本記事では、3Dプリンターの造形方法のひとつである「光造形方式(SLA)」について詳しくご紹介します。
光造形の基礎知識やメリット・デメリット、他の造形方法との比較情報などを徹底的に、分かりやすく解説していきます!
光造形(SLA)とは?
SLAとは、英語で「Stereolithography Apparatus」の頭文字をとったものです。
日本語では「光造形(光造形方式)」もしくは「液槽光重合方式」と呼ばれます。
SLA方式では、液体状の樹脂に紫外線レーザーを照射することで樹脂を硬化させます。造形速度が早く量産に対応していることに加え、造形精度が高く滑らかな仕上がりになるのが特徴です。また、材料の選択肢が豊富なため、試作から治工具、最終製品化までと幅広い用途があります。
高精度で滑らかな質感を求める方におすすめの造形方法です。
光造形技術の歴史
実は、光造形は3Dプリンターの中で最も歴史のある造形なんです。
原理的な技術は1980年代に小玉 秀男氏が発明したとされていますが、当時、小玉氏の特許申請は成立まで至りませんでした。その後、3D Systemsの共同創設者兼最高技術責任者であるChuck Hull氏が開発・特許を取得し、世界で初めて光造形を商業化しました。
日本で最初に光造形機が導入されたのは1990年です。
株式会社インクスが導入し、受託製造サービスを開始しました。2006年に特許が失効してからは多くの企業で開発・生産され、現在では幅広い分野で利用されています。
コンシューマー向けの光造形3Dプリンターも開発・販売されています。
SLAの基本的な数値データ
DMM.make3Dプリントで出力できるSLAの数値データや特徴を見ていきましょう。
各素材の特徴については、後ほど詳しく解説します。
寸法精度 | ±0.2mm or 0.2% |
---|---|
最大造形可能サイズ | 縦1680×横780×奥行580(mm) ※上記は「エコノミーレジン|SLA」と「ABSライク|SLA」の最大造形可能サイズです |
最小造形可能サイズ | D ≧ 5mm W ≧ 5mm H ≧ 5mm |
光造形は3Dプリント造形方式の中でも寸法精度に優れています。
紫外線レーザーによって樹脂を硬化していくため、熱膨張や収縮が起こりにくいのです。
一方で、造形できるサイズや寸法精度は、使用する3Dプリンターと素材によって変わります。また、今回表に記載している素材は、DMMで取り扱っている素材の一部です。他にも様々な特性を持った素材を取り扱っておりますので、ぜひ素材ページをご覧ください。
素材サンプルもご注文いただけます。
造形プロセス
まずは以下の動画をご覧ください。
3Dプリンターについて調べる際は、動画や画像などを見ながら仕組みを理解していくのがおすすめです。
それでは改めて、SLAという造形方式がどのようなプロセスを経て、高速度で高精度な造形を可能とするのかをお伝えします。
SLAの造形プロセスは以下の通りです
- タンク内を液体状の光硬化性樹脂で満たす
- 1層分の高さにプラットフォームを配置
- タンクの上or下からレーザーを照射
- プラットフォームが1層分昇降し、新たな液体樹脂が流れ込む
- 工程を繰り返し、積層する
STEP1 タンク内を液体状の光硬化性樹脂で満たす
光造形では液体の樹脂を使用します。
STEP2 1層分の高さにプラットフォームを配置
造形していく土台(プラットフォーム)をタンク内に設置します。
STEP3 タンクの上or下からレーザーを照射
一筆書きの要領で、1層ずつ造形していきます。
照射の方法は2種類あります。液面の上から照射する自由液面法と、ガラス板など透明な面を通して下から照射する規制液面法です。規制液面法の場合、逆さまに造形されていくため造形物の重さを考慮する必要があります。
数十ミクロンのレーザービームを照射しながら塗りつぶすように硬化していくことで、高精度な造形を可能にしているんです!
STEP4 プラットフォームが1層分昇降し、新たな液体樹脂が流れ込む
1層分の形状が成形されるごとに、プラットフォームも1層分昇降していきます。
自由液面法の場合は下に、規制液面法の場合は上にプラットフォームが移動します。
STEP5 工程を繰り返し、積層する
STEP1〜4の工程を繰り返し積層していくことで、造形物が製造されていきます。
他の造形方法に比べて積層痕が残らないのもポイントです。
造形後の後処理プロセス
光造形では後処理が欠かせません。
では、造形後にどのような処理が必要かを見ていきましょう。
STEP1 アルコール洗浄
造形物をプラットフォームからはがした後、造形物にこびりついた余分な樹脂を除去する必要があります。エタコールやIPAなどアルコール類に一定時間漬けておきましょう。
STEP2 二次硬化
光造形では、造形後に追加で紫外線や熱を当てることで、造形物の強度や耐熱性が上がります。ただし、材料ごとに硬化時間が決められている点、透明の材料は硬化が進むほど黄ばむという点には注意してください。
STEP3 サポート材の除去
硬化が完了した後、サポート材を除去していきます。
ニッパーでサポート材を1本ずつ切り離し、その後用途に合わせて研磨・塗装・コーティング等を行います。
サポート材とは、造形する際に造形物を支えてくれる支柱です。造形物が重力によって変形することを防ぎます。
光造形(SLA)を利用するメリット/デメリット
ここからは、SLAを利用するメリットとデメリットを紹介していきます。
造形する際のご自身の優先順位と照らし合わせながらご覧ください。
メリット①高精度でなめらかな表面を実現
光造形では材料が高温にならず熱収縮を起こしにくいことに加え、解像度も高いため、他の造形方法に比べて高精度な造形を実現することができます。
また、FDMなど他の造形方法よりも造形物の積層痕が残りにくいことがあげられます。
造形中に材料のレジン液が積層部分に垂れ流れることで、積層痕をカバーしてくれるのです。
フィギュアなど造形の見た目を重視する際は、光造形がおすすめです!
活用事例
「サグラダ・ファミリアをAI技術で再現!約1mの展示用プロジェクションマッピング作品を3Dプリンターで 東京工芸大学」
メリット②複雑な形状の製作もできる
光造形では樹脂を硬化させる際、サポート材といわれる支柱が必要となります。このサポート材によって浮遊するような複雑な形状や、内部に空間を持つ立体物も造形することが可能です。
従来の製造方法では困難だったデザインの実現が可能になり、製品開発や研究開発などの分野で非常に役立っています。
活用事例
「『日本の伝統的モチーフを海外へ』兜のアクセサリー制作に3Dプリントを活用。株式会社i-Fronte」
メリット③特殊な SLA 素材が利用可能
SLAが幅広い分野で利用されている理由の一つが、利用できる素材の豊富さにあります。現在、機能性や特性に応じて多様な種類の素材が開発されており、強度や耐熱性が高い樹脂から柔軟性が高い樹脂など、用途に合わせた樹脂が利用できます。
また、透明な光硬化性樹脂を用いることで、透明度の高いプリントが可能な点も光造形ならではです。光学部品やレンズなどの試作品から模型の透明パーツなど、透明性が求められる用途での利用が増えています。
デメリット①他の光造形に比べて出力に時間がかかる
SLAと同じ光造形であるDLPやLCDに比べて出力に時間を要します。
理由は、面ではなく一筆書きのように積層していくからです。
一方で、プリントする個数が増えても造形時間がほぼ変わらないというメリットもあります。
デメリット②太陽光に弱い
光造形では、光硬化性樹脂という紫外線で硬化する素材を利用します。
そのため、硬化後に太陽光などに長時間さらされると、造形物が黄ばんだり変形したりと劣化していきます。これらを防ぐためにも、使用前に透明なUVアクリル塗料でスプレーコーティングすることをおすすめします。
また、光造形で使用する素材も冷暗所で保管しておくのがおすすめです。
デメリット③メンテナンスや後処理が煩雑
造形後の後処理プロセスでも述べたように、光造形は後処理が必要となってきます。
また、樹脂を入れるタンクの洗浄や定期的な交換を行うことで、前に使用していた素材が残らないようにすることも重要です。
DMM.makeの造形サービスを使えば、サポート材の除去や機材メンテナンスの手間を省くことが可能です。
造形方式別比較表
以下に、各造形方式ごとの「おすすめ用途」「メリット」「デメリット」「素材」について表記してあります。
ただ、同じ造形方式の中でも造形速度が異なったり、使用する素材によって強度や耐熱性などが異なる場合があります。下記は各造形方式の目安となっているので、予めご了承ください。
材料押出方式 | 光造形方式 | インクジェット方式 | 粉末焼結方式 | マルチジェットフュージョン方式 | |
---|---|---|---|---|---|
おすすめ用途 | プロダクトの簡易的な試作、大型の造形物など | 精密なプロダクトの試作、宝飾品の原型など | フルカラーのフィギュア、美術・撮影用の小道具など | 工業製品の内部パーツや治具など | 工業製品の内部パーツや治具、最終製品など |
メリット | 安価で使いやすい | 精度が高い | 多様な素材や色を調べる | 精度や強度が高く、まとまった量も生産しやすい | 最終製品にも使える仕上がり |
デメリット | 仕上がりのクオリティは他の方式に劣る | 洗浄や二次硬化など後処理が必要 | 劣化や変色などが起こりやすい | 仕上がりはザラザラする | 仕上がりはザラザラする |
仕組み | 固形のプラスチックなどを溶かしながら重ねていく | 液体レジンを光で硬化させる | ノズルから噴射したインクなどを硬化させる | 粉末状の素材を熱で焼結して固める | 粉末に熱を加えて融合する |
素材 | プラスチックなど | 液体レジンなど | フルカラー樹脂など | 粉末ナイロンなど | 粉末ナイロンなど |
SLA/DLP/LCDの違いは?
光造形における3種類の造形方式の違いについて見ていきましょう。
本記事では「造形スピード」と「精密さ」に焦点をあてて比較していきます。
造形スピード
造形スピードの速さでいうと、DLPとLCDはほぼ同じ速さで、SLAが一番遅いです。
理由は以下になります。
まず、DLP(Digital Light Processing)は、液体樹脂にプロジェクターを使って面で紫外線を当てて造形していきます。面で造形するため、造形スピードが速くなります。
LCD(Liquid Crystal Display)も面で造形していくためスピードは速いです。DLPと異なる点は、プロジェクターではなく液晶ディスプレイを使用するということです。
最後にSLAですが、先ほど述べたように紫外線レーザーを点で照射し、一筆書きの要領で造形していくため、造形スピードは上記の方法に比べて遅くなります。
精密さ
結論から言うと、精密度の高さはSLA→LCD→DLPの順番です。
まず、SLAは先ほど述べた通り造形スピードが遅いです。しかし、紫外線レーザーが1点に集中して照射されていくからこそ、複雑で細かな造形も高精度で出力が可能になります。
次にDLPとLCDについてですが、点で造形していくSLAとは異なり、造形物が大きくなればなるほど完成品の解像度は下がり、ゆがみも発生しやすくなります。
しかしLCDでは、高解像度のパネルを使用することでこれらの問題を克服しています。
以上の理由から、SLAが一番精密度が高く、続いてLCD・DPLという順番になります。
一方で、LCDパネルは熱と紫外線に弱いため、定期的な交換が必要になります。中長期で見ると、LCDのランニングコストはDPLよりも高くなりやすいというデメリットがあります。
光造形3Dプリンターの選び方
ここからは、光造形3Dプリンターを選ぶ際のポイントについて解説していきます。
押さえておくべきポイントも紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
用途
まずは「何(造形物)を」「どのような用途」に使いたいのかを明確に決めましょう。
光造形で特におすすめの用途は、
・試作品の作成、プロトタイピング
・フィギュアやアクセサリーの原型 などです。
価格
光造形3Dプリンターの価格帯は幅広いです。
10万円以下で買えるものもあれば、1,000万円以上するものも。
価格は造形できるサイズや、レジンの自動補充機能・専用ソフトウェアの有無などによって変わってきます。自分が造形したいものの大きさや、どのような機能を必要としているのかを基準に、3Dプリンターを選びましょう。
また、3Dプリンターごとに使用できる素材の種類が異なるだけでなく、素材も種類によって価格が上下するため注意が必要です。
このように、光造形3Dプリンターの機材や素材の種類は数多くあります。「何を選んだらいいか分からない」「もっと気軽に光造形3Dプリンターを使用したい」という方には受託造形サービスがおすすめです。
DMMのおすすめのSLA素材
ここで、DMM.make 3Dプリントにおいて、SLAにご使用いただける素材の一部についてご紹介します。どの素材もプロトタイピングや機能試作、最終製品化など幅広い用途がありおすすめの素材です。
試作プロレジン|SLA
耐久性、耐水性に優れた安価なレジン素材です。
低価格ながら、靭性と強度に優れており機能試作などにもお使いいただけます。プロトタイピングや機能試作だけでなく、部品・工具・パーツなどに幅広くご利用いただけます。
光造形樹脂樹脂の精度・表面の滑らかさに加え、0.1mmの積層ピッチで造形することで短納期を実現しています。量産対応も可能な素材です。
詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
【安くて短納期】DMM.make 3Dプリント素材紹介「試作プロレジン|SLA」
エコノミーレジン|SLA
大型造形可能な安価なレジン素材です。
低価格でプロトタイプを製作する用途に最適で、量産にも対応しています。
ABSライク|SLA
ABSに近い物性を持つ安価なレジン素材です。
取り扱い素材の中で造形サイズが最も大きく、大型の造形のご注文にも対応しています。量産対応も可能な素材です。
その他光造形素材
以下の素材はSLAと名前は異なりますが、SLA方式で使用する素材ですのでご紹介します。
ゴムライク|LFS
LFSとは「Low Force Stereolithograph」の略で、Form3で出力されたElastic 50AというショアA硬度50Aとなる軟質ゴムライク、あるいはシリコンライク材料です。
曲げ、伸び、圧縮等の負荷に強く、それらの環境下でも割れずに元の形状に戻ることができます。
シリコン部品の試作品や衝撃吸収部材、ワーク受け用の治具、ピックアンドプレースロボット等のエンドエフェクタ、ウェアラブルデバイスの試作品など幅広く活用されています。
ABSライク|LSPc|NXE400
LSPcとはNexa3Dが開発した独自の技術「 Lubricant Sublayer Photo-curing 」の略です。
ABS相当の強度を持つ、超高速造形の量産向きABSライク素材となっています。
造形速度が早いため、他の取り扱い素材と比べて比較的早くお届けすることができます。
気軽に光造形を利用したい場合は、外注がおすすめ
以上、光造形について解説してきましたが、いかがだったでしょうか?
光造形は、圧倒的な高精度と造形スピードを誇る造形方式です。利用できる素材も多く、プロトタイピングから最終製品化にまで利用できる点も魅力的ですよね。
しかし、3Dプリンターを購入するとなると導入コストがかかってしまいます。また、設置場所の確保や機材のメンテナンスも必要になります。
そこでおすすめなのが「外注サービス」です。
外注サービスを使えば初期費用を抑えられますし、造形したいときにだけ利用できるので、ランニングコストがかかりません。
また、DMM.make 3Dプリントでは、
・即時見積もり&最短翌日出荷
・費用が国内最安値級
・高品質なプリンタを導入
などなど、お客様のニーズに合わせたサービスを提供しております。
ぜひお気軽にお問い合わせくださいませ。
また、よくあるご質問と回答はヘルプページにて記載しておりますので、こちらも参考にしていただけたらと思います。
皆様のご利用、お待ちしております。