DMM.makeの3Dプリントサービスをお使いのお客様の事例紹介。今回は3Dプリントで鉄道模型やパーツ部分を製作されている武蔵模型工房様です。
3Dプリンター製の鉄道模型をクリエイターズマーケットに出品
本日はお時間いただきましてありがとうございます。
さっそくですが、武蔵模型工房様が3Dプリンターで何を作っているかのご説明をお願いします。
3Dプリンターを使って鉄道模型を作っています。
一般的に「Nゲージ」と呼ばれる大きさで、おおよそ1/150サイズです。
鉄道模型の車両そのものもあれば、鉄道模型を組み立てるのに必要なパーツ部分も作っています。
DMMのクリエイターズマーケットにも出品していますが、9割方は「床下機器」や「台車」と呼ばれる、電車の下半分についている機械の模型になります。
クリエイターズマーケットへの出品数もかなり多いですが、事業として取り組まれているのでしょうか。
本業は普通に会社員として働いているので、完全に個人的な趣味で製作活動に取り組んでいます。
2015年から3Dプリンターのデータ作成を始めたのですが、小さい頃からモノを作ることが好きで、家にいる空き時間はずっと何かしらを作っているような感じです。
最近はコロナの影響もあり、本業で自宅待機の時間が増えてしまったので、その間にいろいろ作ってみるか!と取り組んでいたら、いつの間にかものすごい数になっていました(笑)
個人の趣味でここまで作られているのはすごいですね(笑)
床下機器というパーツは車両によって細かな仕様が違うんですが、本当に微妙な違いしかないんです。
マニアの人しかわからないようなこだわりポイントが多いので、ベースは同じだけど微妙に異なるさまざまなパターンのデータを作って、クリエイターズマーケットに出品しています。
全部の形状が違うわけではなくて、同じシリーズで少しだけ仕様が違っているだけなので、出品数が膨大になっています。
DMMさんのサービスの特徴として、自分で在庫を持たなくてもデータを作れば出品ができるという利点があるんですよね。
普通にモノを作って売ろうとすると、何十種類ものパターンの在庫を抱えることになってしまって、売れなかったときに問題が起きてしまいます。
在庫を持たなくてよいというクリエイターズマーケットの仕様と、ご自身で売りたいものが上手くマッチしているのですね。
そうですね。ひとつの電車のパーツを例に出しても、同じ形式の車両でも編成によって微妙な違いがあります。
人によってどのパーツが欲しいのかが違うので、私自身も何が売れて何が売れないのかはいまだによくわかっていません。
なので、少しずつ違う編成パターンのデータを作って出品して、それぞれ欲しいものを選んで買ってください!という形でやらせてもらっています。
※同じ形式・同じ両数でも、パーツの形状がわずかに異なります。 どちらも阪急3000系用パーツ、違いは僅かしかありませんが、この違いが拘りです!
鉄道模型にぴったりの3DCAD
2015年頃から3Dプリンターによる製作を始められたとのことですが、それ以前にも活動はされていたのでしょうか。
その前は紙製のもの、いわゆるペーパーキットで製作していました。
2DのCADで図面を書き起こして、レーザー加工機で紙を切って模型を作るというようなものですね。
さらに昔はそういう機械もなかったので、市販のキットをいろいろと買ってきて、自分で部品を切ったり貼ったり、パテ埋めをするということをやっていました。
3Dデータを作る際には、どのようなCADを使っているのでしょうか。
「DesignSpark Mechanical」を使っています。
NEKO PUBLISHINGから出版された鉄道模型のモデリングに関する本があるのですが、そこにDMMへのデータアップロードのやり方が細かく詳しく書かれていたんです。
鉄道模型で3Dをやっている人のほとんどが持っているような本で、私もそれを見て3Dプリンターを使った製作活動を始めたクチなんです。
なるほど。たしかに鉄道模型に取り組んでいる方は、NEKO PUBLISHINGさんの本の影響で、DesignSpark Mechanicalを使っている人が多い印象です。
鉄道模型界隈だと有名なソフトなのですが、他のところに行くと「なにそれ?」状態なのでだいぶ驚かされます(笑)
今だと「Fusion 360」を使っている人も多いと思いますが、移行しようと思ったことはありますか?
過去に一度、Fusion 360を試してみたんですが、DesignSpark Mechanicalと使い方が違いすぎて、すぐに使わなくなりました。
床下機器というパーツは小さい部品の塊なので、新しい電車を作るときは過去のデータから持ってきてくっつけられるんですね。
すでにDesignSpark Mechanicalでかなりの量のデータを作ってしまったので、ソフトを変えてしまうとそれらすべてのデータを仕様変更しないといけない。
現状、DesignSpark Mechanicalで困っていないので、仕様変更の手間などを考えても、今のままでよいかなと思っています。
鉄道模型を楽しまれている方々は熱量がすごいので、Fusion 360以外を使われている方も多い印象です。
Fusion 360だとデータの見た目はかなりキレイに作れますが、床下機器を作る場合は丸と四角がキレイに書ければそれで十分なんです。
データ上で影を付ける必要がないし、立体っぽく見えなくていいので、余計な機能はいらないかなと。
DesignSpark Mechanicalは無料で使えるので、何事もなければ10年くらいはこのまま使い続けていくと思います。
DMM.makeを利用し続けている理由
DMM.makeを使い始めたきっかけは、NEKO PUBLISHINGさんの本なんですね。
そうですね。
DMMさんへのデータのアップロードのやり方などがかなり詳しく書かれていたので、それを見ながら取り組み始めました。
弊社以外のサービスを利用されたことはありますか?
2年くらい前にアクリルのXtreme Modeが終了して、Ultra Modeもやめるというお知らせがあったときに、一度だけ他社を使ったことがありますが、結果的に全然だめでした。
サービスが全部英語なので日本人が全然買ってくれないのと、サポート材がべっとり付いた状態で届くので、かなり扱いにくかったんですよね。
結果的にUltra Modeを継続していただけることになったので、DMMさんに戻したという経緯があります。
機材が廃盤になってしまうという問題で、我々もどうにか後続の機械をと思って探しているのですが、なかなかいいものが見つからないんですよね……。
他の会社さんにも頑張ってもらいたいところではありますが、私はいまだに「明日にでもUltra Modeがなくなるんじゃないか」と心配です。
そういった不安がある中ではありますが、DMM.makeを使い続けている理由は何かございますか?
圧倒的に使いやすいことですね。
鉄道模型の場合は、人それぞれで欲しいモノの種類が細かく分かれているので、それらすべての在庫を抱えて販売するのは現実的ではありません。
今のDMMさんのように、データだけ作って販売できるというやり方が一番しっくりきていますし、出来上がった製品は精度や強度も兼ね備えています。
現状、他社さんでは考えられないクオリティなので、今後もDMMさんを使い続けていくだろうと思っています。
家庭用3Dプリンターとの使い分け
ご自身で手を動かすのがお好きとのことですが、ご自分でも3Dプリンターを使っているのでしょうか。
去年の夏頃に家庭用の光造形の3Dプリンター「Phrozen Sonic Mighty 4K」を一台買いました。
今もガンガン使っています。
弊社のサービスとはどのように使い分けていますか?
DMMさんに依頼する場合は、アクリル(Ultra Mode)を選んでいるのですが、これで小さいパーツを作ると、強度が足りなくて折れてしまうことがあるんです。
レジン製のものは柔軟性があるので、折れずにしなってくれるのと、表面がアクリルよりも滑らかになりやすい。
なので、電車の連結器などの小さいパーツで、全面を滑らかでキレイな状態にしたい場合や、柔軟性が欲しいパーツの場合は自宅の3Dプリンターを使っています。
ただ、家庭用だと大きいものを出力すると歪みが出てしまうので、大きなものはDMMさんに依頼して、試作や大体の大きさを測る目的のときは自宅で、というような使い分けをしています。
アクリル(Ultra Mode)を使っている理由は何ですか?
ひとつは細かくキレイに造形できるという点です。
サポート材がないというと少し語弊がありますが、光造形のような棒状のサポートがつかないところがいいなと思っています。
車体みたいなパーツであればサポートが付いていても問題ないですが、床下機器のパーツだと細かい配管が多いので、あれに棒状のサポートが付くと除去が大変で……。
自宅でもたまに試作するんですが、やっぱりDMMさんに依頼するのとでは出来がまったく違います。
光造形と比較すると、アクリル(Ultra Mode)はどの面も比較的キレイに出力できるのはよいポイントですよね。
家庭用のプリンターで出品している人も多いですが、ユーザーさんの声を聞くと、やっぱりサポートの除去がすごく難しく苦労されているみたいです。
DMMさんだとそういった作業が必要ないので、とても助かるという声をよく聞いています。アクリル(Ultra Mode)を重宝している人も多いですね。
3Dプリンターを使った製作活動で難しいと感じるところ
3Dプリンターを使った製作活動で苦労していることはございますか?
先ほども申し上げたとおり、鉄道模型の床下機器は編成パターンによって仕様が異なっているので、人によって欲しいモノが全部違うんですよね。
いろいろなパターンを作って売りに出してみれば傾向はつかめますが、実際に作るまでは何が売れるかさっぱりわからないのが難しいところだと感じています。
購入される人によって、こだわりポイントが変わってくるということですね。
そうですね。
たとえば、市販の鉄道模型を買って、そこに私のパーツを付ければ完成するというものであれば、わりかし売れるのでイメージもできます。
一方で、市販の鉄道模型を少し改造しないと使えないようなパーツは、たくさんは売れませんし、どのタイプが売れるか最後までわからないんです。
利用者の人がどのような改造をしたいのか、ニーズが多すぎて把握しきれていないのが現状です。
誰もが同じものを欲しがるわけじゃないんですね。
やっぱり自分だけのものだったり、思い入れのある車両だったり、人によってこだわりが多いみたいです。
2015年からはじめて7〜8年になりますが、いまだにこの部分は掴みきれていません。
現状、武蔵模型工房様の中でイメージしつつある「売れるポイント」のようなものはありますか?
今までの鉄道模型はどの商品を買ってもあまり違いがなくて、「どれを買っても雰囲気は同じだよね」というのが共通認識だったんです。
ところが、「3Dプリンターで製作した自作可能なパーツ」が生まれたことで、多くのマニアの方々が思い描く「自分のこだわりを詰め込んだ理想の鉄道模型」が作れるようになったんです。
たとえば、大阪の人には、大阪の「阪急電車」という茶色い電車用のパーツが売れています。
阪急電車は形式が異なっていても車体の見た目が似ているものが多いので、細かな違いをしっかり再現したくなるのです。
阪急愛が強い人ほど、こういう部分にこだわるのだろうと思っています。
なるほど。皆さんそれぞれの鉄道模型を集めたくなるんですかね。
鉄道模型は値段が高いことが多いのですが、10年前くらいから安いものが登場してきたんですね。
ただ、安くするために上からは見えない床下部分が適当な感じで作られていて、マニアの人からすると少し物足りない感じ。
先に例に挙げた阪急電車は車体がどれも似たよう感じなんですが、床下までしっかり変えておかないと、マニアの人からすると「なんだこれは?」となってしまいます。
「せっかく買ったしどうにかしたい」というところで、私が出品しているようなパーツをいろいろと買い集めてきて、安い鉄道模型をカスタマイズして楽しんでいる人が多いですね。
※ 正面から見ると同じような顔つきが多い阪急電車でも、床下機器パーツを高精細なパーツに交換して、こだわりの1両に!
3Dプリンターを使った製作活動を続けていてよかったこと
3Dプリンターを使った製作活動や情報発信をしてきて、良かったことは何かありますか?
大きく分けると2点あります。
ひとつは、今まで自分で作れないような精度を出せるので、手作業では到底実現不可能だった正確な作品が作れるようになったことです。もうひとつ、鉄道模型界隈で人脈が広がったことも非常にありがたいです。
具体的に、どういう方々とお知り合いになられたのでしょうか。
マニアックなパーツを作っていると、年配の人とかで非常に強いこだわりを持っている人からご連絡をいただくことが多いんです。
鉄道界隈で有名な人たちとネット上で知り合いになると、古い車両の詳しい資料なんかをたくさん持ってたりして、貴重なデータや写真をいただける機会が増えました。
皆さんから「資料を渡すからこれを作って」というようなご依頼をいただくこともあれば、私自身が作りたい車両があって、こんな資料を持っていないか?と相談させてもらうことも多々あります。
自分ひとりで作っているだけだと一方通行ですが、そうやって双方向でやり取りさせてもらう中で、自分の知識の幅が広がったのは良かった点だなと改めて感じますね。
受託でデータ作成をする活動もされているのでしょうか。
結果的にそうなったことは何度かあります。
広く業務を受託するというわけではないのですが、模型屋さんからご依頼をいただくこともありましたね。
受託製作の場合も、実際に販売までされるのでしょうか。
大阪のイケダモデリングという模型店様から、神戸市電を作りたいというご相談を頂き、設計をお手伝いさせて頂いた事がございます。
DMMさんでプリントしたままの組み立てキットと、模型店様で組み立て・塗装を行った完成品の両方を販売されています。
イケダモデリング トップページ → https://ikedamodeling.cart.fc2.com/
キットページ → https://ikedamodeling.cart.fc2.com/ca1/121/p-r1-s/
今後の製作活動や展望について
今後、個人の活動としての展望はありますか?
現状の鉄道模型はNゲージとよばれるサイズで製作していますが、今後は他のサイズの模型にもチャレンジしたいなと思っています。
あと、3Dプリント以外の分野にも注目しています。たとえば最近は印刷技術が進化してきているので、立体物への印刷や、鉄道模型自体への着色方法なども常に考えています。
探究心が果てしないですね(笑)
やりたいことは山ほどあります(笑)
現在は手塗りですが、そういった部分に対する革新的な技術が出てくるのかも気になっています。
鉄道模型には、色はもちろん動力などいろいろなものが必要です。
車体の見た目以外にも、機能性や他の技術に対してもアンテナを張って、新しいことができないか考えていきたいですね。
動力の部分は、具体的にどのような感じになるのでしょうか。
電車を走らせるための動力装置を個人で作るのは非常に難しいので、現状はメーカーが販売しているものをそのまま使っています。
ただ、それだと既製品で形が合わないなどの問題が出てくるので、そのあたりをどこまで自分でやれるかは難しいところだなと感じています。
一部のメーカーでは、既製品の動力装置を改造するパーツを3Dプリントで出しているんですが、もう少し精度の良いものがほしいと言いますか……。
動力装置はものすごく高い精度で作らないと、鉄道模型がスムーズに走っていかないんですよね。
それに、モーターはかなり発熱するので、熱に強い素材を考えていかないといけないなとか、今の3Dプリンターだと技術的にいろいろな課題が多いなと考えています。
既製品のモーターには排熱加工やヒートシンクのようなものはついているのでしょうか。
特にないですね。金型成形のプラスチックだとちょっとやそっとじゃ溶けないので。
周りを金属で加工して鉄道模型の重りを兼ねている場合もあるので、ダイキャストで作ったりしています。
金属を使って3Dプリントしようとすると、費用がかなりかさんでしまうので、コスト面での問題も大きいですね。
チタンで作っている方もいますね。
ただ、チタンだと価格が安い代わりに軽すぎるので、安くて比重が重い金属があればいいなともおっしゃっていました。
そうですよね……。
鉛みたいにずっしりしていて、なおかつコストが安い素材があると嬉しいです。
現状は枠の部分だけを3Dプリントでやっていて、重りは別に金属の板を載せている状況です。
ただ、鉄道模型のサイズ感的にあまりスペースがないので、重りを別に乗せることが結構難しいんです。
既製品のように、枠そのものを金属で作ることができれば、重しと強度、全部を兼ね備えたものができると思っています。
弊社でも今後の参考にさせていただきます。
それでは今回のインタビューは以上とさせていただきます。
お時間いただきまして、どうもありがとうございました。
こちらこそありがとうございました。
武蔵模型工房様