日常における人同士の何気ない興隆の中で交わされる小さな気づかない「社会的刺激」。それらを観測、分析するシステムを構築し、実際の街中や環境においてロボットがそれを用いることで何が起こるかを明らかにする「ヒト対ロボットのコミュニケーション」の研究をされている豊橋技術科学大学助教、日本ロボット学会所属、林様にお話を伺いました。3DプリントサービスのPA12を利用し、ロボットの見た目が洗練された事で、研究の幅が広がった事例についてご紹介致します。
プロフィール
林 宏太郎(はやし こうたろう)
豊橋技術科学大学 情報・知能工学系
行動知能システム学研究室 | 三浦研究室
ジェミノイドを開発した石黒教授のもと大阪大学卒業後、奈良先端科学技術大学院大学で博士号を取得。在学中よりATR(国際電気通信基礎技術研究所)でHRI(ヒューマンロボットインタラクション)の研究を開始。その後東京農工大学で特任教授としてロボット設計の研究を行い、現在豊橋技術科学大学において機械学習なども用いた社会的刺激の研究を行っている。
3Dプリンターを導入する前は 複雑な造形は作っていなかった。試作では養生テープで貼り付けていた。
工場の共同作業ロボットの造形素材にPA12を利用して、硬度によって消耗性を解消し球面を美しく再現した。
DMM.make3Dプリントサービスは 見積もりが簡単にできるというのが非常に良かったです。それに1回アップロードすれば、できないよということも言ってくれるので助かります。
研究内容はヒト対ロボット、ロボットのベストなデザインについて
本日は、インタビューのお時間を頂きましてありがとうございます。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
どのような研究をされているのかをお聞かせください。
豊橋技術科学大学でロボットと人のコミュニケーションについて研究をしております。
人とロボットがコミュニケーションする際に、ロボットはどういうデザインでないといけないかという事について、認知科学の分野から情報を引っ張ってきて、それをロボットに実装してみて、人同士のコミュニケーションがロボットでも通用するかを研究しています。
コグニティブ(Cognitive)分野というところで、ハードの部分もソフトの部分も含めて研究されているという事でしょうか?
既存のものを可能な限り買うようにはしているのですが、ないものが大変多いので、そこは自分で作るようにしています。
ソフトの部分では、どういったことをされているのでしょうか?
ソフトの部分では、ロボットを実際にセンシングした結果を反映して動かすのを、一般的なロボットオペレーティングシステム(ROS)というミドルウエアを使って、開発しています。
Pepperのように人型のロボットや、GROOVE Xが作っているペット型のロボットもあると思いますが、対ヒトとしてコミュニケーションが出来るロボットを作っているのでしょうか?
どちらかというと、対ヒトとしてのコミュニケーションの理想像はアンドロイドになってしまいますが、そこまで要らないというか、その格好はむしろこのタスクでは使えないという事も多いです。
例えば、工場の現場で一緒に働いたり。一体、どれぐらいの人らしさを保持すべきかはまるで研究は進んでいない状態なので。
そうなると、見極めが行えるロボットについての研究をされているというイメージでしょうか?
そうですね。例えば、本当は必要ないと思ってオミットした機能が実は、もの凄く重要だったということが有り得ると思いますので。
そうなると、オミットしたことで、ロボットはあまり使えないという変な評価になるのは避けたいので、どういうものが要るかを認知科学の知見などを利用しつつ、実装したり、付けたり足したりしていくことをしています。
こちらのお写真にあるロボットはどういう用途で使われるものでしょうか?
大雑把に人らしさが影響するものを社会的刺激と呼びますが、社会的刺激で一番インパクトが大きいのは「目」だろうということになりまして。「目」が与える影響から研究していこうと、今はなっています。腕を足したりはしていますが。
最近、流行りつつありますが、工場の共同作業ロボットに、実は「目」が要るのではないかという話はちらほら出ていまして。
実際に人型のロボットの目のような、あそこまで人型ではないのですが、腕のタイプのロボットに頭を付けて、目を付けてみたら、共同作業にどういう影響が出るのかという話をしようとしています。
「目は口ほどに物を言う」ではないですけど、目から取り入れられる情報があるという事でしょうか?
そうですね。ジョイントアテンションや、ジョイントアクションの分野とよく言われますが、行動に先行して目が動くんですよね。だから、「目」で相手にこういうことをしようとしている意図をなんとなく伝えているんですよということが明らかになれば、「目」があることによって作業効率が向上するとも言えるのかなと考えています。
すごく面白いですね。ロボット自体が働くためというよりか、共同で作業をするために円滑さをどれだけ求められるかという研究なんですね。
共同作業の円滑さというよりも、相手の事を理解しやすくするという事で、相手に自分の事を理解させやすくするという事です。
だから、最終的には、奈良の餅つきの二人名人がいますが、あの二人みたいにほとんど視線を交わさないで、腕だけで何とかなるようになると思います
それまでには、自分の意図はこうだからというのを「目」で相手に伝えて、だんだん一体化していく流れがあるんじゃないかっていうのが、最近、認知科学の分野で言われている部分ですね。
それによって、自分のエリアが他人のエリアに侵食していって、まるで一つのものみたいになっていくモードがあるという事が言われています。
3Dプリントの技術が使用されている部分
3Dプリントの技術が使われているのは、ロボットのどの部分になりますか?
目の付いている頭の部分ですね。これは、Sciurus(シューラス)というアールティ社製のロボットなのですが、頭部の部分のCADをこちらでいじって、DMM.makeの3Dプリンター 出力サービスに依頼して作ってもらったものです。
目の部分であったり、口の辺りのデプスカメラであったり、そういう部分のマウントを編集されているという事でしょうか?
ほぼ丸々、形状自体は別物になっていると思います。
3Dプリンターを導入する前の工法
3Dプリンターを導入する前は試作というか、造形にはどういう技術を使われていましたか?
ここまで複雑なものは作ってないですね。良くてアルミフレームにジグを乗せてやるというので。うちの研究室だとありがちだったのはテープで付けるのが一番メジャーでした。
では、ここまでデザインの整ったものを作れるようになったのは、3Dプリンターが導入されたお陰というところもありますか?
簡単にCADで作れますからね。ネット空間にもフリーのものがありますので、それを利用すれば少なくともアルミフレーム全開でやるならまだましで。養生テープばりばりに付いているのは避けられますね。
導入前の工法の課題としては、アルミフレームに直接テープで貼らなければいけないというところだと思いますが、それが解決されたという事でしょうか?
既存のロボットを改造しやすくはなりましたよね、間違いなく。
胴体の部分は既存のロボットをそのまま使われているのでしょうか?
首から下は既存です。
3Dプリントサービスの導入のきっかけ
3Dプリントサービスを導入する経緯をお聞かせいただくことはできますでしょうか?
簡単に言えば、見積もりがすぐ欲しかったんですね。どれぐらい掛かるかなというので。
大体のところは、1、2回、STLファイルを送らないといけないんですけれども、DMM.makeの3Dプリンター 出力サービスはもうアップロードしたら、そのまま材料ごとに見積もりが出るので、そういう意味でまず最初に見させていただきました。
他社の3Dプリントサービスとの比較もされていたということでしょうか?
一応、後で見積もりもらったんですけど、やっぱり機械を買って印刷していることに変わりはないので、あんまり値段が変わらないなという印象でした。
DMM.make3Dプリンター 出力サービスを選択したきっかけ
ではDMM.makeの3Dプリンター 出力サービスを選択していただいたきっかけは、見積もりのスピード感ということですかね?
見積もりが簡単にできるというのが非常に良かったです。それに1回アップロードすれば、できないよということも言ってくれるので、助かります。
Webにアップロードして頂いて、その後問い合わせて見積書を発行して、発注していただいているという流れですか?
そうですね。
ちなみに国内も海外も当社の競合他社での見積もりを試してみたのでしょうか?
中国は安いです。ただ、掛け売りができないので。
売掛金ベースで対応したいので、比較的高くても日本のサービスを使いたいという事でしょうか?
そうですね。既存の物品を買うのであれば、購入代行に頼むんですけども。こういう造形物になると、代行に頼むと話がややこしくなってしまうので。実はここができないという話のやり取りも、こちらが向こうに渡す時に海外だと混乱するんですよね。
海外のサービスは、使われたこともないということですか?
立て替えでやったことはあります。
品質的にはどうでしたか? あまり変わりなかったでしょうか?
中国も機械を買って印刷しているだけなので、あえて言うなら輸送の時間が掛かるというところだけですかね。
3Dプリンターの造形は、クオリティーがばらつくんですよね。ただ機械を買って作るだけではなくて、実は深い知識が必要だったりするので、中国製のものと同じなのか、まだ把握していなかったんですよ。
ただ国内と海外とでクオリティーの差があるという事が聞こえてきているので、もしそういう事が見えていたら、お伺い出来たらと思った次第です。
あまり数多く中国製の3Dプリント会社には頼んでいないのですが、知り合いの会社さんが懇意にしている中国のプリント会社の試作を見る限りは、そこまで悪いものではなかったです。会社によるんでしょうね。ただ結構安くていい造形をするところもあるみたいです。
そうなんですね。ありがとうございます。
3Dプリンター導入後の変化
3Dプリンターの導入後、どういった変化がありましたでしょうか?
まず割と硬い素材のPA12というサービスがないと。例えばリンク構造で引っ張る時に、ABSやプラだと使っているうちに壊れるんですよね。ところがPA12だと硬度が十分にあるので、予備を作っておく手間がなくなりました。
消耗性が改善されたということですかね?
そうですね。引っ張り強さがある部品なので。
恐らくABSやPLAはFDMのプリンター、押出積層タイプで作られていたかと思います。
そうです。
その場合、細い線を積み重ねて作っているので、特定の方向に弱くなってしまうんですね。PA12は粉末にエージェントと呼ばれる凝結材を充填させて作るので、そういう異方性が出づらい部分があります。そういう意味で、材料の強度もABSより上ですし、強度面ではかなりいいと思います。
こういうロボット系の部品であると、細かいリンク構造が必要になってくる場合、他愛のない支えになるような部品がボッキリ壊れると困ることが多いんですよね。
コンパクトにしないといけないけど壊れると困るので、その部分をプリンターでカバーできるのは良かったと思います。でなかったらアルミで工夫して作らないといけなかったので。
寸法精度という面ではいかがでしょうか?
少しきつめに作って削るということをしています。3Dプリンター自体に、そんなに寸法精度を求めていないので。なので、要素的には膨らむ感じで考えてちょうどいいぐらいの感覚になっています。
粉末系に関してはその通りですね。造形した後に造形物の中に熱がこもっているので、1日ぐらい冷却しておいて、ゆっくり熱を冷まさないと変形してしまいます。
3Dプリンター自体の精度は、レーザーの照射によって少し膨らむところもあるんですけれど、造形後の冷却によって多少変形もあるので、寸法精度はあまりキッチリ出ないとは思います。
そうですね。PA12を使っている限りは、寸法精度が変だったことはほぼないです。
それでは微妙なすり合わせぐらいでお使いいただける感じでしょうか?
はい。軸受に対して少しスカッとなっちゃったなというのは、たまにありますけどそれはそういうものだと思いますので。
あとは球面状の部品ではPA12を研磨して、さらに色を塗ったものなので、一見わかりにくいと思うんですけど。これをABSで作ると積層構造なので、きれいに球面状にはなってくれないんですよね。というところが非常にきれいになったので良かったです。
林様:
PA12は結構研磨が大変だったかと思いますが、どのように加工されたのでしょうか?
ABSの積層構造でガタガタになっているのを削りきるのと、PA12を削りきるのとでは、手間はそんなに変わらないを思います。
そうなんですね。ではヤスリなどで手で磨いたという事でしょうか?
私は、磨機を使っていますが、紙やすりを研磨機の上に付けて削る感じです。確かに手で削るのは大変です。それは間違いないです。
そうですね。塗装の案件も弊社で受ける事が多いんですけれど、やっぱり滑らかな面を得ようとすると、先にナイロンに対してコーティングをして、そのコーティング層を磨くという過程をしないといけないので、結構大変だなと思っていて。
そういったところの上手い解決法があるのかなと思ってお聞きしました。
ものづくり業界に対して今後期待されていること
できれば様々な製品などのフリー化を進めてもらいたくて。全部がフリーではなくてもいいんですけど、CADデータぐらいは全部出してほしいと思います。
製品のCADデータがないとかサーボモータのCADデータがないとか、そういう事がざらにあるので、それが途端に製品として購入候補から外すということが結構あるんですよ。
フリー化というか、製品データのオープンソース化ですよね。
そうですね。
いまM社が在庫の中から全部ではないのですが、CADデータをオープンにしていると思うんですけれど。
お使いになっているCAD次第だと思うんですけれど、汎用部品であればCADの中でもデータベースを持っているケースが結構あると思います。それらを活用してモノを作られているということでしょうか?
そうですね。何もかもをゼロから作れるタイプの研究室も多いんですけども。そういうタイプだと気にしないと思うんですけど、私はそういう研究者ではないので。やっぱり既存のモノで済むなら既存のモノで済ませたいんですよね。
そうすると、何か買うにしてもCADデータがないという途端に、設計が怪しくなってくるので。
ちなみに、そういうフリーのデータは一部どこからかダウンロードしてお使いだと思いますが、どういったサイトを使われていますか?
まず、M社もそうですけど、FreeCADというところで、海外系の誰かが作ったデータが上がっていたり、メーカーがそもそもCADデータをそこに上げていたりするところがあるんですけども、そういうところで拾っています。
CADソフトは何を使われていますか?
Fusion 360ですね。
なるほど。Fusionは確かにそういうデータベースがないので、フリーのダウンロードサイトから落としてくる方が手っ取り早いかもしれないですね。
あと今、世の中に出ている中だと、GrabCADからもダウンロード出来ると思いますし、Thingiverseもお使いになれると思います。
弊社の3Dプリントサービスに対して、今後期待されている事やこういったサービスがあると嬉しいということをお聞かせ頂きたいのですが、いかがでしょうか。
樹脂関係はこのまま続けて頂きたいのですが、私は試作が多いので、ナイロン系でいいと思いますし、塗装も頼みたいですし。3Dプリントとはまた別なんですけど、例えば樹脂を切削するサービスを始めてくれたらいいのになとは思いますね。
承知いたしました。ありがとうございます。
ジュラコンなどの樹脂を板で買うまでもないようなものをちょっと頼みたい時があるので。
ちょっとした部品という事ですかね。
はい。
承知しました。ありがとうございます。
今行っている研究の展望
最後になりますが、3Dプリントサービスを活用いただいて、今の研究内容や今作られているデバイスについて、この場でアピールをしていただけたらなと思います。
わかりました。今メインに作っているものは2つありますが、人と共同でものを片付けていく作業をする際に、視線があればどうなるかという事を見たくて付けたんですけど。
3Dプリントサービスがなかったら、普通のバージョンの時の顔とちゃんと比較出来ない見た目になってしまっていたので、プリントサービスがあって大変助かりました。
いまジョイントアテンション、共同注意について研究を進められていると思いますが、そこの評価は既に行われているのでしょうか。
いや今実装をしているところなので、ジョイントアテンションはちょっとだけ進んだみたいな形があるのは次に説明するので、いまの話は実装中という事です。なのでまだ何とも言えないところです。
では作ってこれから評価を行うというステータスですかね?
そうですね。
ありがとうございます。
なにせ2020年10月にやっと安定した感じなので。
機械部分がようやく安定して、これから評価実験に入れるというところなんですかね?
そうですね。割と大変で、あちこち引っ掛かったり振動したりといろいろあったので。
ありがとうございます。もう1点についてはいかがですか?
元々これは、前にルンバの頭にディスプレイの顔を付けて、ジョイントアテンションがあったら人の共同作業はどう変化するかという事を見ようとしていた話があって。実際に目を作ってみようとなって、作ったのがそうです。
可能な限りリアルな人の目を表現しました。人の目とほとんど同じスピードで動くことができます。
すごいですね。スピードも人の目と同じという事ですが、大体どれぐらいのスピードで動くものなんですか?
人の目の運動がほぼ実現可能で、自然かどうかは実装次第なんですが、それを利用して共同で心理実験を行うことによって、人の潜在的な意識というものが相手によってるぐらいは確認できるかなということが今のところの状況です。
今からやろうとしているのは目に腕が付いたり顔の上下といった変化によって、多分変わってくるだろうなということはなんとなく予備実験でわかったので、それを検証しているところです。
ありがとうございます。
わかりにくいと思いますが、すみません。
ジョイントアテンションについて、普段、無意識にしている事なので、改めてお話しされると、確かにそういう動きや認知をしているなと思うので、すごく興味深いお話しでした。
一緒に作業をしている条件と、ただ見ているという条件で比べると、ロボットが同じ動きをしているのに、被験者の人が僕のこと見ていましたよねという、受け取り方が違ったみたいな事がありまして。
全く同じ動きなのに、こういう事だよといわれた途端に、人の意識は変わるという事はあるので。無意識のところからロボットに対する感情を変えていけたらなと思っています。
質問は以上です。お忙しいところ、ありがとうございました。
こちらこそありがとうございました。
今回のケースでは、工場の共同作業ロボットの造形素材にPA12を利用して、硬度によって消耗性を解消し、球面を美しく再現した事例についてご紹介頂きました。
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