DMM.makeの3Dプリントサービスをお使いのお客様の事例を紹介する本連載。今回は、3Dプリントで時計を制作されているakemin(@akemin21805719)様です。
腕時計修理の仕事から、個人での制作活動へ
本日はお時間をいただきましてありがとうございます。
さっそく、akemin様の簡単な自己紹介と、3Dプリンターで作られている制作物についてご紹介いただけますでしょうか。
僕は普段、時計修理の仕事をしています。20代の頃から始めました。
時計の修理と製造はまったくの別物で、修理を専門にしている人が時計を作る機会はまずありません。ただ、僕は前からモノづくりに興味があって、その中でも腕時計を作ってみたいと思っていました。そこで、3Dプリンターを使って腕時計の制作活動に取り組み始めたんです。
腕時計の制作はお仕事とは別で取り組まれているのでしょうか。
そうですね。仕事で腕時計の修理をしながら、自分の趣味として腕時計制作に取り組んでいます。
卓上で使える中華製のCNCを購入して、ステンレスや鉄を削れるように自分で改造して、自宅で制作活動を行っていました。
ご自宅でCNCを持たれていたんですね。
しかも、ステンレスや鉄を削れるように改造するなんてすごい…!
2〜3万円くらいで購入したものを改造したので、トータルで4〜5万円くらいになりましたかね。
腕時計の内装部品まで作れるようにしたくて改造したんですが、いかんせん音が大きすぎるのがネックでした。
鉄を切削するとなると、やはり音は大きな問題になりますよね…。
家族からもNGが出てしまったので、音が出ない外注先でどこかいいところがないかと探しているときにDMMさんを見つけました。
DMMさんは国内で知名度が高いですし、チタンの値段が驚くほど安かったので、物は試しということで利用させてもらいました。
3Dプリンターを使い始めた理由
修理のお仕事をしている中で、自分で腕時計を作ろうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。
時計業界には「独立時計師アカデミー」という国際団体があり、日本人は3名ほど所属していらっしゃるんですね。
僕が腕時計修理を始めた頃にはほとんどおらず、所属している方々は雲の上にいるような存在でした。
時計制作はスイスが本場だったので、日本にいる自分だと修理はできても作るのは無理だろうなと思いつつ、、そういう人たちの活躍を見て、時計を作ること自体には興味を持っていたんです。
ものづくりへの興味はずっと持ち続けていたのですね。
僕は工業系の学校を出て、大学でも「Pro/ENGINEER」という3DCADをかじっていました。
最近になってCNCがネットで格安で買えることや、「Fusion 360」が無料で使えることに驚かされて、いつの間にか浦島太郎状態になっていることを自覚しました。
それが2〜3年前くらいの出来事で、そこからいろいろと調べて腕時計制作に取り組み始めたんです。
腕時計の制作活動で、3Dプリンターを使おうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。
先ほどお伝えした通り、自宅でCNCを使って制作活動を続けることに限界が来たんですよね。
そのときにいろいろな方法を探していて、その中でチタンの値段が安く、なおかつ国内メーカーであるDMMさんを見つけたのがきっかけです。
あと、たまたまFLASHFORGEの3Dプリンター「Adventurer4」を試させてもらう機会がありまして、音の静かさに驚かされたことも理由のひとつですね。
CNCは音も大きいし粉塵も出るしで、なかなか腰が重い機械ですよね…。
ミルを折りながら、CADやCAMの使い方を学ぶ
先ほど3DCADのお話が出ましたが、いま使っているソフトは何ですか?
いまはFusion 360を使っています。
使い方に詳しい人にお話を聞いて、CAM機能も活用し、薄くゆっくり削る方法でステンレスや鉄を切削していました。
エンドミルを何度も折りながら試行錯誤しましたね(笑)
エンドミルを折るが怖くて、とりあえずゆっくり試すのは私も経験があります(笑)
それにしても、CADのスキルだけでもかなりハードルが高いのに、鉄の切削スキルまで身に付けたのはすごいですね。
何回か繰り返すうちに、どれくらいの速度でやればよいのかがわかるようになりました。
1mmくらいエンドミルならまったく折れる心配がなくなり、一番細いものだと0.3mmくらいのものまで試しました。
時計の内装部品の真鍮を削ったときに試したのですが、0.3mmくらいなら薄くゆっくりやれば折れずにうまく削れたんです。
これまでにかなりの数を折ってきましたが、そのおかげもあって経験値は溜まりました(笑)
折って覚えるみたいなところもありますよね(笑)
3DCADを本格的に勉強されたときは、独学で始められたのでしょうか。
ほぼ独学で始めました。いまは動画とか書籍が増えてきたので、自分で勉強して身に付けられるだけの環境は整っていると思います。
技術を無料で公開する方も増えてきているので、SNSが普及してそれらの情報が簡単に手に入るようになったのは大きいなと。
勉強をし始めるまでの壁を乗り越えるまでが大変かとは思います。
チタンとゴムの3Dプリンター素材
実際にどのようなものを作っているのか、ご説明いただけますでしょうか。
DMM.makeのイベントで展示したプロトタイプは、外装がチタンで、モデリングにはFusion 360を使いました。
僕はデザイナーではないので、イチから作るのが難しくて、ある程度見本を見ながらそれに沿ってモデリングをしています。
そこからは表面と側面からバランスを見つつ大きめに作り、自分が作りたい形状に合わせて削り取っていく手法で制作しています。
展示会でも見せていただきましたが、表面は意外とザラッとしているというか、造形したままという感じなんですね。
僕も最初は、ザラザラの見た目は良くないかなと思って、ツルツルに磨き上げていました。
ただ、途中で切削と3Dプリンターの制作物を分けたいと思ったときに、磨いてしまうとどっちがどっちかわからなくなってしまうことがあったんです。
そのときに「磨いてしまうのはもったいない」と感じて、あえてザラザラの表面を残すという手法で展示しました。
展示会に出品いただいた作品。表面はザラザラしています。
そうですね。
ザラザラの表面を石みたいに感じる人もいれば、この表現はすごく良いね!という人もいて、業界の中でも両方の意見があるんですよ。
どちらがベストな表現方法かは自分の中でも固まっていないので、いろいろと意見を聞きながら試行錯誤をしている段階です。
チタンの利用が多いかと思いますが、他に使っている素材はありますか?
腕時計のツマミ部分でAgilusゴムを試しました。
高級な腕時計だとゴム素材を使っているメーカーもいて、僕もそれを試したくてゴム素材を使わせてもらいました。
複数の硬度でゴム素材の造形を依頼して、チタン製のものも合わせていろいろと試しています。DMMさんでは主にチタンとゴムを使わせてもらっていて、あとは個人的にレジンを使って腕時計の中の機械を支える中枠を作ったりしました。
シルバー系の素材を使うことはありますか?
過去にロストワックスでシルバー系を使ったこともありますが、縮んでしまうことを考慮して大きめに作っても寸法が合わず苦労しました。
そのときは指輪関係の仕事をしている知人に頼んで、収縮率を計算した上でモデリングしてもらったのですが、まったく違うものが出来上がって残念な結果に終わりました。
結果的に自分で削ることになったので、なかなか骨が折れましたね。
DMM.makeを使い続けている理由
いろいろなサービスを利用されていると思いますが、その中でもDMM.makeを長くご利用いただいている理由をお聞かせいただけますでしょうか。
素材の価格が安くて、やりとりが少なくて手軽というところですね。
会社に行ってパソコン上でオーダーしたら、家に帰ってくる頃にはすでに制作が始まっていて、まったくストレスがないんです。
「破損リスク了承済み」としておけば自動的に作ってもらえるので、本当に助かっています。
他のメーカーさんだと、オーダー後のやりとりは多いのでしょうか。
かなり増えますね。
過去に他のメーカーさんに時計の針の制作を依頼したときは「針が薄くて小さいからウチじゃ作れない」と言われました。
値段の面でもDMMさんとほとんど変わらなくて、やりとりの際にこちら側にも知識が求められるので、それが面倒で利用するのをやめました。
実際にDMM.makeをご利用いただいた感想はいかがでしょうか。
僕もそうなんですが、腕時計の中に組み込む機械は市販のものを使っている人が多いんです。
なので、外装の形さえできてしまえば、ある程度の商品化はできるんですよね。
DMMさんに依頼したとき、今までと比べて±0.1mmくらいの差でものすごく精度が高かったんです。
バリを取ればほぼ寸法が合致するので、精度がすごく高いと思いました。
ありがとうございます。
CNCは3Dプリンターのように自由な形を作れるわけではないので、データを作る側のリテラシーもある程度求められますよね。
そうですね。いい意味での3Dプリンターの使い方だと思っていて、その点は大きな差があるなと感じました。
個人的に3Dプリンターはまだまだ進化するのかなと思って期待しています。
最近はユーザーが増えてチェックするのが大変なんじゃないかと勝手に心配もしています(笑)
お見積りの段階ではシステムで自動チェックしているのですが、出力する前に本当に問題がないかは人の目で確認しています。
今後の展望や取り組んでいきたいこと
今後、取り組んでいきたいことはございますか?
腕時計の外装部分は3Dプリンターで問題なく作れると思っています。
内装の機械部分は難しいので、これまでの技術と3Dプリンターを組み合わせて、よりいいものを作っていけたら嬉しいなと考えています。
僕に「Adventurer4」を教えてくれた人と共同で取り組んでいることもあります。
その人は産業用ロボットの会社に勤めていて、子供向けのワークショップを開催しているんです。
3Dプリンターと僕の時計のモデルを使って「子供向けの簡単な時計を作る」という企画を進めています。
それはすごく面白い取り組みですね!
また、制作したものの販売も行っていきたいと思っています。
時計業界の人は目が肥えているので、仕上がりやデザイン、素材選びの点でまだまだ難しいところがあります。
ただ、今回の展示会でDMMさんに選んでもらったことで、SNSなどを通じて僕の作品を見てくれる人が増えたのはありがたいと感じています。
我々の活動がお役に立てて良かったです。
それでは今回は以上とさせていただきます。
お時間いただきましてありがとうございました。
こちらこそありがとうございました。
akemin(@akemin21805719)様 Twitter