難易度の高い形状を実現するために3Dプリンターを活用 フォーミュラSAE北海道

フォーミュラSAE北海道の貫井悠太朗様、横山達己様よりお話を伺いました。独創的な発想から生まれたパーツを形にするために、DMM.makeの3Dプリントサービスを活用した事例をご紹介します。

貫井悠太朗様 プロフィール
北海道大学工学部情報エレクトロニクス学科2年
フォーミュラSAE北海道チーム(FHT)所属
パワートレイン部門リーダー

横山達己様 プロフィール
北海道大学工学部機械知能工学科3年
フォーミュラSAE北海道チーム(FHT)所属
テクニカルディレクター

ガラス繊維強化プラスチックを私たちで塗り固めながら積層する方法だと、パーツ自体が大きくなり、アクセルを踏んでからエンジンが反応するまで時間がかかった。タンク内も空気の抵抗が大きくなってしまい、エンジンの出力をあげるのが難しくなった。

サイズ、なめらかな質感、設計したとおりの形状で製作できた。パーツを分解せずに一体で造形することができた。

3Dプリントを活用することで、理想とする吸気パーツを製作できるようになった。

北海道から学生フォーミュラに参戦 フォーミュラSAE北海道


フォーミュラSAE北海道のフォーミュラーカー
まずはチーム全体の説明をしていただけますか?

チーム全体のメンバーはだいたい11人くらいです。
学年としては1年目のメンバーが7人ほどで、他大学と比較してもかなり若いチームだと思います。

これまでのご実績を教えていただけますか?

直近の実績としては昨年度の大会は総合で32位でした。
歴代の最高実績では、2011年大会で総合11位になったことがあります。

ちなみに前回は3Dプリントを使用したパーツのおかげで、1周のタイムを競う「オートクロス」という種目で上位の13位に食い込むことができました!

普段は北海道で活動している私たちですが、大会は気候の異なる本州で、真夏の炎天下の中でおこなわれることが多いです。
過去には冷却が足りずにマシンがオーバーヒートを起こし、完走できなかった苦い経験もあるので、今は全種目完走を目指して頑張っています!

フレッシュなメンバーが揃い熱気溢れる様子が伝わってきました。
ものづくりやツールの扱いなどはみなさん大学に入ってから学ばれるのでしょうか?

チームのほとんど全員がそうですね。
企業様に3DCADソフトの「SOLIDWORKS」や解析ソフトを提供していただいたり、講習会を開いていただいたりしながら活動をしています。

スポンサー様のなかには、自動車メーカーの解析を手伝う企業もあります。
実際のモデルを見ていただき、解析条件のアドバイスをいただいたりしています。

難しそうな側面もありますが、実際に活動をされてみていかがですか?

3Dデータを触るのが楽しいので、気付いたらできるようになっちゃいました。
立体的なお絵描きをしている感じですかね。


SOLIDWORKSで設計した吸気パーツ

「3Dプリントで造形したタコ足状の吸気パーツ」は他校からも注目!

「ここは他校に負けない!」と自覚されている強みはありますか?

3Dプリントでパーツを作っているチームは少ないので、その意味では他校に負けていないと思います。

大会では他校との交流もよくあります。
マシンについて聞かれることが多いのですが、そのなかでも特に質問されるのが御社で造形した吸気パーツだと思います。

確かに目を引く形状ですね!

3Dプリンターのおかげでかなり複雑で細かい形ができているので、そこも他校からよく聞かれますね。


他の大学でも話題の吸気パーツ

実際にマシンに搭載された吸気パーツ
こちらはどのような役割をもつパーツでしょうか?

エンジンに空気を送り込むために使われるパーツです。
4気筒エンジンに均等に空気を送り込むためパーツをタコ足状にしています。空気の流れを解析して、形状を最適化しています。私たちでモデルを作成して、解析ソフトで空気の流れを計算して、そのデータを分析しながら調整しています。


解析ソフトでわかる空気の流れ
データの解析の結果、この形が最適だったのでしょうか?

タコ足部分は全部で4本の管状になっていますが、実は全部同じ長さなんです。
同じ長さを維持しつつ、違う場所のものを一点に集中させようとすると、このように複雑な形状になります。
この形状は3Dプリントを活用しないと再現が難しいので、DMM.makeさんに発注いたしました。

学生フォーミュラのなかでもかなり珍しい形状ですか?

私たちが初めてだと思います。
最近だと、大阪大学とか埼玉大学とかもこの形状になってきましたね。

他校もマネたくなるほどすばらしい出来だったのですね!

おそらく、他の大学も一度はタコ足状を試そうとしています。ただこの形にするにはパーツをすべて一体で作らないといけないので、技術的に難しくて、多くの大学が諦めているのではないでしょうか。

そこを諦めずに実現させたところが素晴らしいですね!

手作業で積層したパーツの課題は「サイズとタンク内の空気の抵抗」

これまではどのようにパーツを製作されていましたか?

手作業です。
2015年頃はアルミ製で、2017年頃ではグラスファイバーを使ってパーツを積層して作っていました。ただ、造形が難しくて単純な形しか作れませんでした。
3Dプリントを活用することで、私たちが理想とする吸気パーツを製作できました。


2017年に製作した吸気パーツを搭載したフォーミュラーカー
手作業で積層したパーツの場合、具体的にどのように作られていたのでしょうか?

グラスファイバーはシート状のガラス繊維です。それを何層にも積み重ね、樹脂を染み込ませて固める手法で製作していました。内側の型に沿ってシートを積み重ねていきます。最初に型を用意する手間がかかりましたし、筒状の型をどのように取るかなど、多くの難点がありました。

専門用語でいうと、「ハンドレイアップ」という手法を使っています。発泡スチロールに似たもので型を作り、溶けたガラス繊維強化プラスチック*を私たちで塗り固めながら積層していきます。

かなり手間をかけられていたのですね。当時はどのような課題がありましたか?

まず、これまでのパーツには2つの大きな問題点がありました。
1つ目は、手作業でパーツを作っていたため、どうしても吸気パーツ本体のサイズが大きくなってしまうことです。

このパーツは、空気タンクの役割を果たしています。ここで空気を一度溜めてから、4本の管を通って空気を均等に分配していきます。
「スロットル」という便の開閉で、送り込む空気量を調節しますが、サイズが大きくなるとエンジンから離れた場所に空気の制御機構を取り付ける必要があります。
そのせいで、アクセルを踏んでからエンジンが反応するまでの時間が長くなってしまう課題がありました。

なるほど。制御機構とエンジンまでの物理的な距離が近いほうがいいのですね。

2つ目は、エンジンに送り込む空気は音速くらいのスピードで流れているのですが、少しの抵抗があるだけでエンジンの出力がどんどん落ちてしまうことです。
手作業だとタンクの内側のつなぎ目や凹凸が大きくなってしまい、エンジンの出力を上げるのが困難になってしまいました。

*ガラス繊維強化プラスチック:ガラス繊維をプラスチック樹脂で固めた複合材料で、軽量でありながら強度や剛性が高く、耐久性や耐腐食性にも優れている。

「すごい強度だなぁ」と感動! 3Dプリントで様々な課題がクリアに

DMM.makeで造形した吸気パーツをのせたフォーミュラーカー
3Dプリンターを活用することで、2つの課題は無事に解決できましたか?

見事に解決されましたね。
3Dプリントを活用すれば、パーツを分割せずに一体で造形ができて、さらにサイズまで小さくできます。
アルミやグラスファイバーを使っていたころに比べて、だいたい半分くらいの重量に抑えられるようになりました。
すべてがなめらかで、設計したとおりに造形していただけるので、狙ったとおりの特性を発揮するパーツが製作できました。

今回はMJF造形のPA12をお使いいただきましたが、選ばれた理由は何だったのでしょうか?

強度耐熱性ですね。
従来の造形方法では、エンジンの振動でパーツのつなぎ目から割れてしまう問題がありました。

御社で作ったパーツは、3年ほど経ってもまったく壊れる様子がなくて、「すごい強度だなぁ」と感動しています。
エンジンとパーツが直接つながっているにも関わらず、変形や焦げなどもありませんし、「ずっと使える!」と思って重宝しています。

ありがとうございます。
2019年に発注されてから使い続けているのですね。
他にもメリットはありましたか?

また性能面についても、これまではアクセルを開けてからエンジンが反応するまで1秒くらい時間がかかっていましたが、3Dプリンターで作ったパーツに変えてから0.2秒くらいで反応するようになりました。
ドライバーにとっても、非常に乗りやすいマシンを設計できるようになりましたね。

これまでは型作りにも時間がかかっていました。
かつては型を削るのに丸々1ヵ月くらいかかっていたとか……。

3Dプリンティングのサービスなら、発注してから2〜3週間くらいで届きますよね。
型を作って積層するより早いし正確で、データを送るだけで作ってもらえるので、とても素晴らしいと思っています。

「自動車をイチから作れること」「マシンの開発全体にかかわれるところ」が学生フォーミュラの魅力

走行中の様子
今後3Dプリンターを使ってチャレンジしてみたいことはありますか?

解析結果と実物のデータが異なることはよくあるので、とにかく試作品をたくさん作って、データをたくさん取りたいですね。

空気の流れを利用してマシンの性能を上げるための部品が作れたらと思います。
私は担当が車体メインなので、実はまだ3Dプリンターを活用したことがありません。まずは3Dプリンターに慣れるところから始めてみたいですね。

ありがとうございます。最後にお二人からフォーミュラ大会や活動で感じる魅力を教えていただけますか?

自動車をイチから作ることの面白さが魅力だと思っています。
普通、製作工程や費用的にもこんなに大きなものは学生ではなかなか作れません。
学生フォーミュラではいろいろな方々からご支援いただけるので、作りたいものを自由に作れるところが面白いなと感じます。

私はマシンの開発全体に関われるところに面白さを感じます。
たとえば、自動車メーカーに就職した後は、何か1つのパーツを作ったり全体のマネージメントをするなど、開発の一部分に携わるケースが多くなると思います。
この活動では、スポンサー様と交渉したりゼロからパーツを設計することが全部できるのでおもしろいなと感じますね。

まるで一つの自動車会社のようですね!
私たちも皆さんが楽しんでものづくりをされている姿勢に感銘を受けました。
これからも応援しております!

DMM.makeでは学生フォーミュラに参加される大学・学生の方に向けて、特別価格にて3Dプリントサービスをご提供しております。パーツ製作などでご興味のある方はぜひ一度ご相談ください。

学校名:フォーミュラSAE北海道チーム
ホームページ:http://fht-hokudai.com/contents/main.htm

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