ものづくりをする際は、つくる「もの」の用途に合わせて、素材がもつ特徴を考慮し、最適な素材を選ぶことでしょう。その時にキーになるのが、素材の「物質特性(物性)」です。
本記事では「機械的性質」「物理的性質」「化学的性質」の基礎や意味から、物性値を表す単位など分かりやすく説明します。
またDMM.makeで取り扱っている3Dプリント素材の物性表の見方の解説もあり! ぜひものづくりの参考にしてください。
物質特性(物性)とは物質の物理的性質のこと
物性(物質特性、以下「物性」)は金属やプラスチック(樹脂)などといったその物質固有の性質を意味します。わかりやすく言い換えると、「材料のもつ特徴」だと言えます。
その特徴にも様々な種類があります。たとえば、
- 硬さ
- どの程度の高温や低温に耐えられるか
- サビにくさ …などです
これらの特徴はものづくりにおいても、重要な観点となるでしょう。
物性値を測る試験
物性値は規格に基づいた試験を指定された機関がおこないます。
3Dプリント業界においてはASTM、ISO、JISなどの規格に基づき、各素材メーカーや3Dプリントメーカ―が造形後の目安値として試験結果を物性表としてまとめています。
6種類の物性
物性には大きく分けて6つの種類があります。
- 機械的性質:外部からの力に対する材料の特性
- 物理的性質:材料そのものがもつ物理的な特性
- 化学的性質:材料の化学反応・化学変化に対する特性
- 熱的性質:材料が熱によって受ける変化に対する特性
- 電気的性質:材料の電気(通電)に対する特性
- 光学的性質:材料が光とどのように反応するかの特性
「機械的性質」、「物理的性質」、「化学的性質」と、まとめて考えることもできます。
また「燃焼性」が「化学的性質」に分類されることもあれば「熱的性質」と分類されることもあるようです。
この記事では細かい分類よりも、「何の用途で使うか?」「そのために素材にはどのような物性が求められるのか?」を理解できることを目指しています。
それでは、それぞれの特性について見ていきましょう。
機械的性質
機械的性質とは、外からの力に対して材料がもつ性質を意味します。
よくイメージされるのは「強度」ですが、他にも「剛性」「硬度」「粘り強さ」などが挙げられます。
そのためDMM.makeの物性表ではXY方向・Z方向からの引張りに関する物性値を示しています。
強度
強度とは外から力がくわわったときに、どの程度耐えられるのか「壊れにくさ」を表します。
たとえば物に力をくわえると、元の形に戻る/戻らない(=塑性変形)、割れる・壊れる(=破断)といった現象がみられますよね。
それらは全て強度に関わっています。
それでは強度を表す具体的な物性値をお伝えします。
強度を表す物性値①引張強度(引張強さ):MPa(メガパスカル)
- 強度を表す物性値:引張強度(引張強さ)
- 主な引張強度の単位:MPa(メガパスカル)
「引張強度」とは材料が永久的に変形したり、壊れたりする前に耐えられる最大の引っ張り応力のことを指します。
たとえばゴム素材を両端から引っ張り、どれだけ力を加えて引っ張れるか、その限界を数値で表したものです。
強度を表す物性値②曲げ強度(曲げ強さ):MPa(メガパスカル)
- 強度を表す物性値:曲げ強度(曲げ強さ)
- 主な曲げ強度の単位:MPa(メガパスカル)
「曲げ強度」とは“最大荷重に抵抗する力の強さ”、つまり材料を曲げる力に対してその材料が亀裂や破壊が生じるまで耐えられる力のことを指します。
強度を表す物性値③破断伸び率:%(パーセント)
- 強度を表す物性値:破断伸び率
- 主な破断伸び率の単位:%(パーセント)
「破断伸び」とは、一つの物体が壊れて二つ以上に分離する(=破断)までに、どれだけ材料が伸びるかを示すものです。
試験片を引っ張り、標点間の伸び量を求め、百分率で表した値となります。
参考: [JSME Mechanical Engineering Dictionary]「破断」
他に強度の項目には「圧縮強度」や「ねじり応力(ねじれ)」などもあります。
剛性
「剛性」とは外から力がくわわったときの物質の変形のしにくさです。言い換えると、材料が変形するまでにどれだけの力に耐えられるかの程度を示すものとも言えます。
チタンは力がくわわっても変形しづらく、剛性が高い
シリコンは軽い力であっても変形するため、剛性が低い
のように表現できます。
強度と混同しがちですが、「剛性」は変形しにくさ、「強度」は壊れにくさと考えられます。
参考:日経クロステック「“頑丈さ”を示す「剛性」と「強度」の違いが分かりますか 」
剛性を表す物性値①引張弾性率(ヤング率):MPa(メガパスカル)
- 剛性を表す物性値:引張弾性率(ヤング率)
- 主な引張弾性率の単位:MPa(メガパスカル)
剛性を示す物性値には「弾性率」があり、4種類あります。
- ヤング率
- 体積弾性率
- 剛性率
- ポアソン率
そのなかでも「引張弾性率(ヤング率)」とは、物を引っ張ったときの、伸びと力から求められる定数です。
ヤング率が大きいほど物体は硬く、小さいほど物体は柔らかい状態と言えます。
別名「曲げ剛性」「たわみ剛性」とも呼ばれています。
靭性
「靭性」とは、物質が力に抵抗して変形する「粘り強さ」、すなわち、物が破壊されるまでにどれだけのエネルギーを吸収できるかを示す性質です。
硬い物質は力をくわえるとポキンと折れますが、しなやかな物質であればしなってすぐには折れません。この後者の物質は靭性が高い物質といえます。
靭性を表す物性値④アイゾット衝撃強さ:kJ/m^2
- 靭性を表す物性値:アイゾット衝撃強さ
- 主なアイゾット衝撃強さの単位:J/m^2(ジュール毎メートル )
「アイゾット衝撃強さ」とは材料が衝撃にどれだけ耐えられるかを示します。
これを調べる試験は「アイゾット衝撃試験」と呼ばれ、切り込み(ノッチ)を入れた試験片に振り子式のハンマーで衝撃を与えた際に吸収したエネルギーを測ります。
硬度(ショア硬度/ショア硬さ)
硬度は読んで字のごとく、物質のもつ「硬さ」を表します。より専門的な場面では、「ショア硬度(ショア硬さ)」は一定の高さから物質を落とした際の跳ね上がり(反発・抵抗)からその硬さを試験によって求めるものです。
硬さのタイプによって測定が異なり、「ショア硬度A」は軟質ゴムなど比較的軟らかい素材に対しておこなわれ、「ショア硬度D」はプラスチックなど硬さをもつ素材が対象となります。
物理的性質
ある物質がどれだけ重いか(密度)、電気をどれだけ通すか(導電性)、熱をどれだけ伝えるか(熱伝導性)などは、その物質の「物理的性質」です。
物理法則に従った反応がおこり、これらは物質の種類や状態(固体、液体、気体)によって異なります。
物理的性質を表す物性値①密度:g/cm^3
- 物理的性質を表す物性値:密度
- 主な密度の単位:g/cm^3(グラム毎立法センチメートル)
「密度」とは物質が占める体積あたりの質量を指します。
同じ大きさの立方体の箱であっても、金属とプラスチックでは重さが異なるので、「重さ」を知りたいときは「密度」に着目します。
物理的性質を表す物性値②線膨張係数:/K
温度が上がると物質は膨張しますが、その膨張する度合いを表すのが「線膨張係数」です。
1℃温度が変化するごとの物質の変化量と元の長さの比率が物性値に表されます。
線膨張係数は3Dプリント時の「反り」にも関わってきます。
化学的性質
化学的特性とは、物質が化学反応や化学変化を起こすときの性質を指します。つまり、物質がどのように反応するか、どのように変化するかを示す特性です。
たとえば、酸化状態(錆び)や吸湿性、燃焼性などが化学的性質といえます。
化学的性質を表す物性①:耐薬品性(耐化学薬品性)
耐薬品性とは、アルカリ、酸や塩などの薬品に対しての耐性を指します。
それらに対して溶解、膨張など反応しないことを耐薬品性があるといいます。
耐薬品性は「耐薬性あり/なし」と表記されることがあります。
3Dプリンターの素材で気になる点がある方はお気軽にご相談ください。
また「耐油性」「耐溶剤性」などの物性カテゴリもあります。
エンジニアリングプラスチック含む17種類を取り扱い開始!最高レベルの耐熱性や耐薬品性が叶う製品をDMM.makeの3Dプリントで
化学的性質を表す物性②:燃焼性(難燃性)
素材に火をつけるとどのように化学的に反応するかを示す物性が「燃焼性」です。
燃えるか燃えないかの段階によって「可燃性」「自己消火性」「難燃性」「不燃」の4つの分類に分けられます。
熱的性質
「熱的性質」とは熱あるいは温度変化に関わる物性を表します。たとえば「熱膨張率」や「熱伝導率」が「熱的性質」といえます。
3Dプリンターで最も使われる「熱可塑性プラスチック」。FDM・FFF方式(熱溶解積層方式)は熱的性質を活かしたものづくりであると言え、完成の出来にも関わってきます。
参考:日本機械学会機械工学事典 [JSME Mechanical Engineering Dictionary]「熱物性値」
熱的性質を表す物性①荷重たわみ温度
- 熱的性質を表す物性値:荷重たわみ温度
- 主な単位:℃
「荷重たわみ温度」とは素材に荷重をかけた状態を熱して、たわみ(反り)が一定以上になる温度のことです。「熱変形温度」とも言われます。
DMM.makeの物性表においては、各メーカーが実施したISOに基づいた測定のA法(1.8MPa)とB法(0.45MPa)の結果を公開しています。
A法とB法では、A法の方が荷重が大きいため、荷重たわみ温度は低くなります。
電気的性質
「電気的性質」とは素材が電気に対してどのように反応するか、あるいは、しないのかを示すものです。「誘電率」や「体積抵抗率」などで表されます。
一般的にプラスチックは電気絶縁性がよいため、電気・電子機器周りで使用することもあるでしょう。一方で、帯電もしやすく静電気が起こりやすいデメリットもあります。
光学的性質
「光学的性質」とは物体が光(電磁波)にどのように反応するかに対しての性質です。
屈折率のほか、吸収率や透過率といった項目が光学的性質を示す物性値です。
DMM.make 3Dプリント素材の物性表は?
3Dプリンターを用いたプラスチック成形・金属成形においても、物性値を気にされる方は少なくないでしょう。
DMM.makeでは3Dプリント素材の物性表を皆様に公開しております。
たとえばナイロン素材の「PA12Wホワイト|MJF」だと、
- 引張弾性率(ヤング率)
- 引っ張り強さ
- 破断伸び
- ノッチ付きアイゾット衝撃
- 融点
- 荷重たわみ温度
- 密度
- 寸法精度
- 耐薬品性
- 米国式薬局方(USP)クラスⅥ
- FDA
- RoHS
- EU REACH
- PAHs
- 燃焼性
などが分かります。
その他、ISOなどの生体適合性評価についてもお知らせをしております。
同じ「PA12」でも「MJF」と「SLS」など造形方式が異なると物性値も異なってきます。ぜひ見比べてみてくださいね。
詳細の規格については、各素材一覧の「データシートをダウンロード」ボタンよりご確認ください。
物性表はDMM.make 3Dプリントサイトの素材一覧ページの上部、または各素材詳細ページからもご覧になれます。
まとめ
今回は物性の入門として、特に3Dプリントでものづくりをしたい方向けにわかりやすく説明をおこないました。
素材は様々な特性をもっていますが、まずは造りたい物の用途・使用シーンを明確にして、その条件で必要とされる素材を選べるようになるといいですね。
しかしながら、物性を完全に理解するのは難しく、また3Dプリンターならではの制約や造形の難しさがあるのも事実です。
素材選びに迷ったら、10年以上の3Dものづくり実績があるDMM.makeにご相談ください。
お客様のご要望を丁寧にヒアリングして、最適な素材をご提案させていただきます。