金型では成形できない!3Dプリントでシームレスな双眼ルーペを製造 株式会社アイ・ティー・ケー

株式会社アイ・ティー・ケー様は、大学やメーカーとの共同研究やロボット開発を中心に様々な分野の研究開発を行い、母体企業である株式会社岩田鉄工所のオリジナル商品の開発と販売をしています。金型では作れない一体構造の製品を3DプリントサービスのMJFを活用した製作についてお伺いしました。

岩田真太郎様 プロフィール

株式会社アイ・ティー・ケー 代表取締役CTO

1979年 岐阜県生まれ。 人型ロボットハンド「ハンドロイド」等、国内の企業や大学と共同開発を行い、CES(ラスベガス)やHYPER JAPAN(ロンドン)といった国際的な展示会で発表。TV番組からのオファーも多く、ドラマやバラエティの監修も手掛ける。株式会社岩田鉄工所 代表取締役社長、LANDMディレクター、i-wave「シンタとケンジの秘密基地ゴールドDX」パーソナリティ、広島大学 宇宙再生医療センター 研究生。

双眼ルーペの絶妙な角度を保持する形状だと、金型からパーツを抜くことができない。パーツを細かく分ければできなくもないが、美しくないうえに機能的でもない。

材料強度の問題を解決し、理想の形状を保ったまま製造できた。金型のコストも不要になった。

3Dプリンターを使えば、加工プロセスを考慮しない自由な発想でデザインできるし、短期間でトライ&エラーができる。無駄な在庫を抱えなくて良いので助かっている。

3Dプリントならではのシームレスなルーペをデザイン 株式会社アイ・ティー・ケー

アイ・ティー・ケー様の簡単な概要と DMM.makeを使って造形しているものをご紹介いただけますか?
アイ・ティー・ケーは、精密部品加工を行う岩田鉄工所の開発部門が独立した子会社で、オリジナル商品を開発して販売する会社です。これまでは製品の試作をする際、設計図からNCプログラム*を作成し、工作機械でひとつずつパーツを削り出していました。
それと並行して、10年ほど前から3Dプリンターで試作品を作って、形状に問題がなければ量産するプロセスに変わってきています。オリジナル商品の開発も、金型を使った成形や、金属を削ってパーツを作る手法から「3Dプリンターの技術を使ってそのまま製品化してしまおう」という発想に至りました。
3Dプリンターを活用したモノづくりが進んでいるのですね。
そうですね。そういった発想から、金型では作ることのできないルーペの開発および製品化に取り組み始めました。3Dプリンターで造形したものを、そのまま製品化する意味を成すため、あえて金型では成形できないシームレスでワンピースのルーペのデザインに取り組みました。
*NCプログラム(Numerical Control):Numerical Controlは数値制御という意味で、位置や速度などを設定して自動制御し機械を動かすためのプログラムのこと。

美しいデザインと機能性が融合「ハカドルーペ」

3Dプリンターで作られたルーペについて、特徴と詳細を聞かせていただけますか?
開発した製品はハカドルーペ」と名付けた双眼ルーペです。
表面まで美しい「ハカドルーペ」
かなり表面がキレイですね。塗装までしっかりされているのでしょうか?
これはDMM.makeで造形したものを弊社の協力会社で塗装と磨きを繰り返して表面を仕上げています。専用のストラップをテンプル先のフックに引っかけられるので、普段は首から下げて、使うときは後ろのクリップで調整して固定できるようになっています。
横から見るとわかりますが、普通のルーペにはない角度を付けています。ルーペそのものが視界を遮っていないので、目線が水平以上であれば、ルーペをずらさなくてもPCモニターや書類を肉眼で確認することができます。
「ハカドルーペ」ならルーペをかけたまま別の作業ができる
なるほど。非常によい製品ですね。
ありがとうございます。一般的なルーペは倍率が低く、顔を物に近づけたり、逆に物を顔の近くに寄せたりする必要がありますが、ハカドルーペはガリレオ式のルーペですので焦点距離が遠く、通常の姿勢のまま、70mmくらいの範囲をおよそ3倍の大きさに拡大して作業をすることができます。
焦点を合わせる必要があるのでしょうか?
焦点を合わせる必要がないように、レンズの位置を独自に計算して設計した幅と角度にしているので、誰でもすぐに使うことができます。
通常の姿勢のまま作業ができる「ハカドルーペ」

ハカドルーペの特徴は「誰でも使えて、リーズナブル」

人間の顔の大きさがそれぞれ違うように、目の大きさや左右の眼球の距離も人によって全然違います。瞳孔間距離といって、社内で調査したところ個人差が10mm以上もありました。
結構ばらつきがありますね。
双眼ルーペはサージカルルーペともいわれ、歯科医や外科医が施術の時に使うもので、メガネのレンズに鏡筒が固定されているのが主流です。そのためユーザーは瞳孔間距離に合わせて、それぞれがオーダーメイドで作る必要があるのです。
オーダーメイドで作られた双眼ルーペだと、他の人は焦点が合わないため使えません。アイ・ティー・ケーのハカドルーペは独自に計算したレンズの位置に設計されているので、瞳孔間距離に合わせて調整をする手間もなく、誰でもすぐに使うことができるのです。
また、これまでの双眼ルーペは医療業界で使われることが多く、一般の人は入手しづらい欠点がありました。仮にオーダーできても、20〜30万円ほどの高額な費用もかかります。
販売価格は52,000円とやや高めですが、これらの利点とこれまでのルーペの欠点を見比べると、かなりリーズナブルな価格に抑えられているのではと感じています。
焦点を合わせる必要がなく誰でもすぐ使える

3Dプリンターであればデザインの自由度が高く、在庫を抱えなくていい

金型では難しいとされるポイントは何でしょうか?
一般的なメガネやルーペとは違い、双眼ルーペは左右の鏡筒の位置が少しでも変わると、物が二重に見えたり焦点が合わなくなってしまいます。そのため絶妙な角度を保持するために2つのフレームを使って鏡筒とつないでいます。この形状だと、金型からパーツが抜けないので成形できないんです。
鏡筒が内側に向いている時点で金型だとかなり厳しいですよね。
そうですね。内側に向いていて、さらに下を向く形状なので、フレームを金型から抜くのは不可能です。パーツを細かく分ければ作れないこともありませんが、美しくないし機能的でもありません。3Dプリンターを使えば、データからそのまま成形できて、無駄な在庫を抱えなくて良いので助かっています。
金型を起こすだけでもかなりのコストがかかりますよね。
金型を作ると、型のコストだけで莫大な費用がかかりますし、射出成形もロット数が少ないと単価が上がってしまいます。また、金型で成形できたとしても、どうしてもチープな感じがしますし、材料の強度不足の懸念もありました。
「ハカドルーペ」の3Dデータ画像

PA12を選んだのは強度や柔軟性が優れているから

なるほど。強度的にも物足りなさがあったと。
そうですね。フレームが一体構造になっているハカドルーペの形状は、射出成形でよく使われるABS樹脂*では耐久性に欠けました。
おそらく割れやすそうですね。
DMM.makeで利用したMJFで造形されたPA12は今回のルーペと相性が良かったですね。ナイロンであるPA12は靭性、柔軟性が非常に優れています。また表面を塗装したことでフレームの強度も上がり、着け心地も良くなりました。
*ABS樹脂(Acrylonitrile Butadiene Styrene/アクリロニトリル ブタジエン スチレン):硬度や強度、耐熱性、耐衝撃性に優れ、自動車や家電製品、玩具、建材、医療器具などの製造など幅広い用途に利用されている。
PA12のサンプル画像(DMM.makeで造形)

クラウドファンディングでも大成功! 大人気のハカドルーペ

在庫を抱えなくて済むのは3Dプリンターのメリットの1つです。ハカドルーペはどのような方法で販売されているのでしょうか?
現在は弊社のWEBサイトで購入できるようになっていますが、マーケティングを兼ねてクラウドファンディングで先行販売しました。その時だけで300個くらい売れましたね。
すごいですね。クラウドファンディングで受付を締め切ってから造形されましたか?
クラウドファンディング開始前から発注して準備していました。DMM.makeさんに発注したところまでは良かったのですが、その後の工程がいろいろ大変で、発送が完了するまでに4ヶ月ほどかかりました。
かなりの時間がかかってしまいましたね。クラウドファンディングをオープンした当初から、300〜400個ほどのルーペを作る前提で取り組まれましたか?
そうですね。個人的にはさらに売れると思っていました(笑)
なるほど(笑)
運営サイドからは「5万円のルーペなんて売れないですよ」みたいに言われましたけど(笑)クラウドファンディングをオープンしたら、1時間くらいで出資額が50万円を超えていました。
すばらしいですね。ハカドルーペは最初から3Dプリンター前提での企画でしたか?
これまでのルーペの概念みたいなものを取り払いたくて、メガネのレンズに鏡筒が埋め込んであるとか、フレームが視界の邪魔をするとか、そういうことはやりたくなかったんですよ。自分の理想を実現するためには、3Dプリンターの活用が必要不可欠でした。
「ハカドルーペ」のクラウドファンディングの様子

DMM.makeを使う理由は「安定した品質で量産できる」

DMM.makeをお使いいただいたきっかけは何でしょうか?
日本HP社のMFJを導入されていると他社からご紹介いただいたのがきっかけです。高精度で造形できるので利用させてもらっています。
御社に依頼すれば品質も安定して、量産できるのでお願いしています。
ありがとうございます。

DMM.makeなら「サポート材の除去から検査まで、何から何まで対応してもらえる」

現在もなお、DMM.makeをお使いいただいていますが、新たに3Dプリンターを導入するようなお話はありましたか?
実は、今回の製品量産用に新しくSLS方式の3Dプリンターの導入を検討していましたが、御社の造形サービスのクオリティが高いので、そのままお願いしています。
新しく導入しようとすると人材や場所など付帯設備が必要で大変ですよね。
自社で設備を導入すれば、最低限の電気代と材料費、年間にかかるメンテナンス費用だけで済むかもしれません。ただ、御社に依頼したほうが、サポート材の除去から検査まで、何から何まで対応してもらえます。不良品が入らないですし、高い品質の製品を外部に発注できるのは非常に大きなポイントだと思っています。
ありがとうございます。現在のご発注は法人としてご依頼いただいていますか。もしくは、個人でアカウントを作成して、オンラインでお見積りを取られていますか?
量産品は法人として請求書払いで発注しています。ただ、個人でもアカウントを作成していて、製品の試作を頼んだりしていますよ。

人間の手を再現したロボット「ハンドロイド」

差し支えなければ、個人のアカウントでご注文いただいているものを教えていただけますか?
アイ・ティー・ケーでハンドロイドという人型のロボットハンドを開発しています。サーボモーターなどを構造内部に効率よく最適な場所に配置するために3D設計しているので、どうしても3Dプリントでないと再現できないパーツがあるためです。
開発中のハンドロイド デザインにムダがなくスマート
かなり複雑そうですね。
ハンドロイドのアームは関節ごとにモーターが設置されているので関節に荷重が大きくかかります。人間の手を再現したロボットなので、物を持ったり仕事をさせようとすると、さらに負担が大きくなります。
手首の先端が軽いのは前提条件で、腕全体の重量をいかに軽くするかが大きな課題です。しかし肩や肘のフレームをナイロン素材で作ってしまうと、繰り返しの動作で過負荷になった時に破損してしまいます。だからといって、金属パーツを切削加工するのは非効率なので、個人のアカウントでアルミなどの金属素材を使って、試作品を3Dプリントしています。
たしかに切削加工だと作れないような形状ですね。
そうですね。作れなくもないですが、精度が必要なパーツではないし、数も1個あれば良いので、3Dプリンターを利用した方が圧倒的に効率が良いです。まずは樹脂の3Dプリンターで試作して、機能的な問題を解決してから、金属化した方が格段に効率は上がります。ですので、パーツ形状や材質のトライ&エラーをメインに個人アカウントを利用しています。
ハンドロイドのパーツ 業務効率化のため3Dプリンターを利用

新素材でデザイン重視の焼肉用トングを開発中

ハンドロイドとは別に、チタンを使った新製品の開発も進めています。最終的にはプレス加工で行う予定ですが、試作段階では3Dプリンターで成形して、軽さや熱の伝わり方、バネ性を検証しています。
なるほど。個人アカウントでも新製品の試作を作られているのですね。どのような製品を開発されているのでしょうか?
簡単にいうと、スタイリッシュでラグジュアリーな高級焼肉店で使っていても違和感のない、デザイン重視の焼肉用トングです。トング自体は軽く、しっかりつかめて、お肉の重さを感じられるような、お肉が美味しくなるトングを作ろうとしています。
デザインの確認もしっかり行っていますが、今回は少し開発に手こずっています。やってみて分ったのですが、焼結された素材と無垢の板材とでは、同じチタン材料であっても、強度やバネ性が違ったんです。
なるほど。仕方のない部分ではありますね。
3Dプリンターで成形ができても、本物の材料でうまくいくかは別問題なので、プレス加工で作る前提に立ち返ってもう一度デザインし直す必要があるな、みたいなことを繰り返しています。
3Dプリンターが便利とはいえ、製品開発をするためにはしっかりと使い分ける必要がありそうですね。
そうですね。3Dプリンターは、手に取った感触や形状を1/1スケールで触れられて、開発を進められるのが大きなメリットです。最終製品を製作するタイミングになったら、それまでとはまったくの別物と考える必要があるとわかりました。
ルーペを開発した際は、物性がぴったりだったんですね。
そうですね。ラッキーでした。やはり3Dプリンターがあると便利ですよ。
モノづくりのプロの方におっしゃっていただけると我々もうれしいです。
チタンのサンプル画像(DMM.makeで造形)

3Dプリンターの普及でSF映画のような夢物語が実現できることを期待

今後の3Dプリンター業界に期待することがあれば教えてください。
3Dプリンターが普及したことで、誰でも簡単に速く、安く、3Dデータから造形できるようになりました。
3Dプリンターは、若干の調整はあっても金属の切削加工に比べれば、専門知識もそれほど必要なく、段取りもかなり少なく済みますね。
そうですね。3Dプリンターと従来の製造方法、それぞれにメリットがあるので、用途に合わせて使い分けるのが良いと思います。今後さらに技術が進歩しても、すべてが3Dプリンターに置き換わることはないと思っています。金属であれば3Dプリンターと切削加工の複合とか、新たなプロセスでモノづくりをするスタイルが増えるだろうなと感じています。
極端な話、自分の細胞を培養して皮膚や骨などを成形して移植するとか。マテリアルが広がれば、医療の分野でも3Dプリンターの活躍が加速していくと思います。
セラミックを出力できる3Dプリンターが登場しているので、骨なども造形可能になるかもしれませんね。
3Dプリンターが普及して、SF映画のような夢物語を実現できる時代が来たなと思います。開発中のハンドロイドはその技術を応用して義手も作っていますが、時代がもっと進めば、ロボット技術と再生医療が融合し、最終的には、ほとんどが再生医療に変わっていくことを期待していますね。
いいですね。そのような未来を期待したいです。お時間をいただきまして、ありがとうございました。
ありがとうございました。

株式会社アイ・ティー・ケー
ホームページ:https://itk-pro.com/
株式会社岩田鉄工所
ホームページ:https://itk.co.jp/

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