地方独立行政法人北海道立総合研究機構 林業試験場の速水将人様よりお話を伺いました。
独立研究法人として非常に大きな研究機関で、林業の他にも農業や水産、建築など、数多くの部門がつながって1つの組織として構成されている地方独立行政法人北海道立総合研究機構 林業試験場。
地形の3D模型をDMM.make3Dプリントで造形されている事例をご紹介いたします。
胆振東部地震の被害状況を一般の方に伝えたかったが、画面上で見てもらっても感触が悪くて、なかなかイメージが伝わらなかった。
3Dデータとあわせて模型を使ってご説明すると、大人から子どもまで広く認知してもらえた。
品質も十分で、サイズ的にもイメージ通りのものが届いて、非常に満足度は高かった。自前だと出てしまう反りがでなかった。
会社概要と活動内容について
本日はお時間をいただきましてありがとうございます。
公設試験研究機関の北海道立総合研究機構で活動されている研究内容をご紹介いただけますでしょうか。
私が所属している組織は、北海道立総合研究機構の林業試験場です。
独立研究法人として非常に大きな研究機関で、林業の他にも農業や水産、建築など、数多くの部門がつながって1つの組織を作っています。
私の所属しているグループでは、伐採や植林に関する研究より、森林環境の管理や保全を主なターゲットとして、さまざまな研究を行っています。
ありがとうございます。
林業試験場にて、速水様がご担当されているお仕事の内容をお聞かせいただけますでしょうか。
私が担当している仕事は、主に2つあります。
1つ目は、2018年に発生した北海道胆振東部地震に伴う地すべり跡地の植生回復手法に関する調査・研究です。
最大震度7の非常に大きな地震が発生して、林業が盛んだった厚真町という地域で、地すべりなどの甚大な被害が出てしまったのです。
今年で5年目になりますが、地震後の森林をどのように管理していけばよいのか、その管理方法について研究を行っています。
もう1つは、十勝や釧路、根室など北海道東部に行くと見られる「防風林」という、低地の畑や道路に沿って直線状に植えられた森林の管理方法について研究しています。
北海道の防風林は戦後にたくさん植えられましたが、徐々に古くなってきたので、今後は徐々に新しくする施業「植え替え(=更新)」を行う必要があるんですね。
防風林は、名前のとおり風を防ぐために植えられた木々のことを指していますが、そこには絶滅危惧種を含めてさまざまな野生生物も生息しています。
防風林の本来求められている防風効果の維持と、防風林に暮らす生き物やその生息環境の保全を両立した管理方法について研究しています。
DMM.makeの活用方法について
研究の中で、弊社の造形サービスはどのようにご利用いただいているのでしょうか。
現地の方々や行政・振興局など森林管理者に、被災地や危険地域の現状を説明するための模型を発注しました。
これまでは現況把握のために活用していたドローンのデータを使って、地震の被害を地図化してご説明してきました。
ただ、地すべり跡地の実際の傾斜や周辺の被災状況など、三次元的によりわかりやすくお伝えするためにDMM.makeのサービスを活用するにいたっています。
なるほど。
現況把握のためにドローンを活用されているとのことですが、地震の被害を受けた地すべり跡地でドローンを使ったのでしょうか。
おっしゃるとおりです。
胆振東部地震で検索すると航空写真が出てくるのですが、「ここが本当に森だったのか?」と疑問に思うほど地形が変わってしまっています。
山の尾根だけを残してほぼ崩れてしまっている地域もあるので、一言や二言ではとても説明しきれませんでした。
二次元での説明だけでなく、三次元の情報も必要だと判断して、DMMさんに注文しました。
ありがとうございます。
地震の影響を受けた土地の整備をしていくことで復興していくイメージでしょうか。
これまでは、同じ地域で違う時期のデータを写真などで直接取り溜めていく方式でしたが、ドローンやリモートセンシングの普及で、三次元のデータを積み重ねられるようになりました。
データを活用しながら徐々に整備を進めていき、土砂崩れが起きないかどうか、地盤が安定したかなど森林管理にとって重要な要素を慎重に評価していく予定です。
地すべりなど土砂災害などが再び発生しやすい場所や、重機が使えないほどの急な斜面は、自然に任せて森林が再生できるかどうかも検討しています。
被害を受けた地域はどれほどの広さになるのでしょうか。
およそ4,300ha(ヘクタール)という途方も無い数が出ています。
東京ドームで例えると、918個分の森林崩壊という報道も出ていて、明治以降最大の森林被害と考えられています。
あまりに広い範囲の被害でイメージが付かないですね…。
地盤が安定するまでは手を加えられない感じでしょうか。
斜面の中でも、すでに安定している場所では、植林が行われています。
ただし、水分が集まりやすい場所では、冬になると霜柱ができてしまって、植物の根が土の表面まで持ち上げられて、土の外に出てしまうこともあります。
根が土に埋まっていなければ、水を吸い上げることができないので、ほとんどの植物は枯れてしまいます。
一見傾斜がゆるく安定しているように見えても、霜柱のように別の問題で植生回復が進まないことも多いですね。
そういった場所の特徴を説明する際にも、DMMさんに作っていただいた模型が役立っています。
DMM.makeで造形しているもの
弊社にご注文いただいているのは、ドローンで撮影した地形データをそのままプリントされているのでしょうか。
そうですね。DMMさんでは、主にドローンを使ったデータで発注させてもらっています。
ドローンは、航空機や衛星写真では解像度が足りない場所や、林道が崩れてしまっていたりして現地調査だけでは把握しにくいような場所のデータを取得することが役割です。
なるほど。
解像度が荒いデータは、別の3Dプリンターが使われているのでしょうか。
実はDMMさんに発注した後、当試験場でも3Dプリンターを用いて3D模型を作成しました。
他のスケールのデータと合わせて造形したり、サイズを調整したりして、同じデータを使って複数個の造形をする使い方です。
ありがとうございます。
ドローンで取得した3Dデータは、パソコンを操作してデータを動かしながら見れる状態だったかと思います。
画面でも見ることのできるデータを、あえて3Dプリントをしたのはなぜでしょうか。
たくさんの現況把握をして現地の様子をさまざまな場所で話をしながら、画面上でデータを見てもらった際に、画面上の3Dデータでは実際の様子をイメージしにくい人が割と多いことに気が付きました。
3Dデータ自体はすごいのですが…。
数をこなしていくうちに、触りながら実際に手にとって自分の好きな角度で見て理解するというプロセスが重要だと気付きました。
視覚以外の情報の重要性がわかったので、3Dプリントを試してみようと挑戦しました。
ご説明の際、模型を使われたときの皆さんの反応はいかがでしたか?
だいぶ変わりましたね。今も大きな反響があります。
今まで地図や画面など平面上のデータだけではなかなか理解してもらえなかった方々にも、スムーズに現状を伝えることができるようになりました。
3Dデータとあわせて模型を使ってご説明すると、大人から子どもまで広く認知いただけることがわかりました。
被害を受けた土地の所有者にはもちろんご高齢の方もいらっしゃったかと思いますが、お子さまの反応といいますと…?
私の子どもです。当時5歳の娘に「パパはどんなところでお仕事してるの?」と言われ、色々と説明しましたが、写真ではピンときてませんでした。
そこで模型を見せて触らせてあげると、すごく話が早かったんです。
それがきっかけで、学生や子どもを対象にした普及啓発のフォーラムや、発表の場でも模型を使うようになりました。
小さい子は地図を見るのが苦手だったり、三次元のイメージが難しかったりするので、そういう子に対しては模型を使うのが非常に効果的だなと実感しています。
3Dデータの作成方法やDMM.makeを使ってみて感じたことは?
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