DMM.makeの3Dプリントサービスをお使いのお客様の事例を紹介する本連載。今回は、3Dプリントを活用した彫刻作品を制作している彫刻家の萩原亮様です。
クリエイターズマーケットに出品している作品について
本日はお時間をいただきましてありがとうございます。
さっそく、クリエイターズマーケットに出品されている作品についてご紹介いただけますでしょうか。
よろしくお願いいたします。
僕は3Dプリントを活用した彫刻作品を制作している彫刻家です。
普段から3Dデータを使って制作活動に励んでいるのですが、そのデータを少し加工して、僕の作品の縮小版をクリエイターズマーケットで販売させていただいています。
ありがとうございます。
縮小版といいますと、どういったものになりますでしょうか。
ファングッズという訳ではありませんが、僕の作品のレプリカを手軽に購入いただけるようにクリエイターズマーケットで出品させてもらっています。
僕が実際に制作する作品は、基本的に30cm程度の大きさになるのですが、そちらをご購入いただくとなると10万円程度から数十万円となってしまいます。
また、僕自身のマンパワー的にも、それほど多くの作品を作り出せないのですが、形に残る作品が欲しいといってくださる方が多いんです。
なるほど。
3Dプリンターを使ってご自身の作品のレプリカを作ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
大変ありがたいことに、僕の作品に一定の需要があるのに対して、僕自身の手が回っておらず供給力が足りていないんです。
他の彫刻家ですと、手が空いたときに10cmくらいの小さな作品を大量に制作されている方もいらっしゃいます。
ただ、お客様に作品をお届けする方法を考えた場合に、言葉が適切ではないかもしれませんが、コストパフォーマンスが悪いと思いまして…。
自分一人で販売しようとすると、梱包や発送作業をすべて自分でやらないといけないので、制作活動以外に時間がかかって、金額的に見合わない部分が大きいと感じたんです。
仰るとおり、消費者目線ではお手頃な価格で購入できるとありがたいですが、生産者目線ではなかなか難しいですよね。
これは僕に限った話ではなく、彫刻家全員に当てはまる問題だと思っています。
そういったなかで、いろいろな方法を模索しているとき、DMMさんのクリエイターズマーケットをたまたま見かけました。
その当時はアーティストの方があまりいらっしゃらなかったと思うのですが、クリエイターズマーケットを見たときに僕のやりたいことと親和性が高いと感じたんです。
データをアップロードしていただければ、商品が売れたあとは、造形から発送までを弊社で行っていますからね。
萩原様のお悩みを解決できたのではと思います。
はい、非常に助かりました。
最初は僕の作品がどのように思われるか心配でしたが、実際に売り出してみたら意外と受け入れてくださる方が多かったので、とても良かったと思っています。
使っているCGソフトや3DCGを始めたきっかけ
ご自宅でも3Dプリンターを使って一点物の作品を作られているとのことですが、お使いの3DCADについて伺えますでしょうか。
僕はBlenderを使っています。
3DCADというより、3DCGソフトが適切ですかね。
ありがとうございます。
3DCGを使い始めたきっかけは何だったのでしょうか。
だいぶ昔の13〜14年前、大学時代の話になるのですが、とあるゲーム会社でアルバイトをしていて、そこで「Maya」を教わりました。
美術系の大学生はデザイン事務所やゲーム会社でアルバイトをすることも多いんです。
実はアルバイトを始める前まで3DCGに触れたことがなくて、自分のパソコンをギリギリ持っている程度のレベルでした。
ただ、その会社は美大生や芸大生を積極的にアルバイト採用していて、採用後に基本からMayaを教えてくれる会社だったんです。
面接は自分のデッサンを持っていって「これくらいの描写ができます」とお話して、そこでCGの基本を勉強させてもらいました。
ゲーム会社がデッサンだけを見て採用を決めていたのですね(笑)
それまではデジタルでの制作活動はほとんどされていなかったのでしょうか。
大学に入って間もない頃だったので、ほとんどしていなかったですね。
逆に、アルバイト時代には3DCGのエッジやサーフェス、座標系、あるいは物の見え方や捉え方に触れることができました。
そういった3DCGならではの考え方を自分の作品に取り入れていったという感じです。
制作手法がアナログからデジタルへ移行して感じた変化
アナログな手法で制作活動をされていたこともあるかと思いますが、CGを使った制作手法へ移行して感じた変化などはございましたか?
大学に入ってから2年生の途中くらいまでは基礎課題が多かったんです。
たとえば、最初はテラコッタという素焼き粘土を使って人体を作ったり、実習で石や木を彫ったり、道具の基礎的な使い方をひと通り学びました。
最初は石で立方体を作るとか、木彫実習で丸太の面出しをするとかもやりましたね。
それまでは粘土や石、木、金属を使った基礎課題をやってきましたが、2年生の中盤以降は自分の好きな素材を使って作品を作る時間がありました。
その頃、僕はもう3DCGにどっぷり浸かっていたので、「3DCGのワイヤーフレームが現実に出てきたらどう見えるのかな」とイメージしながら制作活動に打ち込みました。
その当時は、太さ3mmほどの鉄の棒をたくさん溶接して、金属製の作品を制作しました。
かなり大変な作業でしたね。
すでに設計自体は3DCGでされていて、それを設計図として一本一本をアナログで組み立てていかれたと。
かなり大変でした(笑)
抽象的な形で、作りながらこの部分の長さは何mmで、角度が何度で、という感じで…。
なかなか骨が折れる作業でしたが、試行錯誤しながら楽しく取り組んでいました。
僕が習っていた先生は、プログラムを使った作品づくりの先駆けのような方で、僕の制作方法にも非常に理解があっていろいろと教えていただきました。
先生がそういった方法を活用されていたのですね。
いまの制作活動のほとんどは、3Dプリンターを活用されているのでしょうか。
そうですね。
いまはもう、3Dプリンターなしでは考えられないほどです(笑)
出品物の制作方法や意識していること
データ作成の部分が主になるかと思いますが、萩原様の作品について、どのように制作されているかをお聞かせいただけますでしょうか。
最近は3DCGを活用している彫刻家の方が増えていますが、多くの方はスカルプト*で制作されているかと思います。
ただ、僕が3DCGに触れたきっかけはポリゴンモデリングだったので、いまも真四角の立方体からエッジを増やして、頂点を動かしながら形を作っています。
*編集部注:彫刻する(スカルプトする)ような感覚で、直感的に3DCGモデルの形状を制作する方法のこと。
なるほど。
参考にしている動物の写真などを見ながら作られているのでしょうか。
2枚のディスプレイを横に並べて、動物園で取材をしたときに撮影した写真を見ながら作っています。
あとはYouTubeなどで動物の動画を見て、どういう風に動いているのかということを参考にしています。
そのおかげか、僕の作品はお客様から「動き」の部分を褒めていただけることが非常に多いんです。
たしかに普通の彫刻よりも躍動感のある作品が多いですよね。
実は、動物をモチーフにした彫刻は作りやすい形というのがある程度決まっていて、選んだ素材による制約も多いんです。
たとえば、動物の彫刻を木やブロンズで作ろうとする場合、重力に負けてしまうので不安定な形状は作れません。
3Dプリンターならパソコンの画面上で作っていくので、物理的な要素を一時的に度外視して制作ができます。
従来のやり方では難しい構図も可能なので、そういった部分が僕の作品の特徴として現れているのかもしれないですね。
3Dプリンターの場合は、出力したあとの重量も比較的軽めなので、通常より表現の幅が広げられるのですね。
逆に、出力後に「形は作れたが、重心が上手く取れなかった」ということはないのでしょうか。
ある程度の形を作ったあとは、Blenderに備わっている重心を割り出す機能を使っています。
重心を3点の中心に据えれば、倒れることなく立ってくれていますね。
なるほど。
たしかに3点の内側に重心が来れば倒れてしまうことは少なそうですね。
そうですね。
それでも不安定になることはありますが、「ミュージアムジェル」というソフト接着剤や、ブロンズ製の作品なら中身は空洞なので、下のほうに厚みを付けて重心を安定させるような工夫をしています。
作品制作の過程はデジタルだけれども、実際にプリントしたあとは細かな調整もされているのですね。
素材を置き換えていくことをしていると、従来の制約が出てくることもあります。
ただ、3Dプリンターで出力したものは比較的重量が軽いので、あとからの工夫で調整できるのが良いですね。
出品物の購入時に選択可能としている素材について
出品物の素材はナイロンが多いと思いますが、ナイロンを選んだ理由はございますか?
「最初に出力を試したのがナイロンだった」というのが理由です。
試作品を見て違和感があれば別の素材を試していたと思いますが、一度目で質感が良いと感じたこと、SLS方式なのでサポート材が付かないことが評価ポイントでした。
僕が持っているFDM方式の家庭用3Dプリンターで出力をすると、どうしてもサポートが付いて荒れてしまうので、その部分の処理に時間がかかってしまうんですよね。
サポート材の処理もなかなか手間がかかって大変ですよね。
そうなんですよね。
DMMさんは僕を経由せずにお客様に直接届けていただくオンデマンド式で、僕の処理が必要ない素材でないと成り立たないと思いました。
そういう考えもあって、サポート材が付かないタイプの素材は非常にマッチしているな、と感じています。
あと、染色した場合のサイズ感とコスト面も合っていて、それでいて自由に色を選べるという点も良いポイントだと思っています。
クリエイターズマーケットでの販売をしていて苦労したこと
クリエイターズマーケットで販売していて、苦労されたことなどはございますか?
大変だったこと…あまり思いつかないですね。
ただ、この前あった出来事でいうと、物価の影響で原材料が少し値上げされていましたよね。
全部というわけではありませんが、物価の影響は受けていますね。
ちょうどその頃、価格がお手頃な「エコノミーレジン」が出たので、クリエイターズマーケットで選べるようにしたんです。
ただ、僕がデザインガイドラインを読み込んでいなかったことがいけないのですが、通常のナイロンよりも精度が若干下がってしまったんですよね。
若干色が透けてしまったり、少し欠けていたり…。
素材が代わってもそこまで大きく変わらないだろうと思っていたのですが、通常のナイロンでは起こらない問題が発生したので驚きました。
用途によっては素晴らしい素材だと思うのですが、僕の見込みが甘かったこともあって、想定する出来とは異なるものになっていたということはありましたね。
なるほど…。
用途によっては扱いやすくて人気のある素材なのですが、萩原様の作品には少し不向きだったかもしれませんね…。
そうですね。僕の作品との相性の問題だと思っています。
それ以外では、特に苦労を感じたことはないですね。
クリエイターズマーケットで販売していて良かったこと
苦労されたこととは反対に、クリエイターズマーケットで販売していて良かったことはございますか?
良かったことはたくさんありますよ。
僕はSNSの中でもTwitterに力を入れて取り組んでいるのですが、Twitterで発売報告をすると、実際に購入してくれた方が僕をタグ付けした上で、作品の写真を投稿してくれるんです。
作家さんからするととても嬉しい投稿ですね。
そうですね。僕がそれをさらに拡散するみたいな形で、宣伝的にも非常に効果が高いと思っています。
購入いただいた方にとって集めやすい金額だったりサイズ感だったりという利点もあるので、ファンの方を増やすのにすごく役立っているなと感じています。
ありがとうございます。
作家さんの作品を手軽に1万円前後で購入できるというのは、なかなかありませんよね。
ファンの方が購入しやすい、投稿しやすいという点と、Twitterの相性が良いのでしょうね。
そうですね。
SNSとの相性はバッチリだと思います。
DMM.makeを使い続けている理由やクリエイターズマーケットの使用感
DMM.makeをいまも使い続けている理由は何かございますか?
一時期、海外の業者を利用したのですが、物理的に距離が遠いので送料が高いですし、一度の注文で1か月以上の時間がかかっていました。
メールでデータの不備を教えてくれるのですが、もちろん英語なので、専門用語の単語などが難しい…。
梱包が雑だったこともあって、いろいろと難点があったんですよね。
その点、DMM.makeでは非常に適切なアドバイスをいただけます。
「このデータはこういう理由でできません」とか「この部分でこうしてもらえれば大丈夫です」とか、丁寧に対応していただいています。
しかも、レスポンスが非常に早いので、そういった点でも非常に助かっています。
ありがとうございます。
クリエイターズマーケット全体の話になりますが、実際に使っていただいて思うところや不満に感じる点などはございますか?
正直なお話、クリエイターズマーケット自体をそこまで覗いていないので…。
売上を知りたいときにご覧になるくらいでしょうか?
そうですね、どの作品が何個出ているのかといったデータは見ます。
以前、とある彫刻家の方の作品を購入したのですが、それはその作家さんのSNS経由で買いに行ったんですよね。
DMM.make公式アカウントも見ていますが、僕個人は「3Dプリントで出力されたものなら何でも好き」というわけではないので…。
申し訳ないですが、クリエイターズマーケットを常に覗いていることはない感じです。
仰るとおりで、社内でもその部分が課題になっているところです。
3Dプリンターで作られたものを何でもかんでもSNSで告知しても、マーケティング的になかなか難しいですよね。
貴重なご意見、ありがとうございます。
今後の活動で取り組んでみたいことや挑戦したいこと
最後に、今後の活動で取り組んでみたいことや興味があることはございますか?
自分自身の活動としては、一点物で大きめの作品を作って展示しようかなと思っています。
制作過程で3Dプリンターを使うことに変わりはありませんが、売るために作るというより、見に来てもらうための作品という意味合いが強いですね。
実際に足を運んでいただいたお客様に、ドローイング作品やナイロン3Dプリント作品を購入していただけるような形を作っていけたら良いなと考えています。
原点回帰というわけではありませんが、ものすごく巨大な作品を作ってお客様に来てもらって、そこでドローイングやリトグラフみたいな作品を購入していただくという彫刻家の正統派なやり方に挑戦したいですね。
一周回って戻ってきた感じですね(笑)
まさしくそのとおりですね(笑)
でも、それが可能になったのも、DMM.makeさんのナイロン3Dプリントのおかげだと思っています。
多くの方に見ていただけるようになったからこそ、その方向性でやっていけそうかなと考えられるようになりました。
実現させるために、今後はよりフィジカル強めで制作活動に取り組んでいきたいなと考えています。
応援しています。それでは本日はこれにて終了とさせていただきます。
お時間いただきましてありがとうございました。
ありがとうございました。
萩原亮様
クリエイターズマーケット:https://make.dmm.com/shop/268679/
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