DMM.makeの3Dプリントサービスをお使いのお客様の事例を紹介する本連載。今回は、自作キーボードに3Dプリンターを活用しているDaily Craft Keyboard様をご紹介します。
自作キーボードを作り始めた理由
本日はお時間いただきましてありがとうございます。
自作キーボードを3Dプリンターで作っているということで、どのようなものか簡単にご説明いただけますでしょうか。
よろしくお願いいたします。
私の本業はソフトウェアエンジニアなので、仕事をしているときは、だいたい一日中パソコンの前に座ってキーボードを叩いています。
普通のキーボードを使っていると肩が凝ってしまうので、なにか良い解決手段はないかと思っていました。そんな時、半分に分かれていて肩を開いた状態で使えるキーボードに出会ったのが、この世界に入り込むきっかけでした。
実際に使われてみていかがでしたか?
たしかに肩こりは減少して、とても気に入りました。同時に「既製品じゃなくていいんだ」「自由でいいんだ」みたいな気持ちがどんどん強くなってきました。慣れてくると、細かい不満点もわかってきて、最終的には自分に合ったキーボードを作れるようになればいいなと思い、自作キーボードを作り始めました。
いつ頃から制作活動を始められたのでしょうか。
自作キーボードを作り始めたのは、およそ3〜4年くらい前です。自作キーボードのキットを作って販売する人が徐々に増え始めた頃でした。
そんな中、自分でもいろいろなキーボードを触ってみたのですが、いまいち自分の手にしっくりくるものがいつまで経っても現れないと思っていて(笑)
既製品や他の人が作ったキーボードキットなど十数台は試しましたが、結果的に自分にピッタリのキーボードには出会えなくて、これはもう自分で作るしかないのかな、と。
手に優しいキーボードの工夫
僕が自作キーボードを作るときのコンセプトは、「手に優しいキーボード」です。
というのも、僕の場合は常にキーボードを叩いているのではなく、すぐに叩ける状態でキーボードの上に手を置いて考える時間が長いんです。自分の手にとって、大抵のキーボードは小指に力が入り続けてしまったりして、かなりキツい体勢を強いられていました。
なので、自然な状態で手を置いたままでいられるキーボードを作れば、自分にとって一番楽なのではないかと思ったんです。
「手に優しい」とは、具体的にどのようなイメージでしょうか。
普通のキーボードは指が横に並ぶ形でホームポジションが取られていますよね。それだと指が窮屈で、手の甲に負担がかかっているような気がするんです。
僕の自作キーボードはホームポジションが縦にずれているので、力を入れずに手を置いたままの状態でいられます。そうすることで、ホームポジションで楽な姿勢がキープできると考えています。
なるほど。他のキーボードを十数台試したとのことですが、高級なモデルのキーボードでも満足できなかったのでしょうか。
そうですね。自作キーボード界隈では僕と同じコンセプトで作っている人もいたのですが、少し開きが弱いといいますか……。
僕のキーボードは、他のものより小指や親指の配置がすごく下がっていて、ここまで極端にズレがあるものは珍しいんですよね。人によって手の形は意外と違うので、自分の手に合わせてキーボードを作った結果、他の人のものと比べて、小指と親指の位置が大きく異なる形状になりました。
CADを学び、ものづくりに活かす
本職はソフトウェアエンジニアとのことですが、CADは自作キーボードのために勉強されたのでしょうか。
実は、なんとなくデジタルだけの世界に飽きを感じていて、IoTや電子工作などプログラミングとリアルな物が合わさって動くようなものをやってみたいと思っていました。それもあって、自作キーボードを作り始める前から3Dプリンター自体は持っていました。
でも、当時は具体的に作りたいもののイメージがなかったので、他所からダウンロードしたものを3Dプリントしたり、「Fusion 360」でデータをいじって日用品を作るくらいで止まっていました。
漠然と「IoTや電子工作をやってみたい」と思って3Dプリンターを購入される方は珍しいですね。
そうですよね(笑)
当初は作りたいもののイメージがありませんでしたが、初めてキーボードを作ろうと思ったときに「これなら3Dプリンターが使えるぞ!」と思って取り組み始めました。
最初はAdobe Illustratorを使っていたということですが、いまは最初からFusion 360を使っているのでしょうか。
そうですね。最初は何もわからずイラレで編集して、Fusion 360にインポートしていたのですが、今はFusion 360もだいぶ慣れてきました。また、基板も作っているので、基板設計ソフトの「KiCad」とFusion 360を行き来してキーボードを作っています。
元々、ものづくりに興味があったのでしょうか。
なにかを作っていたいという欲はありますね。父親が建築業をやっていて、僕が小さい頃から自分で色々とものを作っているような人だったんです。そんな背中を見て育ってきたし、僕自身も木工で何かを作るのはチョコチョコとやっていて、それがとても楽しかったです。
もっとリアルなものづくりをしたいという想いがあって、かつ自分の強みでもあるデジタルと融合したら、おもしろいモノが作れるのではないかと思いました。
3Dプリンターで作る、手触りの良いキーキャップ
3Dプリンターを使って、キーボードのどの部分を作っているのでしょうか?
最初は自宅にあるFDM方式の3Dプリンターで、本体部分の試作などをしていました。
今でも新しいキーボードを作るときは試作に使っています。
僕の2作目のキーボードを作っていた時のことです。このキーボードはピッチを狭くして指の移動距離を短くするのが特徴でした。しかし、既製品のキーキャップを使うと、指が少し滑ってしまうことがあったので、引っかかりのあるキーキャップを自分で作ってみようと思ったんです。
ただ、キーキャップは指で触るものなので、自宅の3Dプリンターで作っても、ザラザラな触感が気持ち悪くて……。
なるほど。滑らかにしようとすると、ヤスリがけも必要になってきますよね。
そうですね。自分でヤスリをかけていたこともありますが、販売することを視野に入れるとさすがに手間がかかりすぎて立ち行かない。
そんな中、自作キーボード界隈ではDMM.makeでキーキャップを作る人が出てきていました。本体は平面のキーボードなのに、キーキャップで凹凸感を出して3D形状を表現しているような人もいたんです。
自作キーボード界隈では、DMMさんのMJF(マルチジェットフュージョン)がよく使われていたので、自分でも試してみたら、これが実に素晴らしかった。
あの磨きの滑らかさは代えがたくて、すごく押しやすく触りやすいものができたので、今も継続してMJFの磨きオプションを使っています。
MJFの素材は何を使っているのでしょうか。
PA12のGBです。通常のPA12と細かく比べたわけではないですが、PA12 GBの方が強度面と滑らかさで優れている気がしたので使っています。他の素材は頼んだことがありません。
ケースはどのように作っているのでしょうか。
基板を業者に発注するときに、基板と同様のFR4素材でプレートを一緒に頼んでケースとして代用するか、アクリルをレーザーカットしてもらい、ネジやスペーサーで挟み込んで使っています。
本当はケースもMJFで作れればいいなとは思っているのですが、サイズが大きくなると染色ができなくなってしまうので……。染色できるサイズが大きくなると個人的に嬉しいです。
染色する際の「10cm縛り」を気にされる方は非常に多いので、ご迷惑をおかけする部分だなと思っています……。色までこだわる人は、ご自身で染色キットを用意されたというお話も聞いたことがあります。
そうした縛りがなければ、本当はケースもMJFで作ってみたいのですね。
そうですね。ケースの素材が、音にも作用するみたいで。
キーボードは音にこだわる人も多くて、挟み込んでいるだけだと横から音が抜けて安っぽい音になりがちみたいなんです。サイドを埋めるだけでいい音になったりするので、そういったことにも挑戦したいですね。
3Dプリントならではの苦労や工夫
3Dプリンターでキーボードを作っていて、大変だったことはありますか?
よくあることだと思いますが、いざ組んでみたら他の部分と干渉して組み上がらないことがありました。
絶対大丈夫だと思って多めに発注したのに、思いがけないミスでキーボードを組み上げられなくて、すべて捨てるハメになったりして、そういうのは結構ツラいですね……。
また、キーキャップにはMJFの磨きオプションを使っていますが、僕の作っているものは足がかなり細いんです。
「磨きの基準値を下回っているが破損了承済み」としてお願いしていますが、最初の頃は細すぎてスカスカで入らなかったり、足が折れていたりすることがありました。今はもう何回も頼んでいるので、工場のほうでかなり調整いただいているかと思いますが、破損があるとやはりツラいなぁと感じますね。
破損了承済みである程度は仕方ないと思いつつ……みたいな感じですね。
そうですね。どうしても破損が出てしまうのは仕方ないのかな、と。
今は販売も行っているので、一気に10セットくらい頼んで、すべて検品して生き残ったものを組み合わせて1セット作るようにしています。10セット頼んで、だいたい7セットくらいできるようなイメージですね。
制作している自作キーボードを拝見すると、キーキャップの位置によっていろいろな形がありますね。
キーボードの真ん中あたりはある程度共通化していますが、左右で反転しているキーキャップもあるので、種類でいうと全部で17パターンくらいですね。
種類が多いと、破損があったときの歩留まりも悪くなりそうです。
回数を重ねてある程度の傾向が見えてきて、小さい質量のものであれば無事なことが多いです。質量が大きくなると足が折れやすくなるみたいなので、大きめのサイズのキーキャップだけ別でデータを作って、余分に発注するような対策をしています。
自作キーボードを販売して良かったこと
自作キーボードの活動をしていて良かったことはありますか?
自分が作ったものが実際に使われているところを見るのは嬉しいですね。
僕は実用面にフォーカスしているので、日常使いに役立ててほしいという想いがあります。なので、実際に使っていただいている様子をTwitterなどで見かけると、作っていて良かったなぁと感じます。
素晴らしいですね。最初は自分のために作った自作キーボードを、他の人にも販売し始めるようになったのですね。
そうですね。きっと自分と同じような悩みやニーズを持つ人は、ニッチながらも必ずいるだろうと思っていました。実際の反響を見てもよいものを作れたかなと思っているので、今後もさらに広めていきたいと考えています。
自作キーボードやキーキャップは、どのような形態で販売しているのでしょうか?
キットとキーキャップは個別に販売しています。キットを購入いただいて、キーキャップだけ自分の好きなものを使ってもらうこともありますね。
キーボードはどこで販売していますか?
自分で販売サイトを持っています。海外販売をしたかったので、ネットショップサービスの「Shopify」でオンラインストアを立ち上げました。他にもキーボード専門店の「遊舎工房」さんで委託販売もしています。
DMM.makeを使い続けている理由
DMM.makeを選んだきっかけを教えていただけますか。
実は国内だと他に3Dプリントサービスをあまり知らなくて、周りの人が使っていたからDMMさんを使っています。
海外でも似たようなサービスがあったので試してみましたが、その時は品質があまり良くなくて。その点、DMMさんの造形品質はかなり高いレベルで、不満に感じたことがないので使い続けています。
あと、海外のサービスだと磨きオプションがほとんどないので、僕のキーキャップのような用途だとちょっと使えないかな、と。
普段から磨きをしているのであれば、磨きがないところには頼めませんよね。バレル研磨を自分でやろうとする人をたまに見かけますが、かなり大変そうです。
僕も小さいもので試してみたのですが、ほとんど削られずで滑らかにならないし、難しいと思って断念しました(笑)
DMM.makeを使い続けている理由は、MJFが高品質で安定していることと、磨きオプションがあるということですね。
サポートの人がとてもきちんとしている点も理由のひとつです。ときどき相談をさせてもらいますが、いつもすごく丁寧で、優しく応えてくれるので安心感があります。
今後の活動や宣伝したいこと
この先やってみたいことはありますか?
自作キーボード界隈のコミュニティはしっかりしていて、基本的なキーボードを作るための知識も手に入りやすいです。
ただ、新しい機能やパーツを使おうとすると電子工作などの知識もより必要になってくるので、最近はそういった方向にも興味が出てきています。
キーボードを作る過程で得たスキルを使って、他のものも作ってみたいと思っています。具体的なイメージはまだ出来上がっていませんが……。
今はネジカウンターという特定の本数分ネジをカウントする道具を作っていて、YouTubeやTwitterで発信していたら、ある企業から「うちのネジ専用で作って欲しい」という話をいただきました。ちょうど試行錯誤しているところで、今後も力を入れて取り組んでいきたいです。
本業とは別で、完全に副業として取り組まれているのでしょうか。
そうですね。個人でやっているので、ニッチな要望のあるところで3Dプリンターを使って役立つものを作れたらいいなと思っています。課題を解決するのが好きなので、困っている人の課題を3Dプリンターで解決するようなことに取り組んでいきたいですね。
最後に宣伝したいことがありましたらお願いいたします。
楽な姿勢でいられる、手に優しいキーボードを作ることをコンセプトにしています。デスクワークで肩凝りに悩んでいる人や、疲れにくい打鍵ができるキーボードを探している人は、ぜひオリジナルのキーボードの世界に飛び込んでみてください。
それでは本日はこれにて終了とさせていただきます。
お時間いただきまして、ありがとうございました。
ありがとうございました。
引き続き、よろしくお願いいたします。
Daily Craft Keyboard様
ホームページ:https://shop.dailycraft.jp/