社会に開かれるFABのあり方【道用大介先生インタビュー後編】

道用大介先生インタビュー後編

文系・理系の垣根を超えてクリエイティブな授業を展開し、大学内にファブラボを創設してきた道用大介先生(神奈川大学経営学部准教授)。FABのあり方について、DMM.makeがファブラボみなとみらいにてお話を伺いました。
インタビュー後編はファブラボ立ち上げの経緯や教育について語っていただきました。

神奈川大学経営学部准教授・道用大介先生プロフィール写真

プロフィール:道用大介先生
1976年生まれ
慶應義塾大学 博士(工学)神奈川大学経営学部国際経営学科准教授
専門は経営工学、デザイン学

文系学生にも実験施設が必要だ

──現在、道用先生が教鞭をとられているのは、「経営学部」ですよね? なぜ授業でFABを扱っているのでしょうか?

私はこれまで工学部で製造業の生産活動について教えてきました。何かあったら自分が環境を設定・コントロールして実験をして、検証をして繰り返していくといったことを学生達とおこなってきました。

その後、神奈川大学に移って文系の学部で教え始めたときに、実際に手を動かして実験や体験をできる場所が少ないと感じました。
既に教科書になっているような社会にある問題をピックアップして、スライドを見ながら授業が進み、どこか第三者的に議論が終わってしまいます。

折角アイデアがあるなら、それを実験しながら挑戦できるような環境がないかなと考えました。
そんな時に、3Dプリンターやファブがあることを知り、調べるうちにファブラボという場所が、自分たちで何かを考えて、積み上げていく適切な場所だと思いスタートしたんです。

──実際に授業にFABを取り入れてみて、どのような変化がありましたか?

私たちの生活は身の回りのありとあらゆるものが高度になりすぎていて、自分で手がつけられないという状況にあります。
いざ「こんなものが欲しい」と思っても、自分でハンドメイドするとなると、100円ショップで売られているような既製品と比べても「ちょっとみすぼらしいな」と感じてしまうこともあるでしょう。

そういった課題を3dプリンターとかレーザーカッターがあることで乗り越えられるようになりました。
ものづくりをしたことがない人が作ってもそれなりに加工精度の良いもの、見栄えのするものができるようになったんです。

そして、それを自分で作ったということで愛着も湧きますよね。
そうやってまずは自分で手を動かして、修正して、より自分のお気に入りの物を作ってもらうことから始めました。

──自分で手を動かす経験は大切ですよね。

現在の道用ゼミではソフトの使い方などは動画にしてみんなが各々で学んでいます。みんなの作りたいものが違うので、調査過程を自分で体験してもらうということを重視しているからです。

だから、ある意味では「教えない授業」だと思っています。

──「教えない授業」ですか?

新しい技術でできるものが多様化していると、人間が作りたいものが出て来ないのですよね。だから、ただ選択するという状況を脱却して自分で何かしようという気持ちを育むことを大切にしています。
ただ、学生を放り投げてしまうと「何を作ればいいのか」分からなくなってしまうので、ゆっくりと階段を上るような工夫はしています。

──具体的に授業ではどのような学び方をしていますか?

ものづくりを始める前には、「デザインシンキング」やデザイナーの太刀川英輔さんの提唱している「進化思考」といった考え方にも触れています。
また、文化人類学的な視点から人の行動を観察してそこから問題を見つけるような「フィールドワーク」の実習もおこなっています。

失敗したもじゃもじゃもアップサイクルで活かしていく。

プロトタイピングの重要性

──道用ゼミでは「プロトタイプ製作→フィードバック→カイゼン」というサイクルを重視しているように見受けられました。

教育現場でプロトタイピングを体験してもらうメリットは、学生たちが将来会社に勤めても自分たちでできることを試す機会が広まっていくことだと思います。

──先ほどお話いただいた、釣り具メーカーに就職した卒業生の方のようにボトムアップの提案力を養うことに繋がりそうですね。あらためてプロトタイピングの重要性はどこにあるのでしょうか?

プロトタイピングの良さは、頭の中にあるイメージを物として、見て、触って、その体験を通していろんな視点からフィードバックをもらえることだと思います。
みすぼらしくても、失敗しても、まずは作ってみようというチャレンジ精神も育まれますね。

たとえば2022年に実施した「サーキューラーデザインプロジェクト」では、校外の社会人の方々ともディスカッションをしながら、短期間でプロトタイピングまで作る体験を学生にしてもらいました。

実物を見せながらプレゼンテーションしたりいろんな人に触ってもらったりすることで、頭の中で考えていただけでは気づかなかったようなアイデアや気づきが生まれてくるのです。

──3Dプリンターもよく使われていますね。

はい。道用ゼミの授業でも3Dプリンターはフル活用しています。

3Dプリンターの大きな功績の一つはプロトタイピングを簡単に実現してくれることですよね。

ファブラボ平塚、ファブラボみなとみらいを立ち上げて

──道用先生は神奈川大学にて、2014年に「ファブラボ平塚」を、みなとみらいキャンパスに移転後は「ファブラボみなとみらい」を立ち上げられてきました。
まずは「ファブラボ平塚」の立ち上げ時のエピソードを聞かせていただけるでしょうか?

「ファブラボ平塚」立ち上げの時は今ほどファブラボ設立や運営について国内で事例が多くなく、何も分からずにがむしゃらになって作りましたね。
特に大学内のような教育施設に「ファブラボ」を作るといったことも珍しかったのです。

場所やお金の問題など課題は山積みでしたが、「失敗してもいいから、まずは小さく始めて、そこからどんどん工夫してみよう」と進めていきました。

──ものづくりの精神に通じる心持ちですね。

大型CNCカッターとそれで製作したベンチ
ファブラボみなとみらい名物の「大型CNCルーター」、手前の揺れるベンチはゼミ生作成。

──2021年に移転・オープンした「ファブラボみなとみらい」ではどのようなことがおこなわれていますか?

神奈川大学が平塚キャンパスからみなとみらいキャンパスに移転したことを契機に、「ファブラボ」も移転し「ファブラボみなとみらい」がオープンしました。

大学としても社会と大学を繋げてくれる「社会連携センター」ができたりもしていて、地域にも開かれてきたと思います。

──ファブラボを運営してきて印象的だったことは何でしょうか?

ものづくりをしていると、皆のできることが増えてくるのが目に見えるんですよね。各々が確実に成長しているのを実感したのは印象的でした。

昔は「ゆるファブ」といって、ゆるやかにファブを始めるという取り組みもしていてファブルっていうサイトで色々レシピを作っていました。みんな同じデザインはいやだから、 Tシャツを作ってみようなど、色々自分で考えてデータ作ってみたり、ちょっとしたお題を与えて、自分なりにアレンジしてみる!といった活動もおこなっていました。

3Dプリントで製作したガシャポンやきのこおみくじなどが並ぶ
2023年9月には「ファブラボみなとみらい展」を実施。ユーザーや学生の力作が展示された。

自分ゴトにして「世の中を良い方にカイゼンしていく」

──ファブラボを中心により街や社会に開かれた活動をおこなっているのですね。最近の活動で注力していることはなんですか?

現在はもっと考え方に焦点を当てて、どう考えてアイデアが出てくるかということを重視しています。

2023年には道用ゼミと鎌倉市と協働して、「今よりちょっといい暮らし、学生と考えるFABライフ」という活動をしました。
これは鎌倉市の市民の方が抱える「日常の困りごと」や「あったらいいな」を、本学学生が3DプリンターやIoTなどの”FAB”を通じて解決することを目的としたプロジェクトです。
鎌倉で暮らす方々から普段のお困りごとをインタビューしつつ、「それを解決するためにはどんな手段があるか?」「どんな物を作れば良いか?」をプロトタイプを作りながら考えていきました。

実際の人との対話やものづくりを通じて人の問題を解決しようといった意識も芽生えてくるし、世の中を良い方にカイゼンしていくみたいな意識も芽生えてくると思います。

参考:
神奈川大学「鎌倉市と道用ゼミが共同プロジェクト(1日目)を開催しました」/神奈川大学「鎌倉市と道用ゼミが共同プロジェクト(2日目)を開催しました」
doyolab「鎌倉市との共同プロジェクト」doyolab「鎌倉市共同プロジェクト発表会」

FABはSDGsの考えを包含し、STEAM教育の“E”はEnjoyやEthicを含んでいく

──なるほど、興味深いですね。では最後に少し大きな話を聞かせてください。今後、FABの未来はどうなっていくと思いますか?

FABを利用して人の問題を解決したり、社会を改善したりといった意識が芽生えて、今度はそのためにどうデザインしてこうかみたいなところに近い将来進んでいくのかなと思っています。
FABはSTEAM教育とよく紐づけられると思うんですけど、「地球にとって、人類にとっていいことをしていこう」といった部分とも混ざり合っていくのではないでしょうか?
STEAM教育のEがEnjoyやEthicsなどの意味を持ち、SDGsの考え方を包含した流れにFABはなっていくと思いますね。

教育には大きな力があります。
新しいSTEAM教育を受けた人が「今の状態どうなの?」「このやり方正しいの? じゃあ自分たちがちょっと変えてやってみようよ」とアクションを起こしていく……。
人々が楽しみながら倫理的に問題解決を目指すような世の中になったら、技術を良い方向に使っていける未来が待っていると思います。

──希望のもてる未来ですね! ファブラボに来ている学生さん達の顔もイキイキしているのが印象的でした。
DMM.makeもそのような明るい未来を作るお手伝いをしていきたいと強く思います。
今回はありがとうございました。

インタビュー前半はこちらから

FABの力でカイゼンを進める!【道用大介先生インタビュー前編】

道用大介先生インタビュー後編
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