※ この記事はRyan Bazinet氏によるAll3DP.com掲載の記事「Copper 3D Printing – The Ultimate Guide」を翻訳・転載したものです。
純銅や銅の合金を用いた3Dプリントの活用事例が増えています。宇宙分野からコンピュータ用部品まで、さまざまな場面で使用される銅の3Dプリントについて、最新のガイドをご覧ください。
銅はさまざまな場面で需要のある、金属3Dプリントの成長分野の一つです。光を反射しやすく熱伝導率の高い材質ゆえ、銅の3Dプリントはこれまで困難とされていましたが、機材と材料の進歩によって、そうした課題は解決に向かっています。実際に、銅の3Dプリントで作られた部品はロケットのエンジンやCPUを冷却するヒートシンク、モーターの性能を向上させるコイルなどの用途で使われています。
また、銅は太陽光発電やバッテリーといった充電インフラの主要な素材として必要とされるため、持続可能な社会を実現するための大きな役割も担っています。S&P グローバルによる 2022 年の調査では、世界の銅の需要は今後 10 年間でほぼ 2 倍になると予測されており、急拡大する銅の需要への懸念も高まりつつあります。
なぜ銅で3Dプリントするのか?
銅は熱や電気を伝え、腐食に強く、抗菌や殺菌能力もあるため、非常に有用な金属として知られてきました。さらに3Dプリントでの造形が可能になったことで、用途や可能性を広げる複雑な部品としての需要が高まっています。
3Dプリント(AM:アディティブ・マニュファクチュアリング)は他の製法では困難だった複雑な形状や格子状のものを含む内部構造を作ることができるため、軽量化や効率化、製造・組立時間の短縮が可能です。他の製法よりも原材料が少なく、廃棄物も少なく済むこともメリットと言えるでしょう。また、複数の部品からなる組立品を一体造形できるため、組み立ての手間を省くこともできます。原材料費などのコスト削減は、さまざまな企業にとって重要な要件です。
すでに他の製法で銅のパーツを製造している場合でも、3Dプリントで性能を最適化しながら、製造コストを劇的に下げることができるかもしれません。また、金型や工具などに費用をかけず、プロトタイプを素早く作れるという大きなメリットもあるのです。
銅の3Dプリントの重要なアプリケーション
・ヒートシンク
・熱交換器
・インダクションコイル
・電子機器
・バスバー、ヘアピン型ステーター、シングルコイル
・アンテナ
・RFシールド
・高周波四重極加速器
銅の3Dプリントの最新情報
2022年は、ロケットや医療器具における銅の3Dプリントがニュースを賑わせました。
Ursa Major社は、2022年7月に初めて銅を使った3Dプリントでロケットの燃焼室(チャンバー)を完成させました。同社によれば、従来の製造工程では通常6ヶ月かかるところを、わずか1ヶ月で完成させたといいます。2015年にNASAが初めて銅製のチャンバーライナーを印刷して以来、銅の3Dプリントに注目する宇宙企業は増え続けており、Ursa Major社はその仲間入りを果たします。
2023年2月、カナダのブリティッシュ・コロンビア工科大学は、鉱山を開発するTeck Resources Limited社と共同で「Teck Copper Innovation Hub」を開設しました。この施設には、義肢や装具などのヘルスケア機器における銅のミクロレベルな働きを調査・開発する研究者が入居する予定です。
3DプリンターメーカーのTrumpf社は、同社のマシン「TruPrint 5000 green edition」を使い、粒子加速器の重要な銅部品を3Dプリントしたと発表し、こうした研究ツールがより安価に製造できるようになると期待を高めています。
エンジニア、メーカー企業、デザイナーが新たな想像を広げ、銅の3Dプリントが可能にするものをイメージし、実現に向けて行動しているのです。
銅を扱える3Dプリンター
すべての金属3Dプリンターが銅で印刷できるわけではなく、印刷方式や価格にもかなりのバリエーションがあります。
銅入りのフィラメントを使えば、手頃な価格のFDM方式の3Dプリンターでも、ジュエリーや装飾品などのパーツを銅で作ることができます。さらに、より高度なマシンを使えば、銅の粉末やポリマーとの混合物などを用いて、IACS(国際軟銅線標準)などの国際規格をも満たす、優れた特性を持つ工業用パーツを製造できます。
銅を扱える3Dプリンターの主な種類を見てみましょう。
パウダーベッドフュージョン方式
パウダーベッドフュージョンは最も人気のある金属3Dプリント方式で、複数のメーカーが銅を材料として扱い始めています。銅は反射率が高いため、レーザーでの粉末加工はハードルが高いものでしたが、技術や材料の進歩によって、この課題への対応が進んでいます。
たとえば、3DプリンターメーカーのTrumpf社は、産業用グリーンレーザーを開発し、銅や銅合金、貴金属など、赤外線では加工が難しい素材の3Dプリントを可能にしました。また、青色レーザーの技術活用も期待されています。
パウダーベッドを用いた造形方式にはLPBF(レーザーパウダーベッドフュージョン)とEBM(電子ビーム溶解)の2つがあり、それぞれプリンタ内のプラットフォームに銅粉の層を広げ、そこにレーザーや電子ビームを当てることで造形していきます。一層分の加工が終わると銅の粉末を敷き直し、それを繰り返すことで立体物を造形します。この工程で残った銅粉の一部は、次回以降のプリントでリサイクルすることも可能です。
銅を扱えるパウダーベッドフュージョン式の3Dプリンター
ブランド | プリンター名 | 素材 | 金額(概算) |
EOS | M 290 | Cu | $225,000 |
EOS | AMCM M 290 DUAL FDR | CuCP, CuCrZr | $225,000 |
EOS | EOS M 400 | CuCrZr | $200,000 |
GE | Arcam EBM Q10plus | Cu | $100,000 |
Trumpf | TruPrint 1000 Green Edition | Cu, CuCrZr | $170,000 |
Xact Metal | XM200C | CuAlFe, CuCrZr | $125,000 |
Velo3D | Sapphire | GRCop-42 | >$500,000 |
JEOL | JAM 5200EBM | Cu | $225,000 |
AMCM | AMCM M 4K | CuCrZr | 不明 |
3D Systems | DMP Flex 350 (Dual), DMP Factory 350 (Dual) | CuNi30, CuCr2.4 | 不明 |
Renishaw | RenAM 500S AM system | Cu | 不明 |
Prima Additive | Print Green 150 | Cu & alloys | 不明 |
BLT | BLT-S310/S320 | Cu alloy | >$500,000 |
バインダージェット方式
銅粉を液体の結合剤で結合し、炉で焼結するバインダージェットと呼ばれる3Dプリント方式は、サポート材を必要とせずに部品を製造できるため、材料コストを節約できます。
一般的にレーザーでの加工よりも高速ですが、印刷後に結合剤を取り除くための焼結工程が必要となります。ある程度まとまった量の金属パーツを製造する際に、よく用いられる方式です。
銅を扱えるバイダージェット方式の3Dプリンター
ブランド | プリンター名 | 素材 | 金額 |
Digital Metal | DM P2500 | Cu | $275,000 |
Desktop Metal | X160 Pro, X25 Pro, Innovent X | Cu | $150,000 – $250,000 |
Desktop Metal | Production System | Cu, C18150 | $400,000 |
FDM方式とバウンドメタルデポジション方式
フィラメントを用いたFDM方式での造形は、最も安価な方法です。金属粒子を混ぜ込んだフィラメントで印刷し、造形後の後処理で焼結することにより、ほぼ金属と同様のパーツを得ることができます。225度以上に設定可能なヒートベッドや硬化鋼ノズルなど、特殊な装置が必要となりますが、銅の3Dプリントも不可能ではありません。
この方式で銅の性能を得ようとするならば、現在のところ、The Virtual Foundry社製のフィラメントが主な選択肢です。
その他の銅フィラメントは、中に本物の銅の粒子が入っている程度で、磨けば金属のような重みがありますが、機能というよりも装飾用と考えた方が良いでしょう。
チリのCopper3D社も銅を充填したフィラメントを製造しており、銅の持つ抗菌・殺菌特性を生かした部品に活用しています。同社によると、NASAはこのフィラメントを惑星間の微生物汚染を検証するためにも利用しているそうです。
銅のバウンドメタルデポジション
主流のFDM方式プリンターとは別に、Desktop Metal社やMarkforged社など、3Dプリント時に独自の材料を組み合わせる企業もあります。プリント後の焼結は必要ですが、工作機械やコイル、ヒートシンクなどの機能的なプロトタイプや、産業用途で使える金属部品の製造事例が生まれています。
銅を扱えるFDM方式の3Dプリンター
ブランド | プリンター名 | 素材 | 金額 |
Desktop Metal | Studio System | Cu | $160,000 |
Markforged | Metal X | Cu | $99,500 |
コールドスプレー方式 とデポジション方式
この2つの金属3Dプリント方式は、一般的には一緒にされることはありませんが、金属部品に別の金属をコーティングしたり、金属粉末で金属部品を一層ずつ作り上げるという共通の用途があるため、ここではこの2つを組み合わせて紹介します。
DED(Directed Energy Deposition、デポジション方式)は、ニューメキシコ州に本社を置くOptomec社が開発した、金属部品の作成や強化、補修のためのシステムです。高出力のレーザーとともに金属粉末を吹き付けながら造形することで、高い密度と強度を持つ機械部品を作り出します。2019年、Optomec社は、航空宇宙や化学処理、およびその他の産業用途で使用する熱交換器を製造するために、銅の新しいDEDプロセスを開発したと発表しています。
Spee3D社のWarpSpeee3Dは、金属の粉体を超音速で吹き付けることで、銅やアルミニウムを含むさまざまな金属粉末原料から部品を製造する、ユニークなコールドスプレー方式を採用しています。
コールドスプレー方式は、金属粉末を超音速の加圧ガス流に噴射する3Dプリント方式であり、金属を溶かすのではなく、塑性変形と呼ばれるプロセスで金属を結合させていきます。Spee3D社はこの方式によって、病院や学校などで使用するためのドアや手すりに、抗菌銅コーティングを施しています。
また、金属3Dプリントの中でも特に造形時間が速くなっています。Spee3D社は自社の3Dプリンター「WarpSpee3D」で、純銅製の17.9kgの航空宇宙用ロケットノズルライナーを約3時間、わずか716ドルのコストでプリントしたと発表しています。このような部品は通常、無垢の鍛造銅から加工されますが、その工程には数週間と数万ドルの費用がかかると言われています。
デポジション方式やコールドスプレー方式の欠点は、複雑な形状の製造に制限があることです。
銅を扱えるコールドスプレー方式とデポジション方式の3Dプリンター
ブランド | プリンター名 | 素材 | 金額 |
Spee3D | WarpSpee3D | Cu | $160,000 |
Optomec | LENS AM Systems | Cu | $200,000+ |
Prima Additive | Laser Next 2142, Laserdyne 811 | CuSn10, Gr-Cop84, Cu-Mn | 不明 |
光造形方式
一般的には想像しづらいかも知れませんが、液体樹脂を使った細かなディテールの金属の3Dプリントも存在します。
感光性の液体で満ちたバットに紫外線を投影して層ごとに固めるという点では、光造形方式の3Dプリントとも言えるでしょう。ただし、100%の液体樹脂の代わりに、銅素材と液体の混合物と少量の結合剤を使用します。また造形後、最終的な金属パーツになるまではいくつかのプロセスが必要です。
カリフォルニアに拠点を置くHolo社は、非売品の自社製3Dプリンターで純銅パーツを3Dプリントするための施設を完成させました。Holo社はコンピュータや電気自動車、RFアンテナ、熱交換器などを対象とした、銅の3Dプリント品による冷却ソリューションの提供に注力する予定です。
オランダの3DプリンターメーカーであるAdmatec社も、銅素材と液体の混合物を使用して高精細な銅パーツを製造する装置を提供しています。オーストリアに拠点を置くIncus社もまた、光造形方式の金属3Dプリンター「Incus Hammer Lab35」で銅素材を扱っています。
銅を扱える光造形方式の3Dプリンター
銅の3Dプリントパーツを注文する
銅パーツのために3D金属プリンターを購入すると、事業規模よりも大きな投資になるかもしれません。そんなときは、3Dプリントサービスのマーケットプレースである「Craftcoud」での注文がおすすめです。ファイルをアップロードすると、さまざまなメーカーの金属3Dプリント価格を即座に比較することができます。コストと納期に基づいて3Dプリントサービスを比較することで、時間とお金の節約につながるでしょう。
もし特定の銅や材料をお探しの場合は、以下の世界の金属3Dプリントサービスビューローのガイド記事をチェックしてみてください。
銅の3Dプリントで扱える素材
銅や銅合金などの原材料費は、3Dプリントのコストの大部分を占めるので、どのような選択肢があるのか知っておくとよいでしょう。中にはメーカーが指定する素材だけが使える機種もあります。必ずしも他の素材が使えないという意味ではありませんが、メーカー側で検証が行われていない素材を使う場合、ユーザーはリスクを冒すことになるため注意が必要です。
自由に材料が使える3Dプリンターでは、さまざまな金属材料を選択することができますが、パラメータの試行錯誤が必要です。なお、3Dプリント用の銅粉は、他の金属製造に使用される粉よりも丸い粒子になるよう処理されています。不純物が少ないことや、適度な流動性があることなども重要な要素です。
素材ごとに適切なパラメータを調整するのは難しいため、メーカーが推奨する素材を使うことがおすすめです。また、一般的に、パウダーベッドフュージョン方式で使用される銅粉末素材は、デポジション方式、バインダージェット方式、コールドスプレー方式など、他の方式にも適用することができます。
次の表で紹介するメーカーは、いずれも3Dプリント用に特別に開発された製品を扱っています。
ブランド | 素材 |
Höganäs AB | 粉末: CuCr1Zr, OFHC-Cu |
GNK Additive | 粉末: Cu, CuCrZr, CuNi3Si |
Praxair S.T. Technology | 粉末: Cu |
Infinite Flex | 粉末: Cu |
Elementum3D | 粉末: Cu |
Safina | 粉末: Cu |
Mitsui Kinzoku | 粉末: Cu-OF, CuCrZr, CuAl, CuSn, CuZn |
JX Nippon Mining & Metals | 粉末: Cu |
Stanford Advanced Materials | 粉末: Cu |
【画像の引用元】
上段:電気モーターコイル(Additive Drives)、チャンバー(EOS)、新世代小型粒子加速器用部品(Fraunhofer)、コイル(ExOne)
下段:ヒートシンク(Stratasys Direct Manufacturing)、コイル(Trumpf)、ウェルドシャンク( Markforged)、熱交換器(EOS)