工業部品やアクセサリーなど、私たちの生活に欠かせない金属。
切削や射出成形に続く新たな選択肢として、近年では3Dプリンターでも金属製品を作れるようになりました。
さまざまな形状を必要な分だけ作れる金属3Dプリンターは、うまく使いこなせば、金属製品の製作フローを大きく変える可能性を秘めています。
この記事では、金属3Dプリンターの基礎知識として、仕組みや使える素材、実際に製作できるものや使い方などについて紹介していきます。
金属3Dプリンターの造形方式と価格帯
金属3Dプリンターにはいくつかの造形方式があり、それぞれ仕組みと価格帯が異なります。
パウダーベッド方式(SLS、EBM) | 結合材噴射方式(BJ) | 指向性エネルギー堆積方式(DED) | 熱溶解積層方式(FDM、FFF) | |
仕組み | 敷き詰めた金属粉末を熱で溶かして固める | 敷き詰めた金属粉末を結合材で固める | ノズルから金属粉末をレーザーと共に噴きつける | 金属を含んだ樹脂を溶かして造形した後、樹脂だけを取り除く(脱脂する) |
メリット | 機材の選択肢が多い | 造形スピードが速い | 既存物の補修や肉盛りができる | 機材の価格が安い |
デメリット | 造形に時間がかかる | 造形物の密度が低く、後処理でサイズが変わる | サポート材のつく形状は造形できない | 他方式に精度が劣り、後処理でサイズが変わる |
機材の価格帯目安 | 数千万円〜 | 数千万円〜 | 数千万円〜 | 数十万円〜 |
パウダーベッド方式(SLS、EBM)
パウダーベッド方式は、テーブルに敷き詰めた金属の粉末にレーザー光や電子ビームを当て、熱によって溶かし固めていく方式です。
レーザー光を使うタイプはSLS(Selevtive Laser Sintering)、電子ビームを使うタイプはEBM(Electron Beam Melting)などの略称を持ち、粉末焼結方式と呼ばれることもあります。
造形の精度が高く、素材の選択肢も多いことが特徴です。金属3Dプリンターの中では最もポピュラーな方式なので、機材の選択肢が多いこともメリットと言えるでしょう。
結合材噴射方式(BJ)
結合材噴射方式は、テーブルに敷き詰めた金属の粉末に対し、材料を固めるための結合材(バインダ)を噴射して固めていく方式です。BJ(Binder Jetting)とも略称されます。
他の方式よりも造形スピードに優れますが、造形物の密度は低くなります。また、造形後にはバインダを除去するための脱脂や焼結、硬度を上げるための含浸などの処理が必要です。
指向性エネルギー堆積方式(DED)
指向性エネルギー堆積方式は、ノズルから金属粉末を噴射すると同時にレーザービームを照射し、吹き付けた部分に金属を盛り付けていく方式です。金属粉末の代わりにワイヤーを用いる場合は、アーク溶接方式と呼ばれます。
ノズルの位置に自由度があるので、すでに造形したモデルを補修したり、垂直な面に対して真横に造形する、といった加工も可能です。ただし、サポート材を後から取り外すことが難しいため、造形できる形状の制約は多いです。
熱溶解積層方式(FFF、FDM)
熱溶解積層方式は、金属の含まれた樹脂素材(フィラメント)を溶かしながら積層していく方式です。造形後に脱脂と焼結を行うことによって、最終的に金属だけのモデルが完成します。
熱溶解積層方式の最大の特徴は、なんと言っても機材の価格が安いこと。他の方式の金属3Dプリンターは数千万円〜数億円といった価格が多いなか、熱溶解積層方式であれば数十万円から購入が可能です。
比較的手軽に利用できる方式ですが、造形精度は他に劣ります。また、脱脂と焼結の後処理によって造形物のサイズが小さくなるため、縮小率を計算に入れた上で造形しなければいけません。
金属3Dプリンターで使える素材
金属3Dプリンターで使える素材は、造形方式や機材によって異なるため、本格的に利用する際には個別に確認しておく必要があります。ここでは、大まかな区分をお伝えします。
主な金属粉末造形材料
粉末材料として扱える3Dプリント用の金属素材には、主に以下のようなものがあります。
造形素材 | 特性・利用用途 |
マルエージング鋼 | 金型インサート、金型部品 |
ステンレス | 延性・耐腐食性 |
ニッケル合金(インコネル) | 高耐熱性 |
チタン、チタン合金 | 機械的性質・軽量・生体親和性 |
アルミニウム、アルミニウム合金 | 軽量性 |
コバルトクロムモリブデン鋼 | 機械的性質・高耐熱性・生体親和性 |
金合金、白金(プラチナ)基金属ガラス | 宝飾、歯科医療 |
指向性エネルギー堆積方式で使える素材
指向性エネルギー堆積方式では、上記の主な金属粉末造形材料に加え、切削工具の加工や修復に活用できる「炭化タングステン粉末」や、特性がほとんど変化せず、航空機や船舶などのエンジン部品に向く「コバルト合金粉末」も利用できます。
熱溶解積層方式で使える素材
熱溶解積層方式の3Dプリンターでは、専用のカートリッジ(フィラメント)で材料を供給することになります。それぞれ専用の素材となるので、機材ごとに利用可能なフィラメントの仕様を確かめておきましょう。
たとえば、Markforged 社の熱溶解積層方式3Dプリンター「METAL X」では、17-4 ステンレス鋼・H13工具鋼(SKD61)・A2工具鋼(SKD12)・D2工具鋼・インコネル625・銅(Copper)、といった素材がラインナップされています。
金属3Dプリンターで作れるもの
3Dデータがあれば、3Dプリンターは金属に限らずさまざまなものを作ることができます。造形サイズや精度の制約はありますが、工業製品からアクセサリーまで、作れるものの幅は多岐にわたります。船舶のプロペラやロケットエンジンのパーツ、治具や宝飾品など例を挙げれば限りがありません。
なかでも、これまでの切削や射出成形とは異なる、3Dプリンターならではの特性を活かすと、次のようなアイテムで特に力を発揮するでしょう。
小ロットのプロダクト
大量生産が見込めない小ロットのプロダクトでは、1個からでも製造できる金属3Dプリンターが、金型を作るよりもコスト面で優れる場合があります。
熱交換器やヒートシンク
金属3Dプリンターならではの高い造形精度を活用することで、熱交換器やヒートシンクなど、内部構造や表面形状によって性能が変わる工業部品に、新たな価値を生み出せます。
補修部品や廃番となった商品
すでに金型が失われたものや、在庫がなくなった金属製品であっても、3Dプリンターを活用すれば低コストで補うことができます。
試したいなら3Dプリントサービスがおすすめ
金属3Dプリンターで作れるものは数多くありますが、熱溶解積層方式以外の方式はまだまだ高価なものばかり。利用できる素材も機種によって異なるので、マシンを購入する際には丁寧に検討した方がよいでしょう。
「まずはどのようなものが作れるか試してみたい」という方には、3Dプリントの外注サービスがおすすめです。
最短3日で試作品が完成!法人も利用できる3Dプリントサービス
DMM.make の3Dプリントサービスでは、チタンやアルミ・ステンレス(SUS316L)といった種類の金属で3Dプリントが可能です。
また、3Dプリントしたモデルを鋳型として活用し、シルバー・ゴールド・プラチナ・真鍮の鋳造品も入手できます(ロストワックス法)。金属3Dプリンターとは異なる方法ですが、金属製のアイテムを入手するための方法として、役立ってくれるでしょう。
まとめ
以上、金属3Dプリンターの基礎知識についてお伝えしました。
・金属3Dプリンターの造形方式は大きく分けて4種類
・ほとんどの機材は数千万円以上の価格帯
・熱溶解積層方式(FDM、FFF)の機材なら、数十万円から購入可能
・造形方式によって、使える金属素材に違いがある
・小ロットの製品や補修部品など、ニッチなプロダクトと相性が良い
・3Dプリント外注サービスでも、いろいろな金属素材が扱える
さまざまな方式や素材があるため、自分の用途に応じたものを選ぶことが重要です。
3Dプリントの外注サービスも活用しながら、あなたにぴったりの金属のプロダクトが手に入ることを願っています!