DMM.make活用でロケットのアジャイル開発が可能に! インターステラテクノロジズ株式会社 山岸尚登様

民間企業でロケットの開発・製造・打ち上げサービスを行うインターステラテクノロジズ株式会社、山岸様からお話を伺いました。インターステラテクノロジズ株式会社といえば日本で初めて民間ロケットで宇宙に到達したことも記憶に新しいですが、2021年に打ち上げ、2機連続で宇宙空間に到達した観測ロケット「ねじのロケット(MOMO7号機)」「TENGAロケット(MOMO6号機)」にDMM.makeで造形した部品が搭載されました!3Dプリントを利用したことによって、設計の自由度を保ち、コストを抑えつつ短納期な”アジャイル開発”を可能にした事例をご紹介いたします。

山岸尚登様のプロフィール

本田技術研究所で量産・レース用二輪車の設計に13年間携わったのち、2020年にIST入社。現在はロケットに搭載される機構系部品の開発を担当するメカトログループのリーダーとして開発とマネジメントを担当している。

構造的に金属や樹脂の切削だとコストがかかってしまう

コスト削減

DMMさんを利用させてもらってよかったことは、試作屋さんよりも納期が早くて価格が安かったことですね。

山岸様について、3Dプリンターを利用するシチュエーション

本日はお忙しい中、お時間いただきましてありがとうございます。
よろしくお願い致します。

こちらこそよろしくお願い致します。

はじめに、会社の概要や山岸様のお仕事の内容をお聞かせいただけますでしょうか。

インターステラテクノロジズは、誰もが宇宙に手が届く未来をつくりたいというビジョンを掲げてロケットの開発を行っています。
その中で私は、主にロケットに搭載されるアクチュエータで駆動する機構部品の開発をするメカトログループの取りまとめと、ロケットに搭載される電子機器用の筐体開発を担当しています。

実際に弊社のサービスを使ってロケットの試作をされているのかなと思うのですが、具体的には3Dプリンターで何を作られているのでしょうか。

3Dプリンターで製作したものとしては、開発中のロケットの試作品はもちろんですが、実際のフライトで使ったものもあるんです。
2021年に打ち上げ、宇宙空間に到達したロケット「ねじのロケット(MOMO7号機)」「TENGAロケット(MOMO6号機)」の2機では、電子機器を稼働させるバッテリーを固定するためのフタをDMMさんの3Dプリンターで製造しました。
他にも、機体の姿勢をセンシングするためのジャイロセンサーを、外部の水や熱から保護するためのカバーも3Dプリンターで作りました。
DMMさんに依頼して作ったものをロケットに搭載して、実際に宇宙へ向けて飛ばしています。

実際の部品
実際の部品

3Dプリンターで出力したものが宇宙に行っていると思うと、なんだか感慨深いものがありますね。
それぞれの部品は、どのような素材を使われているのでしょうか。

MJF(マルチジェットフュージョン)のPA11を使っています。
この素材の機械的性質が、ロケットの使用環境に適していたので採用しました。
また、前職でPA11やPA12をDMMさんとは別の他社で作ってもらったことがあって、手を出しやすかったのが理由です。

DMM.makeにて製作・出力
DMM.makeにて製作・出力

3DプリンターやDMM.makeを使い始めたきっかけ

ロケットを開発する上で、3Dプリントを採用されたきっかけはなんだったのでしょうか。

「MOMO v0」の頃はあまり使っていなかったのですが、2020年から約1年かけて全面改良した「MOMO v1」から3Dプリンターを活発に使うようになりました。
もともと私自身は、前職で車載用部品の試作のために3Dプリンターを使ったことはありましたが、ISTのロケットにはそれほど積極的に使われていませんでした。
ところがMOMO v1の開発では、他の業界から中途入社した社員の知見や、私自身が3Dプリンター製の部品を扱い慣れていたこともあって、ロケットにも3Dプリンターの活用が適している部品があることに気付いたんです。
それからは積極的に活用するようになっていて、今では3Dプリンターじゃないとダメというものもあります。

なるほど、他業界の知見を取り入れたことで3Dプリントを使うようになったんですね。

そうですね。以前からISTでは3Dプリントを使ってはいたものの、その利点をそこまで活かせていなかったように思います。
当初は「樹脂を削るより時間も工数も楽」くらいの認識だったので、有機的な形状で他の部品との干渉を避けたり、期日ギリギリまで大胆な仕様変更をするような使い方ができておらず、3Dプリンタの利点が活かしきれいませんでした。
3Dプリントを使いこなせていたかといわれると、十分ではなかったかなと。

ありがとうございます。
3Dプリントを使う上で他社さんと検討されたこともあるかと思いますが、その中でDMM.makeを選んでいただけた理由は何だったのでしょうか。

DMMさんは、弊社が製作する際に使用するMJFの物性が細かく開示されていて、素性がわかりやすかったということが一点あります。
また、他社と比べて価格が安かったということと、依頼してから届くまでの納期が早かったことが挙げられます。

MJFは弊社が取り扱っている中でも納期はかなり早いほうですね。
やはり、納品までのスピードは大事なポイントになるのでしょうか。

そうですね。
MOMOの開発は期間が短くて、いわゆる“アジャイル開発”のような形をとっていたので、仕様や形状の柔軟性、成形の自由度、納品までのスピード感はかなり重視しています。
ロケット1機につき1個しか使わない部品については、他の製法を試したりもしましたが、3Dプリンターが最も相性が良かったんです。

3Dプリンターで実際に作られているもの

一点物の制作は、通常ですと金属を切削されたりするのでしょうか。

そうですね。アルミの切削だったり、樹脂を削ったりしています。

ロケットの試作段階では、どのようなものを作られていたのでしょうか?

特殊な電子機器を入れるための筐体をMJFで試作しました。

実際の筐体

なるほど。実際にロケットを飛ばすときの本番ではMJFは使われないのでしょうか。

MJFだと出力後に表面処理が必要だったのですが、それが上手くできなくて断念しました。
シールドメッキの下地処理と防水のための目止めをする必要があるのですが、表面処理が難しく…。

粉末素材だと表面がざらついているので、表面処理との相性はありそうですね。
本番用の部品にはどの素材を使われたのでしょうか。

同じくPA11やPA12のナイロン系の素材を使っています。
そちらに関しては、目止めから表面のならし加工までをまとめて対応してくれる別のメーカーさんにお願いしました。

なるほど。
後処理までやってくれる“試作屋さん”と弊社を用途ごとに使い分けていらっしゃるのですね。

DMM.makeを使った3Dプリントで良かったこと、苦労したこと

弊社の3Dプリントを使っていて良かったことは何かございますか?

DMMさんを利用させてもらってよかったことは、試作屋さんよりも納期が早くて価格が安かったことですね。
相見積もりを取ることもありますが、価格面で優位性があったり納期が早かったりするので。
あと、MJFで制作したものの現物に積層痕がほとんど残っていなくて、仕上がりが非常にキレイで良かったというのがあります。

MJFで出力した現物の画像 (DMM.makeにて製作・出力)

ありがとうございます。
逆に、3Dプリンターを使って試作や実物を作る中で、苦労されたことや大変だったことはございますか?

もともとの古い機体ではアルミの筐体を使っていて、それを樹脂に置き換えることで重量がかなり軽くなる見通しでした。
でも、MJFはやはり樹脂なので、機械的強度や剛性を出すためにかなり多くの補強を入れた結果、金属のときと重さがほとんど変わらなくなってしまいました。
あと、これは嬉しい悲鳴でもありますが、3Dプリントだと納期が短くて設計の自由度が高いので、良くも悪くも最後の最後まで仕様のしわ寄せが来てしまい、フライト直前まで好き放題やれてしまったこともありますね(笑)

結構ギリギリまでデータを作られているということですね(笑)

そうなんです。
完成までに時間がかかる部品だと仕様がいじれないので、それを前提で進めるのですが、3Dプリントを使うようになってからはフライトの直前までデータを調整することもありました(笑)

データ作成中

なるほど。
先ほど「強度」のお話がありましたが、樹脂で強度を保とうとすると、肉厚を増やしたりリブを立てたりするイメージがあります。
分厚くなったことで、実際はアルミと変わらないレベルの重さになってしまったということでしょうか。

そうですね。仰るとおり、肉厚とリブですね。
厳密にいえばアルミよりも軽いは軽いのですが、当初の見立てほど軽くすることはできませんでした。
ただ、設計の自由度が高いおかげで有機的な形状のものも簡単に作れるようになったので、その点では非常に助かっています。

ロケットだとカチッとした部品を使っているイメージですが、有機的な形状のものも使われているんですね。

うねうねした形状のパーツもあります。
従来のロケットだと金属の切削で作る部品が多いので、工作機械で作りやすい素直な形状のものを作ることが多いんです。
ですが、3Dプリンターで作ったパーツは、周囲の部品との干渉を避けるために丸みを帯びた有機的な形をしています。

有機的な形の部品

今後の展望や最後に伝えたいこと

いま現在のお仕事としては、次に飛ぶロケットの設計開発をされているところでしょうか?

はい、そうですね。
現在開発中のものに関しては、3Dプリンターだと逆にコストが見合わなくて別の製法を選んでいるケースがあります。
ただ、今後も3Dプリンターをまた使いたいと考えていて、シリコンやゴムなどのエラストマー系の素材を試してみたいと思っています。
この手の部品はどうしても金型が必要で、他の材質に置き換えることも機能的に難しいので、それなら3Dプリンターを使ったほうがコストを下げられるのではないかと画策中です。

柔らかい素材としては、シリコンライクな「AGILISTA」やゴムライクの「Agilusゴム」などがあります。
ただ、強度的に引っ張ったりすると普通のシリコンやゴムよりも破断しやすくて、熱にも若干弱めなのでロケットに搭載する素材としては少し難しいかもしれないです。
最近出たばかりの素材の「リアルシリコン」は、他の素材に比べるとコストがかさんでしまいますが、一点物を作るということでしたら金型も不要なので合っているのかなと思います。

AGILISTA (DMM.makeにて製作・出力)  
Agilusゴム (DMM.makeにて製作・出力)
リアルシリコン (DMM.makeにて製作・出力)

これらの素材はもともと気になっていたんです。
ありがとうございます。

医療系ではないことは承知していますが、医療系のISOも取得しているので、かなり薄くて丈夫なものを出力できるかと思います。
ちなみに、これらの用途としてはパッキン的な使い方をされたいのでしょうか。

はい、防水用のパッキンです。
試作段階や本番で使う前にダミーで一度手元で作ってみて、思惑通りに組み立てられるかどうかなどを確認したいんです。
ただ、その段階から金型を作って試作しているとお金がかかって仕方がないので、金型不要な3Dプリンターを使いたいと考えています。

ありがとうございます。
最後に、山岸様からDMMに聞いてみたいことやご要望はございますか?

技術的なところでは、ウルテムなどの特殊な樹脂素材が使えるようになると嬉しいなと思っています。
宇宙業界ならではの素材なので、いざ導入していただいても御社的にはペイしない部分があるかと思いますが…(笑)

業界全体としては一部の特殊な素材や用途に特化した3Dプリンターが登場してきているので、おっしゃるとおり弊社で導入するかは別としてもそういったご要望に沿う機材がでてくるのも時間の問題かなと感じています。

ありがとうございます。
それでは本日はこれで終了させていただきたいと思います。
お忙しい中、お時間をいただきましてありがとうございました。

ありがとうございました。
引き続き、よろしくお願い致します。

インターステラテクノロジズ株式会社様 ホームページ https://www.istellartech.com/

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