3Dプリンティングは大量生産に使えるか?|『All3DP Pro』翻訳・転載記事

※ この記事はAll3DP.com掲載のLeo Gregurić氏による記事「Can 3D Printing Be Used for Mass Production?」を翻訳・転載したものです。

3Dプリント技術は趣味としての活動を超えて製造業界で存在していますが、その効果が本当に大量生産に適しているかどうかは明確ではありません。この記事では、大量生産向けの3Dプリント技術の能力について詳しく説明します。

長所と短所

Carbon の3Dプリント”ファーム”(出典:Carbon)

「3Dプリンティングが次の産業革命になる」という旨の話を聞いたことがあるでしょう。3Dプリンティングには確かに大きな可能性がありますが、それはすでに実現しているのでしょうか? 3Dプリンターを大量生産に利用することは、その方向への一歩となることは間違いありません。

3Dプリントが大量生産に適しているかどうかを考える際には、その利点を見る必要があります。3Dプリントが通常の製造技術に対してもっている最大の利点の一つは、デザイナーが想像できるほとんどの形状を製造できる能力です。

例えば、AdidasはFuturecraft 4Dスニーカーのミッドソールを製造するために3Dプリントを活用しました。従来の製造技術では不可能な、非常に複雑な幾何学形状が特徴です。

3Dプリンティング業界の急速な進歩の一方で、他の製造技術には、生産能力の高さという提供価値がまだ残されています。これは3Dプリンティングの最大の課題の一つであり、ほとんどの場合、例えば射出成形のような生産量には及ばない事実があります。

しかし、コスト面についてはどうでしょう? ここでは3Dプリントが多くの利点を持っています。デザインの規模や複雑さによりますが、3Dプリントがより手頃で実用的な選択肢になるかもしれません。

以下では、3Dプリントを大量生産に応用して成功した例をいくつか紹介します。詳しく見てみましょう!

Adidas:シューズのミッドソール

ミッドソールに3Dプリントを施したAdidas Futurecraft 4Dシューズ(出典 :StockX)

前述した通り、Adidasはかなりユニークな方法で3Dプリントによる大量生産を活用しています。2017年、同社は新作スニーカー「Futurecraft 4D」のミッドソールを製造するため、Carbonとのコラボレーションを発表しました。

「フューチャークラフト4D」のミッドソールは非常に複雑な形状をしており、標準的な製造技術で製造するのは不可能ではないにせよ、非常に難しいものでした。そのためAdidasは3Dプリントの道を選びました。

2018年、アディダスは年内に10万足(つまり20万個のミッドソール)を生産するという目標を掲げました。野心的な目標に見えるかもしれませんが、Carbonは余裕をもってこの目標を達成できたのです!

しかし、一体どうやってこの短期間でこれだけの量を生産することができたのでしょうか? それはCarbonのDigital Light Synthesis(デジタルライトシンセシス)技術のおかげです。この技術は、高品質な部品の迅速な生産を可能にします。

この技術は、基本的にデジタル・ライト・プロセッシング(DLP)のように機能します。Carbonの技術が際立っているのは、極めて精密に造形する点にあります。この精度を可能にするのは、Carbonが高性能のLED光エンジンを使用しているためです。このエンジンは部品の断面像を投影し、樹脂を希望する形状に硬化させる、DLP技術と変わらない技法です。

Carbonの3Dプリントへの革新的なアプローチのおかげで、Adidas Futrecraft4Dのミッドソールのような複雑な最終用途パーツを作ることが可能になったのです。

BMW:最終製品パーツ

3Dプリンターから取り出したばかりの、BMW i8ロードスター用の金属製3Dプリントパーツの数々(出典:BMW)

3Dプリント技術は長らく自動車メーカーによって導入されており、主に高速な試作造形のために使用されています。SLM(選択的レーザー溶融方式)などの3Dプリント技術がより高度になり、手頃な価格になるにつれて、金属製の最終使用部品の3Dプリントも可能になりました。

そのような事例の最たるものの1つがBMWです。1990年以来、BMWは3Dプリント技術の研究をおこなってきました。そして今、3Dプリントは最新のフラッグシップモデルであるBMW i8ロードスターの生産ラインにも導入されています。

BMWはSLM 3Dプリンターを使って、ルーフ開閉機構のトップカバーのマウントを製造しています。BMWによれば、このような部品を従来の鋳造プロセスで製造することは不可能でした。またBMWは、3Dプリンターで製造された部品はより強く、より軽量であると主張しています。

フラッグシップ・モデルであることを考えると、BMW i8 ロードスターはかなり大量に生産されることになるでしょう。正確な台数はわかりませんが、i8ロードスターは他の多くのBMWと同様、量産車であることは間違いありません。

これは、3Dプリンティングが大量部品生産に対応できることを証明しています。パーツは粉末焼結技術を使って金属粉末から作られるため、一度に大量の3Dプリントができるのです。

上の写真を見れば、1台の3DプリンターでBMWが一度にどれだけの数を生産できるかがわかるでしょう!

Chanel:マスカラブラシ

シャネルの3Dプリント・マスカラ・ブラシ(出典:Chanel

信じられないかもしれませんが、最近ではマスカラブラシでさえ3Dプリントされています!Chanelは、パリに本社を置く3Dプリンティング会社Erpro Groupと提携し、このムーブメントを先導しています。

Chanelの目標は、月に約100万本のブラシを3Dプリントすることです。まさにこれは、3Dプリンティングによる本格的な大量生産と言えるでしょう!

マスカラブラシを3Dプリントするアイデアの背景には、その性能を向上させるという目的がありました。残念ながら、これらのブラシの製造にどの3Dプリント技術が使用されたのかはわかりません。

しかし、このブラシが一般的なブラシと異なる点はどこにあるのでしょうか?  それはデザインです。Chanelはこの新しいブラシを、より多くのマスカラをブラシにつけられるようにデザインしました。また、3Dプリンターで作られた新しいブラシは、マスカラとまつ毛の密着度合いを向上してくれるはずです。

Rehook:中量生産

パッケージングされたRehookのアイテム(出典:SportPursuit)

Rehookは、自転車のチェーンが外れた際に、それを元に戻すのを助ける便利なツールです。これは、自転車の愛好家グループによって開発され、現在はSLS方式の3Dプリンターを使用して、グラファイト充填ナイロン材料で生産されています。

Rehookは、すべて3Dプリンターを使用して生産されています。この記事は大量生産に関するものですが、中程度の生産量であっても、Rehookを含める必要性を感じたのです。

これは、3Dプリンターがいかに生産をより速く、より安くすることができるかを示す素晴らしい例だからです。スタートアップ企業であるRehookにとって、1ドル単位のお金が非常に重要になるのです。

3Dプリントによって、Rehookは短期間で製品を市場に投入することができました。もし3Dプリンティングがなければ、Rehookはまず従来の技術に投資する必要があり、製造コストはより高いものになったでしょう。

SLSが生産に利用されているため、大量のRehookを同時に高品質で生産できるのです。

IKEA:手の形のフック

IKEA Omedelbarコレクションの、手の形をしたフック(出典:ikea.today)

スウェーデンの大手家具メーカーIKEAは、最新製品のひとつであるOMEDELBARコレクションのメッシュハンドの製造ソリューションとして、3Dプリントを選択することを決めました。

IKEAのOMEDELBARコレクションは、スタイリストのBea Åkerlund氏とのコラボレーションによって生まれました。IKEAの初の3Dプリントによる大量生産製品は、OMEDELBARコレクションの「メッシュハンド」です。

メッシュハンドは壁に掛けたり、ジュエリーの装飾用ハンガーとして使うことができます。生産数量は不明ですが、大量生産とみなすには十分な量であることは間違いありません。

イケアが選択した3Dプリント技術はSLSで、1台の機械で複数のメッシュハンドを一度に生産することができます。

しかし、結局のところ、なぜイケアは3Dプリントの道を選んだのでしょうか?イノベーションの一歩を踏み出すためであることは確かですが、実用的な理由もありました。

イケアの従業員によれば、デザインの難易度が高すぎるために、製品全体をやりなおす必要があったようです。メッシュハンドの特徴は、ご想像の通り、複雑なメッシュデザインにあります。

従来の製造技術では、このような製品を大量生産するのはかなり難しく、コストもかかります。3Dプリントは、デザイナーにデザインの大きな自由度を与えてくれたのです。

おわりに

使用中の工業用ストラタシス3Dプリンター(出典:Javelin Technologies)

これまでの例からわかるように、3Dプリンティングはすでに最終用途部品の製造に活用されています。しかし、それでもなお、3Dプリンティングが従来の製造技術よりも適している理由を疑問に思うかもしれません。幸いなことに、我々はその答えを持っています。

3Dプリントが生産に適しているかどうかを判断する主要な疑問は2つあります:

  • その技術は、希望する生産量を満たすことができるか?
    • もし3Dプリンティングが生産量の目標を達成できるのであれば、検討すべきです。しかし、費用対効果も忘れてはいけません。
  • 3Dプリントで部品を製造した方が安いか?
    • これは極めて重要な質問です。従来の製造技術では非常に複雑な部品を製造することはできませんが、3Dプリンティングでは可能です。また、従来の製造技術では、製造開始前に工具を作る必要があり、コストがかさむ要因になります。

見出しの質問に対する単純な答えはありません。考慮すべき検討事項が多すぎるからです。例えば、100万個のプラスチック鉢を製造する必要がある場合、従来の製造技術の方が3Dプリントよりも早く、安く製造できます。なぜなら、100万個の部品は決して小さな数ではなく、また、鉢は複雑な形状ではないからです。

一方、イケアのメッシュハンドのような複雑な形状を製造する必要がある場合は、3Dプリントの方がより安価で迅速に製造できます。なぜなら、このような複雑な形状の工具を作るのは非常に困難で、コストもかかるからです。

つまり「3Dプリンティングは大量生産に使えますが、何を作りたいかに大きく依存する」というのが最良の答えと言えるでしょう!

トップ画像の出典:3D Hubs

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