3Dモデリングや設計の技術は進化し、AIが形をつくる技術も生まれています。なかでも、設定した条件に基づいた形状を無数に生み出す手法は「ジェネレーティブデザイン」と呼ばれ、3Dプリントとの相性もよいことから、産業における実用化も進んでいます。この記事ではジェネレーティブデザインの説明や、3Dプリンタを用いた活用事例についてお伝えします。
ジェネレーティブデザインはAIを活用した設計手法
ジェネレーティブデザインはAI(人工知能)を使用して、設計者が定義した特定のパラメータと制約に基づく設計案を、自動的に生成する手法です。すべて人間が行うよりも圧倒的に多くの案を自動的に生み出すことから、「生成する」といった意味を持つ英単語「generative(ジェネレーティブ)」が用いられています。
3Dデータにおけるジェネレーティブデザインのプロセスは、概ね以下のようになります。設計者はまず必要とするおおまかな形状と、重量、強度、耐久性などの性能要件を指定します。「アーチ状で、100kgの重さにも耐えるベッド」「人が座っても大丈夫で、50kgより軽い椅子」などを想定したうえで、「4本の足は絶対に必要」「椅子の真ん中には座面を残す」といった具合に、形が満たすべき条件も設定していきます。
ベースとなる3Dモデルがあり、最低限必要となる箇所や条件さえ指定すれば、あとはその間を適切に満たす形状をAIが生成してくれます。もしかしたら全てを面で埋めるよりも、枝のような形を這わせたほうが丈夫で、必要となる素材も少ないかもしれません。条件を満たすように生成(ジェネレート)された無数の選択肢の中から、人間が望ましいと思う形状をピックアップし、さらに次のデザインへと進めていく。これがジェネレーティブデザインを用いた設計プロセスとなります。
こうしたジェネレーティブデザインのメリットは、製品開発の時間とコストを削減し、より効率的で革新的な製品を生み出すことができる点です。ソフトウェアに条件を渡せば、あとは条件をもとに自動的に計算・設計を進めてくれるため、最適な設計への選択肢が広がり、かつ時間の短縮にもなるのです。
ジェネレーティブデザインと3Dプリント
ジェネレーティブデザインで生成される形状には、しばしば有機的なものや複雑なものが含まれるため、従来の製造技術では実現が困難な場合があります。そこで、製造できる形状に制約が少ない3Dプリンターと相性が良いため、ジェネレーティブデザインで生成したモデルを3Dプリントするという事例は多く見受けられます。
ジェネレーティブデザインができる3D CAD
3D CAD でジェネレーティブデザインを扱えるものもあります。条件に応じて無数の形状を生成するため、比較的高性能なソフトウェアに搭載される傾向にあります。
FUSION 360 GENERATIVE DESIGN EXTENSION
Fusion 360 を提供するAutodeskは、ジェネレーティブデザインの実用化を目指してソフトウェアへの搭載を推進しています。モデルの形状や条件の設定は端末側で行い、無数のモデル生成はクラウドで行うような使い方など、個人ユーザーでもジェネレーティブデザインを活用できる仕組みが整っています。
Solid Edge
SEIMENSのSolid Edgeにも、ジェネレーティブデザインの設計手法が取り入れられています。
CATIA 3DEXPERIENCE on the Cloud
クラウドベースの3D CADである、ダッソー・システムズのCATIA 3DEXPERIENCE on the Cloudでも、ジェネレーティブデザインによる設計が行えます。
トポロジー最適化とジェネレーティブデザインの違い
ジェネレーティブデザインと似た概念として、トポロジー最適化が挙げられます。両者に共通しているのは、いくつかの条件に従って形状をつくることですが、そのアプローチや数に差があります。
トポロジー最適化は既存の形状を与えたうえで、その範囲内で条件を満たすような形状を生成します。導き出される形は一つの条件に対し一つであることが原則です。「ある一つの形状を最適化する」ための技法がトポロジー最適化と言えます。
それに対し、ジェネレーティブデザインは条件を踏まえて新しいデザインを生成し、さらにその選択肢も幅広くなります。「新たな形状を無数に生み出す」ことが、ジェネレーティブデザインのアプローチです。
ジェネレーティブデザインの活用事例
ジェネレーティブデザインは、様々な分野で実用化が進んでいます。
建築業界
アイオワ大学ヴォックスマンミュージックビルディングの新しいコンサートホールでは、音響や照明、空気の循環まで考慮した天井がジェネレーティブデザインによって設計されています。
大和ハウス工業が手がけた集合住宅では、敷地の中に建物を効率的・魅力的にレイアウトするためにジェネレーティブデザインが利用されています。土地オーナーが所有する敷地の形状や、そこで生み出される収益などを設定することで、従来では想像もできなかったようなプランも生み出されてきました。
自動車業界
デンソーは農建機向けの小型ディーゼルエンジンに搭載する新たなECU(エンジンコントロールユニット)の開発にジェネレーティブデザインを導入しました。高い温度のエンジンルームでもECUが問題なく動作するよう、軽量化と放熱性能を両立する形状をジェネレーティブデザインで探索し最適化を図りました。
トヨタは自動車のシートフレームにジェネレーティブデザインを活用しています。意匠だけでなく安全性や快適性も両立するため、多くの要件を用いて形状を生成。当初の予想を超えた形もうまく生かしながら、デザイナーが比率やバランスを整えながら、美しい形状を実現させました。
航空・宇宙業界
航空機を生産するエアバスは、乗客の座席と乗務員のキッチンを隔てる壁として、ジェネレーティブデザインを用いて「バイオニック パーティション」を開発しました。安全性と軽量性を両立する航空機用コンポーネントの開発は、ビジネスの効率を向上させるのみならず、CO2排出量の削減も期待されています。
NASAが太陽系外惑星を観測するための望遠鏡では、その足場や観測装置内にジェネレーティブデザインを活用した部材が用いられています。構造的性能が優れているのみならず、従来は10個以上あったパーツが一つに統合され、組み立ての手間も大きく省略されています。
【DMM.makeの事例】ジェネレーティブアートと3Dプリント
Generativemasksは、2021年8月にクリエイティブコーダーの高尾俊介氏が開始したジェネラティブアートのNFTプロジェクトにDMM.make 3DPRINTが協力しました。
これは3Dプリントによって造形したNFTアートの販売を通して、アーティスト活動の多様性を提示し、アーティストが持続可能な活動ができる仕組み作りを目指す試みです。
これらの作品は『超複製技術時代の芸術: NFTはアートの何を変えるのか?—分有、アウラ、超国家的権力—』展にて展示もされました。
参考:合同会社DMM.comのプレスリリース「【DMM.make 3Dプリント】発売2時間で1万個完売した話題のNFTアート 3月24日(金)より3Dプリント版で販売開始 」
まとめ
この記事ではジェネレーティブデザインの考え方や実例を紹介しました。AIが導き出した無数の選択肢の中から、最適な形状を3Dプリントによって製造するようなプロセスは、今後もさらに多くの場面で現れると考えられます。また、ジェネラティブアートのような、データから生み出される一点ものの制作にも、3Dプリントは非常に相性が良いものです。普段の生活や仕事の中で、ジェネレーティブデザインを見つける機会があるかもしれませんね。