります。
ぜひ今後の展開にご期待いただくということで、お時間をいただければ幸いです。
ご期待に応えられるよう努めて参ります。
※インタビューの内容は取材当時のものです。