
3Dプリンターで電子機器の治具やパーツを造形する際、真っ先に候補に挙がるのが「ESD(静電気放電)レジン」です。その名の通り、静電気を逃がす「帯電防止特性」が最大の売りですが、実はこの素材、「精度」という点において非常に驚くべきポテンシャルを秘めていることをご存知でしょうか?
今回は、DMM.makeで提供されている最新のHPS造形方式3Dプリンタ Lumia X1 での造形をベースに、「高精細ABSライク」と比較しながら、ESDレジンの隠された魅力に迫ります。
1. 帯電防止だけじゃない!Lumia X1素材でもトップクラスの「再現性」
DMM.makeのLumia X1で出力されるESDレジン(Loctite® 3D IND3380)は、SLA方式とDLP方式のハイブリッド技術により、鮮明なエッジと非常に平坦な表面を持つ部品を製造できます。

ESDレジンで特筆すべきは、その圧倒的な再現性です。
DMM.makeの公式ガイドでも「再現性はLumia X1素材の中でも高い素材」と明記されています。実はこのESDレジン、あまりにも造形精度が高すぎるがゆえに、造形機のガラスやフィルターについた微細な傷やホコリすらも拾い上げてしまい、表面にスジ状のテクスチャとして現れてしまうという、ある意味で「精度が高すぎるゆえの弱点」を持つほどです。それだけ、データに対して忠実かつシビアに形状を出力できる素材なのです。
2. 万能エース「高精細ABSライク」との違いは?
汎用性が高く、高品質な「高精細ABSライク(Henkel LOCTITE 3D 3843 BK)」も、同じHPS方式で造形される非常に優秀な素材です。では、両者を比較した場合はどうでしょうか。
| 項目 (単位) | ESDレジン | 高精細ABSライク |
|---|---|---|
| 引張強度 | 40 ~ 50 MPa | 51 MPa |
| 引張弾性率 | 2800 ~ 3000 MPa | 1800 MPa |
| 破断伸び | 1 ~ 2 % | 48 % |
| アイゾット衝撃強度 | 11.5 ~ 13 J/m | 53 J/m |
| ショア硬度 | 86.5 D | 74 ~ 75 D |
| 荷重たわみ温度(HDT)(0.455MPa時) | 180 ~ 190 ℃ | 60 ℃ |
| 表面抵抗値 | 104 ~ 1011 Ω | 一般的な樹脂と同等 |
| 最大交差 | X方向±300μm、Y方向±200μm | X方向±300μm、Y方向±200μm |
最大公差の目安はどちらも「X方向±300μm、Y方向±200μm」と同等ですが、得意とする領域が明確に異なります。


画像左がABS、右がESD。ABSも十分高精細ですが、ESDのほうがより細かな部分まで再現されており、エッジが際立った造形になっているのが見てとれます。
- 高精細ABSライクの強み:【タフさ】
高い衝撃強度と強靭性を持ち、タッピングやドリリングなどの後加工にも耐えうる「割れにくさ・扱いやすさ」が魅力です。 - ESDレジンの強み:【極限のエッジとディテール】
衝撃や曲げには弱く(靭性が低い)、脆いという弱点があるものの、その分ABSライク以上に鋭いエッジや微細な形状をパリッと出すことができます。小さな穴も再現されやすいです。
つまり、「落としても割れない強度が欲しい」ならABSライク、「多少脆くても、とにかく寸法やディテールをバシッと出したい」ならESDレジン、という使い分けが正解になります。

※再現を保証するものではありません。推奨される最小値は各素材のデザインガイドラインをご参照ください。
3. 実は「耐熱温度190℃」というモンスター級のスペック
ESDレジンを選ぶべき理由は、精度だけではありません。
高精細ABSライクの荷重たわみ温度(HDT)が「60℃」であるのに対し、ESDレジンのHDTはなんと「最大190℃」。 さらに、優れた耐薬品性も兼ね備えています。
エンジンルーム周辺のパーツ、高温になる電子基板のテスト治具、薬品を使う環境下での精密部品など、ABSライクでは熱変形してしまうような過酷な環境でも、ESDレジンなら設計次第でその高精度な形状を維持したまま活用できる可能があります。
まとめ:ESDレジンは「超高精度・超耐熱レジン」として使える
「ESDレジン=静電気対策専用の特殊素材」と思い込んでしまうのは、非常にもったいないことです。
- Lumia X1素材の中でもトップクラスの形状再現性
- 高精細ABSライクを遥かに凌駕する190℃の耐熱性
静電気対策という枠を超えて、「エッジの効いた超高精度なパーツが欲しい」「高温環境に耐える精密治具を作りたい」というクリエイターやエンジニアにとって、ESDレジンは強力な武器になります。
次にDMM.makeで精密なパーツを依頼する際は、ぜひ「高精度素材」としてのESDレジンを検討してみてはいかがでしょうか。
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