DMM.makeと共に10年、金沢発・世界から注目される職人集団に。「デジタルなサービスでも人の介在を感じる」secca inc.

食と工芸の街・金沢にて伝統とテクノロジーを駆使してクリエイティブな創作をおこなう職人集団、secca inc.(以下、secca)。今回は代表の上町達也様にお話を伺いました。DMM.makeの3Dプリントサービス立ち上げ期より共にものづくりをおこなってきた同社に、これまでの歩みや最新のアート作品についてもお話いただきました。

上町達也(うえまちたつや)様 プロフィール
1983年岐阜県可児市生まれ。
金沢美術工芸大学卒業後、株式会社ニコンに入社し、主に新企画製品の企画とデザインを担当したのち、2013年seccaを設立。
現在、secca独自の経営を推進しながら、各作品のコンセプトメイキングを主に担当する。デザイナーとしてはパートナー企業の経営に寄り添ったデザインコンサルティングをおこなう。
2023年 Forbes JAPAN CULTURE-PRENEURS 30に選出。
金沢美術工芸大学 非常勤講師
上海同済大学、武蔵野美術大学 招待講師 他

伝統技術から最先端のテクノロジーまで、職人集団「secca」

まずは御社の概要を教えてください。

seccaは“新価値の造形”をミッションとして、「日本人として、ものづくりや文化をアップデートするために、そもそも、今なぜつくるのか?」という“問い”と、工芸技法や新しいテクノロジーを掛け合わせていくスタイル―僕たちの造語で“巧藝”―を基軸に創作活動しています。

自社作品としては、「立体作品」「食」「楽器」を中心に制作をおこなっています。
一方で自社以外の企業ともコラボレーションをして、より皆さんの日常の中に息づくものづくりもしているのが我々の活動です。

具体的にはどのような作品を作られていますか?

自社作品では「量産品の真逆」のものづくりをしています。数ドリブンではなく、価値ドリブンで取り組んでいるのが特徴です。

たとえば、3つの柱のうちである「食」に関してですが、レストランから依頼があった場合は料理人さんの料理や思想に触れて、会話のキャッチボールをして、食体験の価値を共に作り上げていくイメージです。

「雪吊り」 “YUKITSURI”
3Dプリントしたものに漆を塗ったり、焼き物でシャンデリアを作ったり、バイオマス素材を使って新しい体験を提供できないか考えてみたり……。
このように伝統的な素材や工法を現代のテクノロジーとかけ合わせながら作品を作っています。

上町様はseccaの創業まではどのようなことをされてきたのですか?

金沢美術工芸大学を卒業して、新卒で株式会社ニコンにプロダクトデザイナーとして入社しました。やや特殊なのですが、入社以来新規事業ばかり任されていました。

社内で約50年ぶりにカメラの新ブランドを立ち上げることになり、僕もそこへ参加することになりました。
社運を懸けたような事業で5年ほどかけてみんなで作り上げて、世に出したのですが……。
発売から1年後には家電量販店でワゴンセールで積まれていた風景を見たのです。

「努力が報われなかった」という思いよりも、「価値の消費の速さが怖いな」と思ってしまったんです。

その後に3.11も経験して、多くの人が、安全な水を求めてスーパーで水を買い漁ったり、安全な食を叫んだりする様子を目の当たりにして、「こんなに大きな事が起こらないと、当たり前の事に気付けないこと」に対して、ショックを受けました。

「衣食住のような人間の営みを根本から支える物事を多くの人が当たり前に大切にできれば、希薄になった価値交換のセンスを取り戻し、現代の異常な価値の消費が改められ、健全な価値交換が自然とできる社会を取り戻せるのではないか?」
そんな問いが僕の中で大きくなって、起業に至りました。

今でも会社において僕の中心的な役割は“問い”を立てることです。

非常に考えさせられるエピソードをありがとうございます。

A↔︎UN
ちなみに金沢の地で創業を選んだのはなぜですか?

たとえば金沢って伝統的な兼六園の真横に現代的な金沢21世紀美術館がありますよね?
「伝統を守る」だけでなく「進化させ続ける」気質が街全体に広がっていて、まさに自分がやりたいベクトルとすごく調和してる感じがしました。

僕たちは創業から10年ばかりの集団ですが、「伝統工芸と呼ばれているものは、過去のものじゃなくて未来のものなんだ」と感じられる土地ですね。

現在は世界からも注目される集団になりました。

少しずつですが自社作品では、台湾やエストニアなど海外の料理人や、ギャラリストからお声がけいただけるようになってきました。

一方デザインのお仕事では同じ石川県の石川樹脂工業さんと今年で7年間一緒に共創していて、新しい樹脂素材のテーブルウェアブランド「ARAS」を展開して徐々に認知が拡まっています。

最近だとアーティストのBjörkさんがアメリカ最大の音楽イベント「コーチェラ」で身に付けた衣装としてのマスクの制作をお手伝いしたりしています。

つながりはDMM.make立ち上げ期から。元JUDY AND MARY・TAKUYAのギターを3Dプリンターで

DMMの3Dプリント事業部も2023年で10周年を迎えます。実は私達のサービス立ち上げ期からご縁があったと……。

はい。DMM.makeの立ち上げ時期に、金沢にも拠点をもっているABBALabの小笠原さんから声をかけてもらい、色々と担当させていただきました。

当時の御社からは「3Dプリンターのプレイヤーを増やそう」という気概を感じましたね。

印象的なエピソードがあったら教えてください。

そのスタート期に、DMM.makeと共にJUDY AND MARYのギタリストだったTAKUYAさんのギターを3Dプリンターを使ってリメイクするという企画に参加しました。
そのギターはこちらのPVでも使用いただいています。

こちらの白いギターですね!

それから、実際に加賀の工場にも何度か足を運び、現場の方とも交流しています。
一台1億円を超えるような3Dプリンターを見せてもらい、「これはすごいな」「自社では絶対に持てないな」と圧倒されました。

内部公開!DMM.makeの3Dプリント工場と製造工程をご紹介

100年残る作品もDMM.makeで

それでは直近でご注文いただいた3Dプリント作品について教えてください。

今回お願いした作品は茨城県北芸術祭で出品した作品「japan?」のシリーズ作品です。

少しこの作品についてご説明すると、漆は英語で“japan”といいます。
それほど日本を代表する素材であるのに、日本国内の98%は中国産漆が流通していたり、漆産業に従事される方も減少し続け、産業として危機的な状況です。
なぜその状況に至ったのか? 根幹にある原因を考えた時に、「そもそも漆の価値が分かりづらいからなのではないか?」というシンプルな“問い”が生まれました。

そこから漆の価値の正体とは一体何なのかを問いかけることを作品のコンセプトとしました。

実はこれ、同じ形状をしたピースが3つ組み合わさってできていて、それぞれに中国産漆・国産漆・漆に似せたウレタン塗料を塗装しているのですよ。
正直漆をずっと扱っている人でも見た目では違いが分かりません。だから価値がないという意味ではなく、視覚的な情報の先にある本質的な漆の価値とは何かを問いかける作品です。

正に見る人に「問う」作品ですね。

はい。この作品は美術評論家で森美術館前館長の南條史生さんからオファーをいただいたものですが、大変気に入っていただき、今回新たに注文いただき、新たな作品が生まれました。

「路」
こちらの「路(みち)」はもうすぐ開業を控えているとあるホテルとレジデンスを兼ね備えた物件の共用部に設置される作品として、多くの皆さんの目に触れることになります。

この空間全体をアートコーディネートされる南條さんのコンセプトが「旅」と伺い、それを受けて僕たちは旅を人の一生と捉え、それを水の流れや循環に喩えて「路」という作品を制作しました。

また、本作は金沢の漆作家・高橋悠眞さんとコラボし、僕たちが水の流れを表現した素地を制作しその上に高橋さんが12色の色漆を塗り重ね、研ぎ出すことで素地の凹凸から生まれる独自の意匠が浮かび上がる作品です。

3Dプリントサービスを利用される際、苦労した点はありますか?

理想として100 年以上残ることを想定した作品ですから、「経年劣化はどの程度起こりうるのか?」「漆を塗ったらちゃんと密着するのか?」など素材については担当者の方に色々伺いました。

かなり丁寧に対応いただいて、すごく嬉しかったです。

今回、レジン素材でもエコノミーレジンABSライククリアレジンと複数種類を出力いただきましたね。

そうですね、色々と試して何がマッチするのかを見極めたかったからです。

それぞれの素材の物性はより分かりやすく伝わるように、しかしながら色々な素材を選ぶ楽しみもご提供できるよう努めて参りますね。

デジタルで注文、便利だけど無機質じゃない。人の介在を感じるサービス

本当に長い間お付き合いいただいていますが、DMM.makeを利用し続けてくださっている理由はどこにあるでしょうか?

創業時から様々な機会をいただいたことにすごく感謝をしています!

3Dプリンター自体は日頃から当たり前に使う道具として社内で保有しています。
しかし、解像度や造形サイズ、出力できる素材の制約などの問題からアート作品などの大型で最終製品を制作する際に御社のような外注サービスを選択しますね。
試作を自社で何度もおこない、最後は「後加工も含めて専門的にやっているところに」と判断した際に利用させていただいています。

御社の力をお借りした方が作品のクオリティはあがるし、「そこは素直に甘えよう」という気持ちで、ずっと使わせていただいていますね。

ありがとうございます。サービス全体の使い心地としてはいかがでしょうか?

DMMならではの便利なWebサービスを提供していますよね。
見積りから決済まで全部デジタルで「ポチポチ」っとすれば届くみたいな……それって無機質なサービスになりやすいと思うんですけど……。

DMM.makeの場合は人の介在をちゃんと感じます。
「面倒な質問だろうな」と思いながらもこちらも妥協できないため、先ほどお伝えした点など色々と相談させていただくのですが、担当者や技術者の方がすごい丁寧に答えてくださいますよね?
コミュニケーションの取り方も、僕の都合に合わせて、柔軟に対応していただきました。

人の存在があってこそ、デジタル技術の発展があると思うので。
こういう「人の温かみ」が僕は一番素晴らしいなぁと感じております。

「DMMはIT企業で、なんでもデジタルで、冷たいんじゃないか」といったイメージを抱かれがちです。一方でDMM.makeではかなり泥臭く人と人とのつながりを大事にしているので、そのように感じていただけて私どもも非常に嬉しいです。

DMM.makeはチャレンジャーを応援する存在、これからも……

すべてDMM.makeで出力したもの
それでは今後のご展望をお聞かせください。

創業して10年、自分たちに「できること」「やりたいこと」「やるべきこと」が何か、色々と迂回しながら、ようやく整理がつき始めたタイミングだと思っています。
ですから、これから先の目標は、僕たちのもっているものを「磨き続ける」ことが中心になるかと考えています。

ただし、僕たちの作品を届けられている相手がまだまだ少ないので、その相手を、共感者を増やしていきたいです。
やっぱり世界中に共感者を作りたいですね。

最後に、これからのDMM.makeに期待することがあれば教えてください。

僕らみたいなチャレンジャーが、イニシャルコストやロット等の規模感の問題で諦めざるを得ないという状況を打破するためにDMM.makeは非常に重要な役割を果たしてこられたと思います。

3Dプリント事業スタート時の2013年に比べると確かに値段はあがってきましたが、ただ単純に「安くしてほしい」とは言いません。
日本が辿ってきた大量生産・大量消費と同じように、みんなが疲弊していくというのは、やっぱり違うと思うので……。

とはいえ、2013年頃の「クリエイターを増やしたい!」と掲げていた理想の世界の実現に向けては、まだまだできることもあると思っていて。

だから、DMM.makeさんや僕らのようなクリエイターが手を組んで「ものづくりの未来はどうありたいか?」を一緒に考えられたら面白いですよね?

私たちの歴史も汲んで、そのように言っていただけるのは嬉しいです!
10年100年続くものづくりのためにぜひこれからも共に歩んでいけたらと思います。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。


secca inc.
ホームページ:https://secca.co.jp/
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