DMM.make 3Dプリントで扱える素材を紹介する本シリーズ。今回のテーマは「Antero840CN03|FDM」です。造形サンプルを見ながら、特徴やオススメ用途などを解説していきます。ストラタシス・ジャパン社のプロダクト&サービス部 プレセールスアプリケーションエンジニアより一言解説もいただいております。
「Antero840CN03|FDM」基本スペック
「Antero840CN03」とはストラタシス社の3Dプリンター「F900」でFDM方式にて出力できるスーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)の一種です。PEKK(ポリエーテルケトンケトン)ベースの樹脂素材で、耐熱性・耐薬品性だけでなくESD仕様の高機能樹脂です。
得意なジャンル | 航空宇宙、産業機械、電子部品、機能試作、工業製品 |
特徴 | 高機能、耐熱性、耐薬品性、強靭性、ESD(静電気拡散特性) |
カラー | ブラック(単色) |
価格帯目安 | お問合せください |
質感 | ざらざら |
中空構造 | 基本指定不可(※内部充填率の希望がある場合はお問い合わせください。) |
造形可能な最大サイズ | 縦914×横607×奥行914(mm) |
発送目安 | 6〜16日 |
「Antero840CN03」は「アンテロ ハチヨンマル シーエヌ ゼロサン」と呼んでいます。
形状先端は最小幅で形状先端は最小幅で0.254mm程度まで再現可能です。
(※肉厚は1mm以上を推奨します。)
その他の細かな条件はデザインガイドラインを参照してください。
PEKKとは?
Anteroの原料となるPEKKとはポリエーテルケトンケトンの頭文字をとったもので、芳香族ポリエーテルケトンの一種です。
PEEK(ピーク材)も同じく芳香族ポリエーテルケトンのスーパーエンジニアリングプラスチックです。
引用:「【耐薬品性◎航空宇宙業界にも人気】DMM.make 3Dプリント素材紹介「Antero800NA|FDM」」
類似した素材としてPEEK(ピーク材)もありますが、PEKKはより柔軟で、融点が高く、耐久性に優れます。
さらに誘電安定性が良く低アウトガスの性質もあるため、航空・宇宙産業においても利用されています。
Antero(アンテロ)の特徴
DMM.makeでは2種類のAntero素材をご用意しています。
上記の「Antero800NA」と本記事で紹介している「Antero840CN03」の取扱いがあります。
「Antero800NA」にカーボンナノチューブを混ぜ込み、その性能をグレードアップした素材です。
「Antero840CN03」は「Antero800NA」の
- 高強度(強靭性・耐摩耗性)
- 高耐熱性
- 低ガス放出特性・優れた耐薬品性
にくわえて、ESD(静電気散逸性)の特徴をもっています。
航空・宇宙、自動車・モータースポーツといった業界、そして産業機械や電子部品の治具としての利用もオススメです。
機械特性データ
各物性の数値は以下の通りです。
引っ張り強さ(XZ方向) | 54.1 Mpa |
引張弾性率(XZ方向) | 3240±50 Mpa |
破断伸び(XZ方向) | 11.9% |
荷重たわみ温度 (0.45MPa) | 150℃ |
荷重たわみ温度(1.82MPa) | 147℃ |
ULTEM、そして「Antero800NA」よりも「Antero840CN03」は強度があります。
ESD(静電気放電)とは?
ESDとは「Electro-Static Discharge(静電気放電)」の頭文字をとった略称で、帯電した物や人が近づいたときに静電気が発生することを指します。
これにより、人体への衝撃(痛み)、異物の付着、回路破壊や誤作動、着火・爆発といった危険性があります。
ESD対策の手段として、電気を発生させたくない箇所に通電しづらい(抵抗値の低い)素材を使用する方法があるでしょう。
この記事で紹介している「Antero840CN03|FDM」はESD対策としてご利用いただける素材なのです。
こちらの動画ではAntero素材の表面抵抗値を検証・比較しています。
- 「Antero800NA」…7.3×10^10 Ω
- 「Antero840CN03」…9.2×10^4 Ω
結果は「Antero840CN03」の方が表面抵抗値が低く、ESD性能が高いと言えます。
利用事例・オススメ用途
「Antero840CN03」は最終製品にも問題なく使用できる素材です。
より効果的にお使いいただくためには以下のようなシーンがおすすめです。
- 最終製品を従来工法で製作しており、高コストかつ重量物となっているパーツの代替(軽量化)
- 薬品やオイルなどを利用する過酷な環境下でのパーツの代替
- 電子機器類の近くで、放電を防ぎたい箇所のパーツや治工具として
参考:Stratasys Japan「FDM式3Dプリンタ用材料ABS-ESD7およびAntero 840CN03のご紹介」
【事例】Lockheed Martin社の宇宙船パーツに「Antero 840CN03」を利用
航空・宇宙産業において、3Dプリントパーツの活用は一般的になってきています。
Lockheed Martin社(ロッキード・マーティン社)は深宇宙探査目的の宇宙船「Orion号」のドッキングハッチ(直径約1m)にESD仕様の「Antero 840CN03」を利用しました。
既に3Dプリントパーツとして「ULTEM9085」を利用していましたが、静電気放電のためのコーティングが必要でした。
そこで、「Antero 840CN03」に素材を変更し、パーツの削減・軽量化を実現。宇宙空間でも耐えうる機械特性を有していたことはもちろん、開発期間の短縮や製造コストの削減にもなったといいます。
参考:Stratasys “Deep Space with Humans on Board”
まとめ
「Antero840CN03」は「Antero800NA」に、ESD仕様の高機能3Dプリント樹脂素材だとご紹介してきました。
スーパーエンジニアリングプラスチックを3Dプリントするメリットは…
- 過酷な環境下+ESD対策が必要とされる場面での長期間使用
- 複雑形状
- 少量生産
といった場面で発揮されます。
「強度があり、オイルやガス、電気の周辺で使える素材が必要」「1パーツだけ作ってみたい」といったご希望がありましたら、DMM.make にて「Antero840CN03」をご活用ください!