アートとテクノロジーを融合させた「メディア芸術」を学べる東京工芸大学のインタラクティブメディア学科
まずは久原様のプロフィールを簡単に教えていただけますか?
久原様:学生時代から宇宙工学や生命工学、コンピュータープログラミングなどを学んできました。一般企業での勤務、研究生活・教育活動を経て、2001年からは東京工芸大の芸術学部に着任しました。
近年はこれまでの経験を活かしつつ、最新のディープラーニングやAI技術を芸術に当てはめて何か新しいことができないかと模索しています。
東京工芸大学のインタラクティブメディア学科ではどのようなことを教えられているのでしょうか?
久原様:東京工芸大学は写真学校を前身にもち、2023年に100周年を迎えた学校です。
写真や映像といった表現活動は最新の技術と切っても切り離せません。
そこで、アートとテクノロジーを融合させた「メディア芸術」を本校でも教えるようになりました。
特にインタラクティブメディア学科ではアートとテクノロジーを融合させた新たな表現を教えています。
具体的には3D CGやサウンド、Web、センシングを使ったインタラクティブな電子デバイスの仕組みから制作まで自身の手を動かしながら学べます。
学生には、アートとテクノロジーの二刀流でマルチなスキルを身につけてもらいたいと思っています。
創立100周年記念展へ。AIも駆使しプロジェクションマッピングでサグラダ・ファミリアを再現
今回ご注文いただいた作品も最新テクノロジーを用いたプロジェクトだと伺っています。プロジェクトの概要を教えていただけるでしょうか?
久原様:プロジェクト名は「ガウディから学ぶ色と形 AIが着彩する未完の正面――サグラダ・ファミリア聖堂における着彩パターンの実験」です。
スペインにある世界遺産のサグラダ・ファミリアは1882年に着工されてから、今もなお建築が進められている未完の建築です。
この建築家であるアントニ・ガウディは、完成を見ることなく亡くなってしまいました。
このプロジェクトは彼が残したこれまでの建築やサグラダ・ファミリアの設計図を元に、どのような色であったのかを再現し、新たな視点をくわえようとするものです。
サグラダ・ファミリアはその建築のほとんどに石が使われており、みなさんがイメージするのは自然の石そのものの褐色の色味でしょう。
しかしガウディはグエル公園やその他の建造物に代表されるように、色鮮やかな“トレンカディス”(破砕タイル仕上げ)の手法を用いていました。
サグラダ・ファミリアもまた、正面は色鮮やかに設計されていたと言われています。
その色の再現にあたって、AI技術も使われているのですね。
久原様:はい。ここには大まかに2種類のAI技術が使われています。
「セル・オートマトン」と言われる計算手法の一種で、モザイク的着色の方法を実現しました。
またガウディの着色パターンやサグラダ・ファミリア内部のステンドグラスと太陽光のきらめきなどを考慮しつつも、「ラングトンの蟻」という人工生命を応用した新たな表現にチャレンジしました。
最近は人工知能が世間を賑わせていますが、「人工生命」ですか?
久原様:「人工生命」別名“Alife(Artificial Life)”といって、規則的なデザインとは異なり、生き物のような予測不能な動きによる着彩表現を可能としました。
いずれも単純なアルゴリズムではあるのですが、ガウディのデザインを取り入れつつも、テクノロジーを使って全く新しいサグラダ・ファミリアを生み出しています。
正に「アートとテクノロジーの融合」ですね! 開発にはどれくらいの期間を要したのでしょうか?
久原様:このプロジェクト自体は本学のガウディを専門とする建築学科の教授からお声がけいただき、2012年頃から開始されました。
その翌年にはプログラムは完成し、プロジェクターでスクリーンに投影されました。
今回は東京工芸大学の創立100周年の記念展示「写真から100年」に合わせて、3次元のサグラダ・ファミリアにプロジェクションマッピングで着彩しようと考え、DMM.makeへ注文をしました。
初めての大型3Dプリンティング、「他社見積りでは一千万円超え、DMM.makeだけが真摯に相談にのってくれた」
ありがとうございます。プロジェクションマッピングを投影する立体の造形物を3Dプリントしようと計画されたのですね。
久原様:はい、当初は実物のおおよそ1/80サイズ…高さ2m程度の物ができればと思っていました。
大学にも3Dプリンターはあるのですが、小型の作品やパーツを作るのがメインで、大きな造形物は作れないサイズです。
そもそも教育のために学生たちも使うものであるので、大型の物を造形するために長時間3Dプリンターを占有することもできません。
そこで外注で3Dプリントできるところはないかと探しました。
3Dプリントの外注は初めてでしたか? DMM.makeの3Dプリントサービスをどのように見つけてくださったのでしょうか?
久原様:外注できる企業をいくつか探しました。
展示会作品用の予算は約150万円と決まっているなかで、何社か相談もしたのですが、「見積り額が一千万円を超える」と言われてしまったり、……。
そんな中、私の問合せに対してすぐに連絡をくださり、なんとか見栄えのある大きさの立体作品として実現できるプランを考え抜いて交渉してくださったのはDMM.makeだけでした。
プロジェクションマッピングは投影できる立体の型さえあれば良いので中空構造にしたり、厚みを変えたりしながら、予算内に収まるようにDMM.makeのスタッフの方と一緒に試行錯誤しました。
どんなに物でも1点から気軽に注文できるのがDMM.makeの強みです。今回は営業担当と加賀で3Dプリンターを扱う技術担当者が対応させていただきました。対応はいかがだったでしょうか?
久原様:レスポンスも早く、初回のWeb会議から支払いまで丁寧に対応していただき、とても感謝しています。
初めての外注サービスの利用でしたが、特に使いづらさを感じないくらいオンラインシステムも分かりやすかったと思います。
大型の3Dプリントをするにあたって苦労した点はありますか?
久原様:サグラダ・ファミリアを始めとする文化財の3Dモデルには誰でもアクセスできるようになっているので、それを用いれば簡単に3次元化できると考えていました。
しかしDMM.makeの保有する3Dプリンターでも造形できないほど大きなサイズだと分かりました。
そこで3Dモデルを3分割して出力してもらうようにしました。
その時にも3Dデータの調整を貴社にサポートいただきましたね。
久原様:一方で棟の先端など繊細な部分もあったので、こちらもアドバイスをいただきながら折れないように気をつけました。
また届いた物は3Dプリントに慣れている助手に手伝ってもらいながら、接着剤を使って組み合わせをおこないました。
迫力のある美しい作品が完成。来場者からの評判も上々
スクリーン(平面)から立体の建築ミニチュアに投影してみて、いかがだったでしょうか?
久原様:現物は高さ約1mのサグラダ・ファミリア模型となりました。
予算、価格の観点から「エコノミーレジン|SLA」を選択しましたが、表面も滑らかで色の映りも問題なかったです。
想像していたよりも頑丈で、どっしりと迫力がありましたね。
大学の3Dプリンターで出力していたら、耐久性に問題があったでしょう。
立体物には奥行きがあり、投影距離に差が出るため、プログラムの微調整は必要になりましたが、3Dプリントの立体造形へのプロジェクションマッピングとしてはスムーズに実現できたと思います。
すごくきれいで、見ていて飽きない作品ができました!
実際に私も展示会に赴き、作品を見せていただきました。平面作品が多い中、大きい立体造形で目を惹きましたね。
久原様:学生や展覧会に来たお客様からも好評でした。
大きくもあり、「美しい色合いできれいだ」と言っていただけるのですが、ここで使われている人工生命(ALife)の技術にもぜひ注目していただけたらなと思います(笑)
最先端の技術が用いられたこれまでにない作品作りに協力できて嬉しく思います。最後にこれから挑戦してみたいことがあれば教えてください。
久原様:文化財・建築物を題材にアカデミックやアート、テクノロジーの観点からのアプローチに今後も挑戦したいですね。
今回は2m級の大型の制作は予算の観点から諦めてしまいましたが、大きなものづくりには興味があります。
今や数百万円で3Dプリンター製の家が作れるようですね。
そういった技術が発展して手頃に大きな物が作れるようになったらまた面白いことができるのではないかと思います。
大変興味深いお話をありがとうございました!
東京工芸大学創立100周年記念展「写真から100年」は東京都写真美術館にて2023年12月10日(日)まで開催されています。ぜひ実物もご覧くださいませ。
アート作品制作やイベントや街中に設置するプロジェクションマッピング用のモチーフなどもお気軽にDMM.makeまでご相談ください。