田中浩也先生に聞く! 第3回 失敗を恐れないものづくり人材育成のために

日本の3Dプリンターの研究を牽引してきた田中浩也先生(慶應義塾大学SFC環境情報学部教授)にお話を伺い、田中研究室卒業生でもあるDMM.makeのスタッフが共に3Dプリンターのこれまでとこれからを考えていきます。
第3回目は3Dプリント人材を多数輩出されている田中研究室の「人づくり」について教えていただきました。

プロフィール:田中浩也先生
環境情報学部 教授/博士(工学) デザイン工学
1975年 北海道札幌市生まれのデザインエンジニア。専門分野は、デジタルファブリケーション、3D/4Dプリンティング、環境メタマテリアル。モットーは「技術と社会の両面から研究すること」。
慶應義塾大学KGRI 環デザイン&デジタル マニュファクチャリング創造センターセンター長
文部科学省COI-NEXT (2023-)「リスペクトでつながる「共生アップサイクル社会」共創拠点」研究リーダー
東京2020オリンピック・パラリンピックでは、世界初のリサイクル3Dプリントによる表彰台制作の設計統括を務めた。

慶應義塾大学SFC・田中研究室での学び方

田中ラボの風景

──DMM.makeとしても、より3Dプリントやものづくりに関わる人が増えたらと思っております。
教育機関として、田中研究室ではどのような学びがおこなわれているのか改めて先生のお考えを教えてください。

田中研究室はまず、「デザイン工学」の研究室です。通常の研究室は「デザインの研究室」か「工学(技術)の研究室」だと思いますが、私のところではこの2つが同居しています。

そのなかで、3Dプリンターというテーマはこの10年、われわれにぴったりだったのです。まず、技術自体がまだまだ未熟なところからはじまったので、技術開発が必要だった。それは工学の分野です。

しかし同時に、3Dプリンターの特徴を生かした新しいデザインも必要とされていた。それはデザインの分野です。

そして、新しいデザインを実現するための設計ツール(CAD)、新しい機械を制御するためのソフトウェア(CAM)や制御言語(G-Code)などの開発は、工学の眼とデザインの眼の両方が必要だった。
その知識とセンスをもった学生が田中研には多く集い、卒業していまなお活躍しています。

──田中研究室の学生はどのように3Dプリントを学んでいきますか?

まず一人1台自分の3Dプリンターを持ってもらう。あとは慶應義塾の思想で「半学半教」というスタイルに則って、基本的に互いに教えあうというスタイルです。

──私が学生だった頃(2010年代前半)は「3Dプリンターってどんな物なんだ?」という時代でしたから。半学半教の雰囲気はその頃から強くありました。

あとは、「教わった方が良いこと/自分で手を動かして学ぶこと」の比率の調整くらいですね。「なんでも教えてあげる」のではなく、「最初だけ教えたら、あとは自分で学んで自走してね」という、自己学習スタイルに最適化されています。

3Dプリントで起業! ベンチャーを多数輩出

──田中研究室を卒業された方はそのまま3Dプリント関連の事業で起業される方も少なくないですよね?

【田中研究室卒業生が起業した組織(一部)】

卒業生はデザインや建築、福祉など幅広い領域で活躍しています。
「なぜこういった人材が育つのか?」とよく聞かれますが……どうしてでしょうね?(笑)

──最初にお話されていたように、「3Dプリンターを使って何をするか?社会にどう役立てるのか?」と問う力が鍛えられて、社会のニーズを汲み取る力やビジネスとして成り立たせる力がつくのかもしれないですね。
卒業生が集ったこちらのイベントでも語られていました。

──まさに、SFCの設立当初の教育理念にもある「問題発見・解決型教育」を実践した結果、自らの発見した問題を社会実装するための手段として起業という選択肢を選ぶ方が田中研究室には多い印象です。
その手法として田中研ではデザイン工学を用いる訳ですが、研究室に所属していると実際に課題を持った企業などの共同研究やCOIのプロジェクトなどを通して様々な事例に触れられた環境でした。
ここで学んだことは起業に限らず、DMM.makeで働いている今でも役立っていますよ。

「学校は失敗をたくさんしてもらう場」「新しいことをするなら、失敗を覚悟しないと」

さて、「なぜこういった人材が育つのか?」という問いに戻りますと、教育者としては「失敗をたくさん経験してもらう」というのが根幹にありますね。

「最初から失敗しないと分かっていることしかやらない」というマインドだと起業はできませんよね? 起業は挑戦の連続なので。

だから、学生のうちにたくさん失敗して、そして失敗するだけでなく、その原因を自分で分析して、なぜ失敗したのかを理解して次に活かす、ということを繰り返して、「難しいことにチャレンジしていく」というマインドは育ててきたと思います。
コンフォートゾーンの外に出る練習と言いますか。

DMM.makeのような企業体では「失敗しました、ごめんなさい」はなかなか言いづらい立場かもしれませんが、大学では僕はそれは言ってよいと思うんです。

──「失敗はあるものだ」、「それも含めて面白い」、と思える人が増えると、日本のものづくりの世界はより発展できるのではないかとお話を聞いて感じました……!
私たちも「失敗した先に辿り着ける世界」を伝えていきたいですね。

また卓上のFDM3Dプリンターは「失敗」の見える化・触れる化ツールとしてはとてもよいんですよ。
ちゃんとセッティングしないと「もじゃもじゃ」が出てくるし、他にも不備があれば、穴があいたり、歪んできたり、いろいろなタイプの失敗が「物質」のかたちを伴って目の前に顕れてきます。
それは使っている本人の写し鏡なわけです。
きちんと不備のないデータと機械のチューニングを怠らなかったときだけ、綺麗なものがプリントされてくる。

こういうことを通じて「困難と向き合う姿勢」のようなものを培っていくのだと思います。

──日々ものづくりに挑戦されている方々にとっても背中を押されるようなメッセージをありがとうございます!!

第4回では2022年から開始した鎌倉におけるまちづくりの実践ついてお話を伺います。

田中浩也先生に聞く! 第4回 リサイクリエーション慶應鎌倉ラボとまちづくり

【全5回 田中浩也先生へのインタビューはこちら】
「田中浩也先生に聞く! 第1回 3Dプリンター研究10年史」
「田中浩也先生に聞く! 第2回 ウィズコロナ/アフターコロナ時代と3Dプリント技術」
「田中浩也先生に聞く! 第3回 失敗を恐れないものづくり人材育成のために」
「田中浩也先生に聞く! 第4回 リサイクリエーション慶應鎌倉ラボとまちづくり」
「田中浩也先生に聞く! 第5回 3Dプリンターがつくる循環型社会」
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